こんな歌を詠みたいと、ずっと憧れている歌人。日高堯子。彼女の第九歌集『空目の秋』を詠んだ。


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・『明月記』の廃墟の中よりわれは聞く美しきこゑ執念(しうね)きことば

()(ぼくろ)のやはらかき声そのむかしそのむかしへとうらがへりゆく

・まれびとといふ神ありき塗り椀の蓋をあければなつかしき靄

・たまのをよたえねと誰かしろがねの午后四時の風に竹の葉が降る

・「わたしはいつ死ぬのかしら」ときく母に「あしたよ」といふ あしたは光

・夏は来てましろ卯の花なだれたりこの世の崖に母捨てられず

・あぢさゐの朝な朝なに青深むふかしぎとしていのちありたり


 2014年から2018年の作品470首を収録。おそらく母上の介護のためであるのだろう、自宅と実家すなわち都市と里山を行き来する暮らしの中で、自然の風景や人間の生死をいやおうなく見つめることになった、とあとがきに記す。


 1988年の第一歌集『野の扉』からすでに、日高にはアニミズム的な感覚が顕著であった。それは後日、『山上のコスモロジー 前登志夫論』として客観化され、作歌手法として確立された。


 本書においてもその作歌方向に大きな変化はない。ただ、都市と里山の往還の日々は、物理的にも思索の面においても、現実と非現実の継ぎ目を不明瞭にした。これまで以上になめらかに、日高は千年という単位の時間を、また生物の種を、いや生と死のあわいを飛び越えて、発語する。短歌という不死の運動体の手を借りて。


 掲出作品、七首、どの作品の背後にも静かに流れる時間がある。時間という縦軸を自在に往還し、そこから今という時代を逆照射する作者。また都市と地方との往還は水平方向の軸を伸長し、結果、作者の作歌のフィールドは大きな広がりを見せている。


 さて、本歌集のタイトル『空目の秋』、「空目」とは何だろう。「あとがき」より引く。


・これまでもっぱら魂の領分を好んできたわたしですが、父母の生死にかかわる時間が多くなるにつれ、しだいに生命や身体への関心も増えてきました。そうした中で出会ったのが、福岡伸一氏の『動的平衡』(木楽舎)にある「空目」でした。(中略)福岡氏はこの言葉に新しい息を吹き込んで、これは単に幻視のことではなく、ランダムなことがらに対して特別なパターンや関係性を見てしまう脳の癖だと言います。それを読みつつ、わたしは自分が歌ってきた〈時の風景〉も〈自然の情景〉も、この「空目」に深くとらわれていたのではないかという思いを強くしました。また同時に、そういう目の仕組みを知ることで、わたしの生命幻想の枠がいくらか解き払われたとも感じています。「空目」を歌集名に据えたゆえんです。


 「空目」とは、脳の癖。そう言われてしまうと身も蓋もないが、たしかにそうかもしれない。私が日高作品に惹かれてやまないのも、どこか似たような脳の癖があるのかもしれない。


・霊魂はいづこと問はば笑ふべしたましひ好きの日高なりしと


 これは結社「かりん」で日高の盟友であった小高賢への挽歌である。小高の不慮の死は多くの人を嘆かせた。その早すぎる死に際し、魂はいまだこの世に留まっているのではないか、と考え、問う日高に「相変わらず、魂の話が好きだな、あなた。」と返す小高。脳の癖は全く違っていたであろう二人の時空を超えた交歓が慕わしい。


 日高が挙げている福岡伸一氏の『動的平衡』。恥ずかしながら未読なのだが、ぜひ読んでみたい一冊だ。ウィキ先生に尋ねてみると、「動的平衡」とは、一見変化がないように見えるが、それは創造と破壊のバランスが取れていて、結果動きがないように見えている状態なのだという。だとすれば、私たちのこの平凡な日常は実は創造と破壊の危うい均衡の上に成立していることになる。静謐さの中にも緊張感のある日高作品。それはこの危うさを誰よりも体感しているゆえなのだと気づかされた。


創造の名のもと破壊を繰り返し自己破産するしかない地球



*昨日のななみさんの宮武外骨、1月17日のTwitterで、福岡伸一氏が採り上げていました。シンクロですね。



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今年の全国短歌大会の選者に日高堯子氏が。
お話聞きたいなあ。




# by minaminouozafk | 2019-01-29 09:48 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(6)


 もうすぐ平成が終わる。

忖度という言葉がいまも社会をややこしくしている。ちょっと前にはKY、空気を読めないことはダメなことだった。過ぎたるは及ばざるがごとし。空気を読みすぎると忖度になる。小心者の私はもやもやしながらこれでは良くないと思いつつもなんとなく流されている。

せめてテレビのコメンテーターや論説委員などがズバッと斬ってくれるとスッキリするのだが、このごろはほとんど期待できない。最近、どこかで読んだ雑誌で反骨のジャーナリスト宮武外骨の名前を知った。その記事の内容と外骨というインパクト大の名前。帰ってネットで調べてみた。権力揶揄による入獄4回、筆禍は29回。過激にして愛嬌のあるとびっきりの諷刺家だ。さっそくアマゾンで3冊ほど文庫本を購入。ちくま文庫や河出文庫で古本なのでそれぞれ二百円ちょっと。送料のほうが高い。


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 まだまだ丁寧には読んでいないが、外骨の甥である吉野孝雄編の宮武外骨自叙伝の「予は危険人物なり」から枠におさまらない奇人変人ぶりがわかる。18歳で自分で外骨と戸籍上の名前を変える。20歳で輸入された最新式の自転車を購入して乗り回す。結婚5回。「スコブル」「滑稽新聞」など200点近い新聞、雑誌、書籍を発刊。


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滑稽新聞116号表紙

 赤瀬川原平の「外骨という人がいた!」は雑誌の写真も多く愉しく読みすすめる。34歳で創刊した「滑稽新聞」は月2回発行で8年も続いた。その編集方針は〈威武に屈せず富貴に淫せずユスリもやらずハッタリもせず〉〈癇癪を経とし色気を緯とす過激にして愛嬌あり〉



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滑稽新聞116号裏表紙


 警察の収賄事件、政治家の汚職、裁判の不公平など誰であっても次々とヤリ玉にあげる。文章だけではなく、似顔絵・イラスト・図表を駆使して風刺、批評、罵倒するのだ。いまではセクハラになるものも多数。



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口は法螺貝・目は10円・眉毛は筆・鼻はお尻・顎は鉤


 山口県出身の初代総理大臣の伊藤博文の好色漢ぶりの描写もすごい。山県有朋は「毒にもならず薬にもならぬ人間ゆえ、何時死んでもさしつかえなし。」ちょっと可哀想な感じもするが事実なのかもしれない。


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 河出書房からは宮武外骨著作集の全8巻も出版されている。河出文庫やちくま文庫にも数冊。NHKの平成21年の歴史秘話ヒストリアで取り上げられている。


 日本が戦争へとむかっていく時代、晩年の外骨は東京帝国大学の職員となり、明治時代の自由な新聞や雑誌を集め続けた。そのおかげで「滑稽新聞」も「スコブル」もそのままのかたちで見ることができる。


 〈過激にして愛嬌あり〉の宮武外骨はなんとなくチャップリンにもかさなる。今この国で宮武外骨のような反骨のジャーナリストの再来をひそかに望んでいる。


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自殺号・ピカソ的なキュービズム






絵あそびあり文字あそびあり反骨の宮武外骨いま黄泉がへるべし










# by minaminouozafk | 2019-01-28 06:00 | Comments(7)

 この冬は案外暖かな日が多い。しかしわが家はエアコンが一室ずつしか効かないので、廊下や洗面所などは寒い。日中外出をしない日はエアコンを切りたいが切ってしまうとそれはそれで寒くなる。そこで考えた、衣類で暖かくすれば良い! 厚着はしたくないのでヒートテックの下着を着ることにした。


 娘たちがワンピースやスカートの下にレギンスを着用していたのを思い出し、真似してみた。長袖のシャツも着てみる。ユニクロで靴下も短いものとハイソックスとを買って履く。
 タートルネックのセーターとスカートの下にそれを着込んだら本当に暖かく、晴れた日はエアコン無しで過ごすことができた。と、ここまでは良かった。


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 1月24日(木)から二泊三日の函館、登別の温泉ツアーに 参加した。1日目の夜に函館山に直行で夜景を見るかもしれないとあるので、しっかり防寒対策をして出かけた。もちろんヒートテックの下着とソックスを着込んで。
 その結果、飛行機の中や空港で暑くて大汗をかいた。ヒートテックの威力を遺憾なく発揮してくれた下着を恨めしく思いながら過ごす時間は結構長かった。

 ところが函館山のロープウェイは悪天候で休止、夜景はお流れでそのままホテルでの遅い時間の夕食となった。
 北海道では建物の中は九州などより高い温度設定が普通だとかで、ホテルも暖かいと言うよりも少し暑い。「過ぎたるは及ばざるがごとし」を寒さに気を取られ過ぎた結果、身をもって体験することになってしまった。


 目黒のさんまではないが、ヒートテックは九州のわが家に限る、というお話。


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                        函館ハリスト正教会、(撮影1月25日)



 
             ヒートテック下着で冬に汗をかくわたしにくださいメロンのアイス


# by minaminouozafk | 2019-01-27 07:00 | Comments(6)

 今週から郵便局の窓口で、年賀はがき・切手の当選賞品への引換が始まった。今年は三等のお年玉切手シートの当選番号が三つとなって、確率は去年までの二つに比べて1.5倍になっている。そのせいか、初日から多くのお客さまが交換に来局した。


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 猫好きのみなさま、お待たせいたしました!今年の賞品の切手シートには、なんと長いことその登場が待たれておりました、われらが猫さんが登場いたしました。


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 昨年のこのブログでもとりあげて、拙歌ではありますが次のように詠みました。


   お年玉切手シートに登場のお声かからず猫のモヤモヤ


 この声が届いたのか(そんなことはありませんっ!)、私の記憶では初めてお年玉切手に十二支に入っていない『猫』が描かれているのです。

みなさま、お手元のはがきの番号をご確認の上、7月22日までに郵便局の窓口をおたずねください。今年は、年号が変わるのを記念してもう一度4月20日にダブルチャンス賞の抽選がありますので、外れた方もいましばらく、書き損じの交換もあとにしてお待ちください。


 私は二枚当たっていました。ちーさま、ありがとうございました!!


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   平成の最後をかざるお年玉切手シートの猫まねく福


# by minaminouozafk | 2019-01-26 10:54 | Comments(6)

毎年、紹介している実家の裏庭のふきのとうの成長を、この冬も楽しみに帰るたび覗いている。が、なかなか育たない。莟は沢山ついているのだが固いまま。そういえばこの冬は雨があまり降っていない。

三日に訪ねた太宰府の御笠川でも、昨年は水が豊かで大きな鯉が泳いでいた写真をアップした。今年は水流もか細く干上がって、あの鯉たちはどうしているのだろうと心配になった。

福岡県内のニュースでも場所は失念したが川の水量不足で消防出初め式の祝賀放水が中止になったというニュースを見た。

「福岡市政だより」のダムの貯水量を見る。(平均値は昭和49年から平成15年の30年間の平均)

2018年11月1日  61.16%(平年値63.13%)

2018年11月16日 57.47%(平年値64.33%)

2018年12月4日  51.13%(平年値64.55%)

2018年12月18日 48.08%(平年値63.94%)

最新版は休刊なのでネットで検索。

2019年 1月23日 34.94%(平年値60.99%)

 目に見えて減ってきて、ふと昭和の大渇水が思い出される。福岡は政令市で唯一、1級河川がなく、水源の約3分の1を筑後川に依存して「節水型都市づくり」を進めている。そういえば、トイレのタンクに手洗いが付いているのも昭和の大渇水からだと教えてくれたのはユリユリだったっけ。

まあ、そこまで心配することはないと思うが、天気予報でも連日乾燥注意報が流れ、昨日アナウンサーがついに節水を呼び掛けた。

 雨は降って欲しいけれど、昨今、怖いのは地球温暖化に伴う大雨災害。

毎年どこかで発生する異常気象。渇水と洪水は隣り合わせなのだ。

降るのは小出しでね。と新春早々危惧するわたし。

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       晴れをんなのわたくしけふも申し訳けなく外出(そとで)する春をさがして


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# by minaminouozafk | 2019-01-25 06:59 | Comments(6)

昼下がり  鈴木千登世

休日出勤した昼下がり。どうしてだかわからないけれど、いつも違う道を通って帰りたくなった。郵便局の側を通る道に入った途端、唐突にお菓子の予約をしていたことを思い出した。お世話になった方に心ばかりにと予約したのにすっかり忘れてしまっていた。明日は店休日。あぶないところだった。

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そのお菓子は「もなたん」。

以前にもご紹介したことがあるけれど、大内人形をモチーフにした最中で、とにかく可愛らしい。喜んでいただけるのではと思ったのだ。

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「もなたん」の側に飾ってあった大内人形。作者によって表情が微妙に違っているのも魅力のひとつ。

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大内人形とセットの商品も。


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いつも、歌会を行うふるさと伝承センターの近くにある「風月堂」は昔ながらの和菓子屋さんのたたずまい。2個入りを買ってお店を後にした。


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風月堂の斜め前は八坂神社。境内の傍らにはレトロな写真館がある。

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お天気の良さに誘われて、そのまま一の坂川沿いに出て、遅いランチを取ることにした。


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入ったのは、ラ・セーヌという喫茶店。山口県支部長だった山下清司先生がよくいらしていたお店。ここに入る度に先生のことを思い出す。

桜はまだ枝ばかりだけれど、あと2ヶ月もしたら蕾がふくらみはじめるだろう。ガラス越しに午後の暖かい陽が差し込んでくる席に座ってとりとめのないことを考えながらゆっくりとお昼を食べた。


わずか一時間ばかりのことだったけれど、気がつくとざわざわと波立っていた心が凪いでいた。


冬の陽の温みを受けてある生の窓辺にきんをこぼす蠟梅


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わが家用にも買ってしまった。





# by minaminouozafk | 2019-01-24 06:00 | Comments(7)

ルオー展  有川知津子


北九州市立美術館(本館)で、企画展「ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ」があっている。



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                《ヴェロニカ》


東京展を終えて、北九州展は12月の半ばからはじまった。



歳晩の町で、ルオーの《ヴェロニカ》や《サラ》を見かけるのは、ちょっとよかった。



それはチラシやポスターだったけれど、慌ただしさに雪崩れてゆきそうな気持ちが、それほどでもなくなっていることに気づくことが何度もあった。



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この人のおだしき貌を見よといふ《受難》描きてジョルジュ・ルオーは




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会期は2月17日まで。



# by minaminouozafk | 2019-01-23 06:07 | Comments(7)