ブログ記念日27

 二週間くらい前になるのだろうか、丸善ギャラリーで北欧のクリスマス雑貨マーケットを開催していた。充実してはいるものの、あまりの忙しさに疲弊していた私はついふらふらと会場に入ってしまったのだが、瞬間「あらっ?」と驚いた。そこにはどう見てもスタッフとしか思えないお二方が値札付けをしたり、販売用の北欧産の布を切り分けたりしていたからだ。「え、まだ開店ではなかったのかしら?」怪訝な顔であっただろう私に頓着することなく、作業を続けるお二人。まあ、いいか、と展示会場内所狭しと置かれた北欧雑貨を堪能。どれもみなほっこりと暖かい。

 新品ももちろんあるが、味わい深いのは圧倒的にアンティーク。中には今となっては珍しい刺し子のタペストリーがあり、しかも信じられないくらい安い。あまりにも驚愕してしまったので、その訳を聞くと、50年以上前、北欧のおばあちゃんたちが冬の手仕事で自分たちのために作った品々が今、代替わりするタイミングで若い世代の人々から放出されているのだそう。それを残念に思ったオーナー(現地在住の日本人女性)がそうした品を買い集めて、価値を理解してくれる方々にお分けしたいと思ったのが、この仕事を始めたきっかけとのこと。なるほどなあ。往復の旅費とか、送料とか考えたらこの価格では利益は見込めないはずだ。商売として考えた場合、この企画展の評価はなかなかリスキーである。

 でもこの人の幸せそうな表情はなぜなのだろう。人生の豊かさを信じているこの安らかさは何なのか。その秘密を知りたくて、つい件のタペストリーを買ってしまった。その日からなんだか居間が暖かい。


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件の刺し子のタペストリー。
細かな細かな手仕事です。


 みなさまのおかげをもちまして、「南の魚座 福岡短歌日乗」、27回目のブログ記念日を迎えることができました。2018年、もうすぐ終わりますが、当ブログはまだまだ続きます。今後ともよろしくお願い申し上げます。



山霊のこゑ   藤野早苗

切支丹でうすの魔法 女子高生が西鉄電車で公彦に遇ふ

レコジャケの裏なる小さきクレジット NO synthesizers 女王の誇り

秋深む宇津ノ谷峠たづねきてうつつにぞ会ふ山霊のこゑ

宮仕へかこつ日記をものしたるうたびと明き月仰ぎけん

めくる手の時に加速し停滞し『明月記を読む』未読了なり


見えぬもの   鈴木千登世

手をつなぎ園に入りゆく二人子のちひさき決意秘めたる背中

うつすらと色づき一気に変わる葉の紅葉が照らすこの世さゐさゐ

蔦の道歩くを思ひ週末を思ひ仕事の日々暮らす

少しづつ目鼻のちがふ雛たちがほのほのと笑む微笑(みしょう)曼荼羅

ぼんやりと見ているだけでは見えぬもの冬の海へと参道は伸ぶ


銀貨   有川知津子

コスモスの花のあはひを(くだ)りゆけりときをりせせり蝶を立たせて

人形にひとみ点ずるたまゆらの記録遺りぬ国宝なれば  *「鹿児島寿蔵の人形と短歌」展

祈りとは灯をともすことともしびに暗くかがやく当麻曼荼羅  *特別展「浄土九州」

すなはまにうづもれてゐる秋の壜ひとの伝言いづこへゆきし

敷石にささる銀貨に入りゆきいのちは羽根をうごかしはじむ


母のほほゑみ   大野英子

蚊が住みて汚れちまつたわが視界羽音せぬこと良しとうべなふ

錦秋(きんしう)の深まる山路をひとびとの孤独を乗せてゆく墓地のバス

わたくしを抱くやうなる四つ塚の冬の陽ざしは母のほほゑみ

初冬の陽のぬくとさにふふみたりイヌマキの実と冬苺の実

傘寿すぎし夫婦が育て摘むといふ山肌を這ひ昇るみかん園


いちやう落ち葉   栗山由利

平積みの本よりゆかし店奥の書棚にならぶ文字のつぶやき

ぐぐぐつと押し込んできた白黒の鉢われ猫が胸に住みつく

いつぴきがくわはりかはる関係をたのしむ私もかはれるだらう

煽られていちやう落ち葉が道わたる人を追ひこす師走の風に

舗道脇に散りしくいちやう落ち葉踏み足につたはるあたたかさ聴く


一反木綿   大西晶子

日本の山野やせたり月の夜に遠吠えをするおほかみ失せて

貼り換えのすみたる障子しらじらし子と孫去りし部屋に陽のさし

風にのりアラビアへ飛べ置き去りにされて寂しき一反木綿

母の住む博多に帰省するたびに寿蔵を迎へきあかつちの山

鍵盤をはしる手待ちつつねむりゐん博物館のピアノの無音


ほんの一片   百留ななみ
ブルーシートが黄金(きん)の公孫樹の背景なり日田彦山線の代行タクシー
蒼空の碍子の白のきらきらし知つてることはほんの一片
赤も黄も黒も晴れやかモロッコの香月泰男の砂子のひかり
モドキとは似て非なるものちちちちちクダマキモドキは控へめに鳴く
駅までのてんじんさまのほそみちは休日なれど人影まばら


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by minaminouozafk | 2018-12-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日26

今年はオガタマノキの実の成長に興味を持って、宮地嶽神社に何度か見に行った。最後に行った時に実の中に朱色の種ができていることが分かったが(当ブログ1028日)、さてその後どうなったのかが気になり先日再度見に行った。


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枝には実がまだ少し残っている。先月来た時にはピングが美しかった皮が裂け、中の種が直に枝に付いているように見える。皮はまだ色が残っているものもあるが、乾びて茶色になったものある。樹の下の砂利の上には茶色の皮(殻)と朱色の種が点々と落ちていた。命をつなぐ樹の仕事はひとまず終わったと言えるだろう。

オガタマノキの3月の花から実が裂けて種を落とすまでにブログ記念日が7回過ぎて今回で8回目になる。季節が移り変わっても途切れることなく続くこのブログ。樹の営みに似て一つずつ重ねていく文章と写真。これからも大切に続くことを祈っている。


鹿児島寿蔵展   大西晶子

泣き顔と笑顔とふたつ面持つ寿蔵の人形は銘「両面童子」

「南海の夢」とふ人魚の人形あり尾を机にし香炉の香きく

朱の種をオガタマノキははぐくめり花のごとかるももいろの実に 

若かりし江口章子の写真にて一途さあらはな真黒きひとみ

堀の面の空とやなぎをゆるがせて曲がりゆきたり空どんこ船


くぷくぷ   百留ななみ

モノクロのドット紋様がキュートなりアサギマダラの蜜を吸う顔

この夏に乗りし線路をゆつくりと色えんぴつで白地図に描く

碧翅の花粉をはらひハナムグリ 放物線で朝空に消ゆ

クリークに生まれ流れて消えそしてまた()るる(せい)くぷくぷとあり

新入りの朱き鯉の子つどふなか鯔の子たちは機敏によぎる


クロノスの鎌   藤野早苗

花よりももみぢことさら身に沁みて五十六歳さくらを見上ぐ

胸の鳩とうに飛び立ち背に猫首に猪を飼ふ齢となれり

切り結ぶ覚悟はあるか 咽喉元にクロノスは鎌押し当てて問ふ

言の葉の種を蒔くべしかなしみに耕されたる胸の沃土に

牧水の恋の顛末読む夜の闇は凝れり蜜の重さに


水城   有川知津子

かたかたと秋のかぜ吹き虫籠の蟬のぬけがら崩れはじめる

鷗外の憩ひし縁に坐してをり風のすがたのあらぬ秋の日

野茨の秋のいばらをくぐり来て革命のごとく夕顔ひらく

あきざくら群れて咲きをりいにしへの人の願ひの〈水城〉のほとり

大いなる〈水城〉のことを話さうか余談の好きな生徒のために


とんからり   鈴木千登世

伏し目して夕影見つむまなざしの深く澄みたる女院と思ふ (永福門院)

鶴女房には遠いけどとんからり風の糸にて筋雲織りぬ

海を渡るてふてふの()を香りなき匂ひで誘ふ花藤袴

木に冬と書けばひひらぎまだ固きつぼみの中に風の子眠る

身にいくつ金属を埋め生くる生さびさびとして五十も半ば


赤い魂   大野英子

歌会をふたり小声で語り合ふ機窓のあをぞら闇となるまで

ただ一度訪ひし日向にワープするまだ父母が待ちゐしころの

ほろほろと朝露こぼす秋の風首に冷たく蟻はもうゐず

ブザー音鳴り、進行表めくる手が少し震へてやがて開会

背後から聞こえるうんちくまた楽しぶわつとあがる赤い魂


花かんざし   栗山由利

手入れせぬカボスを無農薬と言ひおすそわけする ありがたきかな

朱の鳥居くぐるをさなの桃割れの花かんざしに秋の陽とまる

花の香がほうとひらいて菊花茶のわうごんいろを透ける秋の陽

弾けとぶ声なき午後のキャンパスに蟬声だけがながく尾をひく

うけついでひきわたしてゆく人たちの知識のたすきの古書の香をかぐ


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by minaminouozafk | 2018-11-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日25

今日で25回目のブログ記念日。

流れるように過ぎる日々に読点を打つかのように巡ってくる記念日。


金木犀の甘い香りが部屋の中まで漂ってくる。ようやく涼しくなったと思ったら、今年もあと3月となっていた。何をしてきたのだろうと愕然となる。起きて、仕事へ行って、帰って、眠って……の繰り返しの私の日常に短歌(とブログ)がなかったら、日々は過ぎ去るものとなってしまいそうだ。

何でもない日々が、言葉によって掬われると忘れがたい特別な景として心に刻まれる。

歌という形にすることで鬱屈したこころが整えられ、明日へ向かう気持ちが少しばかり湧いてくる。自分でない他の人の作品の言葉や調べ(それは他人の視線や思想)に揺蕩いながら、目をひらかれ、また知らないどこかへ導かれてゆく快さ。短歌と出会ったことで多くのものを得られたように思う。

読んでくださる方々や陰で支えてくださってる方も含めた南の魚座のメンバーに感謝しつつ、また次の1月を進んでゆきたい。


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マジックアワー   鈴木千登世

言葉なく足湯にひたる傍で夫は目を閉ぢ天に向きをり

ああやはり「おまへは何をしてきた」と風が吹くなり中也の風が

シルエットうつくしくなるゆふぐれのマジックアワーとふ神の賜物

秋に咲く桜さくら子時知らぬ桜さくら子 咲くときが時

くつくつとりんごを煮をり火の傍に座り文庫の本めくりつつ


花のこゑ   大野英子

雲のなきあしたの空の白き月はんぶん隠れてわれを見下ろす

雲ながくみつめつづけてゐるうちに過去へと戻りゆくやうな秋

葛の花匂へる秋を待ちわびてまづは葉陰の花のこゑ聴く

活力でここまで育つてきたぞつて不敵な笑みの葛の花言ふ

壁面がわうごん色の市ヶ谷に〈夕焼け小焼け〉鳴る十七時


未来予報   栗山由利

あまたなる生まれなかつた鮭の子が口で溶けゆくとろおり秋の日

とりあへず新聞ひらき一日の情報つめてエンジン始動

高空を悠々すべる鳶ににて平成の鳶は足場をわたる

風やみてとほく近くの虫の声寒くなるぞと季をおしへる

来年のカレンダーに書く未来予報なりたい私を太書きにする


ほんの入り口   大西晶子

秋は今ほんの入りぐち子供らのいまだ気付かぬ青きどんぐり

目の澄める烏賊得てかへる道々に大豆のみどり濃き畑ひろがる

皮、果肉すてたる今は繊維のみしろく乾けるへちまの束子

想い人に文遣るごとく顔しらぬうたびとたちに歌評を書けり

投稿の歌で知りたりとなりまちの対馬みるとふ対馬見山を


夏眠   百留ななみ

つゆくさの群れ咲く墓地で聞いてゐる運動会の玉入れのこゑ

たつぷりの夏眠のあとのかたつむり土塀の上を堂々とゆく

新米のおにぎり旨し()の赤の剃刀花は不動明王

蟻ん子の足あと見える斑猫と見えない人間おんなじいのち

きらきらし夏眠の夢で見し萩の白花のなか舞ふしじみてふ


登龍門   藤野早苗

わうごんの鱗かがやく六六魚登龍門をさかのぼりつつ

天神のご加護たまはり台風の進路南下す贈賞の日の

解き洗ひして陽に干せば百代をはたらきさうな紬の着物

一着の着物を解けば八人の長き短きイッタンモメン

ちちよちよちちよ縫ひ針刺してまた抜いて千鳥のあしあと残す


気泡   有川知津子

四つ星の矢座探しをりまだ恋を知らぬ子どもら島に遊びて

澄むといふことのしづけさ秋空は会ひたきひとを映せるかがみ

あめつぶにつつまれやすきわが嗄声救はんと傘を差しだすひとり

馬小屋のありしところは晒されて秋をいちりんつめ草咲けり

海層を上りゆきたりぎんいろの硬き気泡につつまれながら


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by minaminouozafk | 2018-10-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(6)

ブログ記念日24

 日本の南から発信を続けてもう二年と一カ月が過ぎた。お読みいただいているみなさま、ありがとうございます。


 最近の相次ぐ災禍に驚き、自分の無力さに立ちすくむばかり。何もできない自分に、それでも何ができるのか。文芸は無力なのか。考え続けたいと思います。


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浜灌頂   藤野早苗

数学が得意であつたら 仮定法そこに広がるわが()茫漠

これやこのマジックボックスPCに向かへばフリーズしたり脳は

1/f(えふぶんのいち)の揺らぎを含む声宝満下宮の神域に響る

宝暦の武者、(あやかし)らよみがへる浜灌頂の大灯籠に

台風の災禍、震災あきつしま透き羽傷めし蜻蛉が飛ぶ


紙の図鑑   有川知津子

どのやうな掟があるといふのでせう夢に来てひとはほほゑむばかり

畳目に沿つてたたみを拭く作法伝へたき子はもう駈け出せり

枝折りして山を歩けるひとのあとまた枝折りつつ歩けりむかし

日輪の下をゆきかふ蟹の群れときのまわれの前をゆきかふ

茅蜩がとうしんだいで載つてゐる図鑑ほしいの紙のがいいわ


もんきりあそび   鈴木千登世

天の日を浴びて開ける花オクラひかりの色の花びらを食む

思ひ出は青いみかんに秘められてゆつくりじつくり醸されてゆく

梨の実をさくりさくりと食んでをり 秋風いろの甘き梨の実

くきくきと鋏で切りぬ江戸の世の人を思ひてもんきりあそび

抱き萩と対ひ兎を切り抜きて秋を招きぬ紀州の盆に


晩夏のからだ   大野英子

翅おとをばさりとたてて朝空のはるかを目指す鳴かぬクマゼミ

草取りを終へてしづかな昼の庭風がときをりひかりをこぼす

へんぽんと白いスカートひるがへす風に乗りたい休日の昼

迎へ火も送り火もせず夕空のなかなる父母を探してゐたり

花オクラ、豆腐、アカモク喉越しの良きものを欲る晩夏のからだ


小さき願ひ   栗山由利

セーターが電車とおなじ色でしたどうしてるかな〈電車さん〉今

とぢあはす手の中にあるをさな子の小さき願ひはまだ白きまま

手の中のまだまつ白のをさな子の願ひは小さく羽ばたいてゆく

とつぜんに揺り起こされた休眠脳働きはじむ「我要加油」 ※私は頑張ります!

あつちにもこつちにもいい顔をしてAlexaはもうよき同居人


灰雪   大西晶子

敗戦は遠きできごと八月を灰雪のごとさるすべり散る

望郷に泣くものあらん火星から地球をあふぐ未来の人類

苦瓜の葉陰にをりし守宮らは棲み処の失せていづこであさる

外壁の塗装用足場組まれたり明日よりネットに包まれ暮らす

亀甲の紋ある煎餅を両の手でもちて食べたりをさなごわれは


ぬけがらの穴   百留ななみ

霧ふかき高原ほのかに浮かびゐる松虫草のうすむらさきいろ

吾亦紅、萩、野菊、葛、松虫草、尾花、秋桜 われの七草

ニンゲンも魚もスズメもひたすらに秋を待ちわぶ残猛暑日なり

17音プラス14 あかねいろの空から降つてくる言葉待つ

数珠玉に糸通ししは数珠玉の花の末枯れし抜け殻の穴


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by minaminouozafk | 2018-09-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日23

毎月11日のブログ記念日ですが、8月は特別です。「南の魚座」二周年を迎えました。

初めてのことで、一生懸命だった一年目、二年目は少しばかり肩の力も抜けたでしょうか。この一年の間に一周年記念号を発刊いたしました。

毎日の小さな一歩の積み重ねのちょっと大きな一歩でした。


三年目に踏み出しました。読者のみなさま、これからもよろしくお願いいたします。


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出番を待つ新幹線車両



夏ど真ん中   栗山由利

夏の陽が直滑降でめざす先ブラックベリーはむくむく太る

辻道を舁き山が走りわざわひをはらひて街は夏ど真ん中

さくさくと育つオクラにありがたう規格は人のわがままだから

テキストをひらけば街は近くなり上海、成都 朋友

出番まつ車両は大きく深呼吸してをり白き炎熱の中



蝕の月   大西晶子

金柑の花の濃き香にたへられず窓をとざせり熱帯夜にて

宗像の市の花と植ゑしカノコユリ南の島より来しものと知る

蝕の月赤きあしたをひそやかに繊維そだてるへちまの若実

茅の輪をくぐる人らのさきがけは白衣まぶしき神職と巫女

まかれたる切紙ひろひ玉砂利をきよめる人あり祭の果てて



公孫樹の葉っぱ   百留ななみ
銀杏の白実をゆらす台風は迷ひ迷ひて西へとすすむ
切れ込みがなくなり()しき扇形 公孫樹の齢は葉っぱでわかる
ぎらぎらの太陽光がだいすきな狗尾草のC4回路
てふてふの少なき春はくまぜみのちからなく啼く炎暑となりぬ
バナナ売るもも売る馬関の露天商 汽笛の音の愉しかりけり



をかしの御髪   藤野早苗

むらさきの花に似る名のハルシオン熟寝の床に播くひとつぶは

内向きはさまざまあれど外向きは二人三脚 夫婦はチーム

「推敲のポイント」耽読する真昼逆走台風みんなみに荒る

八月の鋼のごとき陽をかへす強霜置けるをかしの御髪

あたらしく齢重ねるいちにちの夜のきりぎしに白髪なびく



迎へ灯籠   有川知津子
梅雨明けたり向日葵の葉の破れより大蟻ひとつこちらへ出でて
炎帝のくらき吐息が渦を巻くゴッホ描ける渦のごとくに
「とほく」といふ言葉にかかるグラデイションどのくらゐなら遠くへ行ける
母の吊る迎へ灯籠しるべにて祖霊語らひながら帰らん *8月7日
長崎の方を望みてしづかにすナガサキとなりしその刻限を



舞台俳優   鈴木千登世

かなしみの梅雨明けに咲く花槐樹影を小さき風に揺らして

境界を越えて害なす猿の背の光沢(つや)なく乾くそのけむくじやら

涼やかな眼に深く生を問ふ舞台俳優のこゑを忘れじ

選びたる人の面輪を思ひつつ書棚の本の背文字をたどる

暑かつた日といふいつもの夏の日と聞く今年の今日も夏空



単純は良し   大野英子

ただ一羽河口のうみうが繰りかへすもぐる顔出す単純は良し

潮風に吹かれさわさわ揺れだしぬ青葉がしげるわたしのからだ

あおぞらと博多の街を見て育つ固い実青い実あなたはだあれ

ひよつこりと顏出すも驚いてゐるらん熱暑、落雷、豪雨

声のやつとしづまる夕暮れの潮風のなかの夕餉は気まま



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by minaminouozafk | 2018-08-11 09:51 | ブログ記念日 | Comments(5)

ブログ記念日22

〈南の魚座〉は、平成28年夏にスタートしました。
来年の夏は、すでに平成とは違う元号を使っているはずです。
その頃私たちはどのような夏を迎えているのでしょうか。

ここ数日のうちに起こったことを考えると、
一年先を想像するということがあまりうまくゆきません。

そのような中で、
今日、〈南の魚座〉は22回目のブログ記念日を迎えることができました。
唯々ありがとうございます。

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白髭のヴァリエ   有川知津子
こつくりと榊の花は咲きゐたりものの音せぬ梅雨のあかとき
かまきりの卵みつけたその日より父の散歩はしばらく続く
雨粒のひとつひとつに臓腑あるがごとくに乱れ濡れてゆく窓
小学校のまへ過ぎるとき甲高く「コナンくーん」と呼ぶこゑ聞こゆ
セザンヌが最後に筆を入れし絵のそのしろたへの〈白髭のヴァリエ〉

笑顔   鈴木千登世
汽車に乗る我らに向けて振り続く手ありまぶしき笑顔とともに
虹を見るやうな笑顔に長く長く汽笛で応へD51は行く
たましひの芯じんわりと温むる熾火のやうな笑顔のチカラ
意味なんてなくて不思議な響きする言葉がいつぱい子どもの時間
鰐といふ一族ありぬみんなみの波を渡れる海人の生

追熟の時   大野英子
梅の実のゆたかなる香に満ちてくる追熟を待つわたしの時間
塩水にじんわり沈む梅たちのいのちはやがてわれを養ふ
窓際にひかり射しきてベランダの梅はオォなどこゑあげてゐん
天日干しの梅、不可侵の柔さなり夜は部屋内に匂ひをはなち
亡きひとの思ひ出熟す六月の梅のてんじんさまも目覚めよ

ふくふく燕   栗山由利
放たれた矢のごと飛べる日のことを夢みてねむれふくふく燕
かけあひのごとうぐひすの声響く肥後街道は梅雨の青空
林から吹く風のなかに街道を行きし人らのざわめき聞こゆ
なまで聞く大分弁のやりとりににんまり笑ひ土産物買ふ
てつぺんを靄にかくしたビルのねき上海人は速足でゆく

あをき風   大西晶子
手榴弾おもはす糞の落とし主いもむし君の壊したきは何
たつぷりと水をたたへた早苗田にあをき風ふく雨上がりの午後
新生児の小さかりしを言い出せり赤子抱く子はゴーギャンの絵に
モネの絵のひなげし畑に立たせたし洋行せし日の帽子の晶子
ナーベラーのみどり汚しぬ火にかける鍋に醤油と味噌など落とし

からまつ   百留ななみ
空に咲く泰山木の一片が白磁となりて降りてくる朝
ねえデイゴ水先案内たのもうか堂々めぐりのたいせつなこと
這松の雪の斑らな土に坐す目蓋の紅のあはき雷鳥
からまつの生ひたる池の鴨の子の三羽が消えつ落葉松の洞
からまつの林の奥処かなかなの小鳥の声がまつすぐに降る

NIRVANA   藤野早苗
黒川の闇を明滅する螢 みづは甘きか人やさしきか
疲れたる母ら憩へりファミレスのドリンクバーに近き一角
早乙女でありしむかしを縁側で語れる媼 あれはわたくし
早苗、稲、米、藁 五十六歳はイネ過ぎて今ヨネのあたりか
トリカブト、アカハライモリ、猫のヒゲ nireva nirutoki niyo NIRVANA


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by minaminouozafk | 2018-07-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日21

June bride ローマ神話の女神Juno に見守られた幸せたっぷりの6月の花嫁。

6月は水無月、梅雨の季で青水無月ともいう。

きれいな水色のドレス。それにピッタリの ティアドロップブーケ。

Tear drop は涙のひとしずく。


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教会での真白なウェディングドレスのときは白と淡いピンクの薔薇のラウンドブーケだった。

友人の家で手入れの行き届いた咲きほこる色とりどりの美しい薔薇を見たのは2週間前。

水色のドレスにふさわしいアンティークな微妙にニュアンスの違う薔薇の花。テーブルフラワーも優しい色の薔薇。甘い薔薇の匂いが立ちこめている。


今年の薔薇が咲き始めた5月5日。短歌を始めるきっかけとなった大切な師の森重香代子氏の夫君の古川薫氏が逝去された。おたがいにリスペクトされている本当にすてきなご夫婦でした。師の第二歌集『二生』を読み返しています。


旅行カバンに秘めてもち来し薔薇の花ベッドのわれに夫は呉れたり

                      森重香代子『二生』




ティアドロップ   百留ななみ

名を知れば小さきむらさき愛ほしかり付箋だらけの野の花図鑑

オレンジのドロップひとつ転がりて五月の夜に小童(こわっぱ)つどふ

むらさきの野蒜坊主は(むか)()なり小さき星花やうやく咲きぬ

土塊の握り仏の手向け花 野蒜の(しゅ)()の白花を摘む

水無月のウェディングブーケは藤色と撫子色のティアドロップ


永遠の半身   藤野早苗

厨うたないがしろにせし二十年 漂白液に布巾を沈む

わが知らぬ鉱脈眠る厨うた若きらは掘るごくナチュラルに

永遠の半身として北に棲むうたびと思ふその生思ふ

捲りゆく頁はどこもあたらしき雪の匂ひす「Sainte Neige」は

魔女よりの一撃に伏す床のうへ四方の壁がかぶさつて来る


市ヶ谷の空   有川知津子

先人のサイドラインに導かれ柊二の歌をめぐる半日

後ろ手にエプロン解けばゆふぐれぬ 永遠(とは)にまへゆく祖母のゐること

咲くといふことのしづけさ中庭にけふも杖曳くひとがたたずむ

昼の月あふぎゐるとき気づきたりクリップ一つポケットのなか

百ほどの鳩放たるるけはひして振り向けば青し市ヶ谷の空


風を呼ぶ壁   鈴木千登世

木々揺らす青嵐また親しけれ君の為吹く清風と聞き

あかつきの夢に来鳴けるほととぎす夏告げ鳥のくきやかな声

湧きやまぬ泉のごときもののあれ目先忙しきこの日常に

森に生ふる草みつみつと覆ふ壁 呼吸する壁、風を呼ぶ壁

黒髪に水の匂へる六月の朝の池に睡蓮ひらく


海色の鉢   大野英子

大雨は去り去りがたき別れぎはお互ひエイコと気付く可笑しさ

きつと父もこうしただらう潮風を浴びる楓は海色の鉢

黄のバラは母を思はせすがすがと揺れる五月のひかりたづさへ

ふかくあはき墨がいざなふ(えにし)ある秘窯の里をふたたび訪はん

青螺山颪吹き来よ鳴り出だせめだかが泳ぐ伊万里風鈴


地球の隅   栗山由利

あめ色の母子手帳にあり若き日の母が記せしわたくしのこと

初夏の風たちあがれ巣立ちする鴉をのせて空の高みへ

八分を新幹線のたびびととなりて降りたつ博多南駅

チェシャ猫がセル画のなかから三日月の口で呼びくる魔法の国へ

風のあを水のあを満つみづいろの地球の隅で昼寝の金魚


翻訳のできない言葉   大西晶子

若かりし白秋の恋のあやふさや敷道おほふあはゆきに似て

トナカイが休まず歩く距離をいふ「ポロンクセマ」は何キロだらう

翻訳のできない言葉「ピサンザブラ」バナナいつぽんを食べ得る時間

シャンパンを開ける機会はあといく度しろき布巾でグラスをみがく

メーカーのロゴ付きシャンパンフルートをのぼる泡ほど佳きことのあれ


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by minaminouozafk | 2018-06-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日20

実家のそばの土手は一面ツルニチニチソウが花盛りです。


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この花を見るともう初夏の予感。季節の移り変わりは早いですね。


ブログ記念日は20回目を迎え、記事は97週目となります。

仕事と実家と墓参り。つくづく毎年、毎週、代り映えしない暮らしであることに気付かされています。


それでもブログが、引きこもりがちな私を外の世界とつなげてくれています。

読んで下さっているみなさまに、そして楽しい仲間たちに改めて感謝いたします。



仲間と共に   大野英子

春の陽が生みだすやうなミズクラゲ小船とともにヒューイと揺れて

あたたかなまなざしのなかに浸りゐる読書時間に春の風吹く

はなふさのまだととのはぬ大藤を享保の風が揺らして過ぎる

ほろ苦く甘いたけのこ一献のささ添えるとき笑む父と母

あらここもあそこも馴染のあらくさが顔を出してる仲間と共に


未来地図   栗山由利

思ひ出を胸にしまつてわたくしは抱卵をするめんどりになる

重たかろ花のすべてが実になれば枝垂れ梅から落ちた実ふたつ

白皿のゑんだう豆とアスパラに黄身酢をそへて春かをりたつ

ふはもこのコートをぬいでをさな子は二歳の春に一歩踏みだす

飛びなさい、さあ行きなさい 大空は未来地図描く青いカンバス


むらさきの闇   大西晶子

花どきを過ぎて来たれば山桜若葉ゆたかな樹となりて立つ

うかうかとしては居られず人に花に盛りのときはたちまち過ぎて

足早の人波みだし街路樹の橡の紅花見るとちかづく

藤の花長く垂れたるトンネルの奥はしづけしむらさきの闇

すれちがいざま嬰児のつむりに触れゆきしあの老い人は神やもしれず


神水リユース   百留ななみ

近づけどびくともしない青鷺は去年の青鷺 おかえりなさい

手水舎の春の神水リユースなり翼をひろげ水浴ぶる鳩

グラス持つ指に肉球 着こなしのお洒落なネコとランチする夢

サングラス越しセピア色 フロントのガラスいつぱい五月の夕日

トクサ属ツクシ、トクサの根つこあり恐竜あらはるる前の地中に


Irisの子ども   藤野早苗

晩春のひかり玻璃戸を抜けるとき壁に生れたりIrisの子ども

強霜の髪黒く染む十八のわれのみ覚ゆる人に会ふ日は

ぬるま湯に首まで浸かりぬるいねと従順にして言ひあへるのみ

土砂降りの雨上がりたり出棺を送らむとして出でし外の面は

晴れ男なる君在さぬこれの世の昏迷いよよ極まりゆかむ


夜間飛行   有川知津子

にんぎやうの踊る時計を仰ぎゐるつぐみ八歳髪はさらさら

ちぢみつつ子猫消えたりたんぽぽの白き綿毛の球体のなか

草臥れたまぶた機窓に映りつつ夜間飛行と呼べば(かぐは)

ゆふぐれのしろつめ草の野つぱらにおいてけぼりの四十五年

白秋の草稿を閉ぢ町へ出る読めぬ一字を胸にたたみて


青海波   鈴木千登世

名を口にするとき知らぬはずの樹がおうと応へりはるか頭上で

海の国日本にあればうすずみのブロック塀に寄る青海波

定位置のめがねにふれて安堵せり霧の小径に迷へるわれは

マンモスの足下ひそと咲きをりぬミツガシワあはき夢見るやうに

きのふまで知らぬ人らと囲む炉の和やかにして一会の点前



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by minaminouozafk | 2018-05-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日19

4月のひかりに桂の葉がかがやいていました。


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調べてみると、桂の学名は Cercidiphyllum japonicum


japonicum」!


japonicum(日本の)」を名にもつこの木の葉っぱは、

ご覧いただいているように、愛らしいハートのかたち。


古くは、古事記に、神聖な木として登場します。

綿津見神の宮の井戸のほとりにあり、

火遠理命(山幸彦)と豊玉毘売の出逢いの舞台となる木です。


新たな年度に入り、あたらしい出会いの海へ漕ぎ出した方も多いことでしょう。

どうか出会いの一つひとつが、佳き出会いでありますように。


今日、「南の魚座」は、19回目のブログ記念日を迎えることができました。

このブログをとおして恵まれた出会いに、こころより感謝申し上げます。



        ☆☆☆☆☆☆☆



桂の影   有川知津子

いにしへのプトレマイオス楽しみき星をむすびて名まへをつけて

巻貝は〈島〉に似てるね姪つこはちひさな島をつまみあげ言ふ

天ぷらにしようなどとはもう言はず蕗の花見を楽しむひとに

青空の下にこそ見め光太郎愛でしひかりの連翹の花 *連翹忌に

てのひらに桂の影を受けながらまぶた閉ぢればわたつみの底


教科書   鈴木千登世

黄砂降る昼ひつそりと読んでをり若書き残る古き教科書

荒らかに生きざる我と嘆きたる歌にこもれる迢空の息

父よりも上の世代の愛を言ふ歌しくしくと胸を打つなり

海峡の向かうに暮らすひと思へばふはりと鬢を吹き過ぎる風

歌の種さがしつつ見る境内のさくら素知らぬ顔に散りゆく


潮の香   大野英子

フランシェとサヴァチェの名前を冠したる帰化植物もおしあふへしあふ

ぐぐぐつと春のひかりを押しかへし土筆えへんと胸そらしをり

やがて咲くさくらに怯えつつ見上ぐいろづくつぼみに罪科はなく

仄白く闇を照らせりみやうてうはひらかんふつくらふくらむさくら

あおぞらのさくら仰げばさやさやと吹きくる風がはらむ潮の香


蠢くいのち   栗山由利

とうきやうの二月の風に身をちぢめ入りたる船の灯りぬくとし

いつせいに降りくる春の陽をうけた蠢くいのちそちこちに見ゆ

沖に出るふねに花枝高くふる少女(をとめ)もをらむ天平の春

からだごと言葉になつてをさな子が風にかたれば光がこたふ

川べりのベンチに座る人ふたりつかず離れずほどよき距離で


をがたま   大西晶子

わたくしを呼んだのは誰をがたまの花咲くしたで来るまで待つと

をがたまの樹の下で妣とすれちがふ一陣吹いたあの風がさう

戦ひの飢饉のあるな花のもとねむりゐる児の先ながき日に

抱くほどに重くなりゆくこの赤子石にあらずや妖怪譚の

桃の木に厄を預けた身はかるく商店街ゆく食欲をもち


さくらのつち   百留ななみ

わが影の土に九つ紅椿むかしの地図をゆつくり畳む

ややこしき年金制度は華甲過ぎいかといかとぞ54のわれ

島かげを春の入日を呑み込みてとろ海とろとろ濃藍となりぬ

平飼いのにはとりの産む卵黄色ニホンタンポポおいしさうなり

ももいろのさくらの(つち)に仰向けばこころ軽々落蝉のわれ


みすずの海   藤野早苗

纏ひたる青もさまざまとりどりに みんなちがつてみんないいのだ

北浦の海はろばろと藍ふかしみすずのこころ育みし海

おほははの羽織らせくるるここちせり米沢黄八の丹前ふはり

あまたなる女御更衣のその中のただいちにんとなるふしあはせ

一年を途切るるなくてつづりたるわれら七人根つこが真面目


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by minaminouozafk | 2018-04-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日18

 一月逝く、二月逃げる、三月去る。寒い時期の月は過ぎるのが早い。三月は終わりのような始めのような、年度の終わりで動植物の目覚めの時。天候も変わり目で三寒四温の日々だ。

 こんな変化の多い、すこし胸もざわつくような季節だけど〈南の魚座〉は毎日の更新を続けて18回目のブログ記念日を迎えることができた。(メンバーとサポーターに拍手を。)有難いことだと思う。


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 そろそろ宮地嶽神社では寒緋桜が満開だろう、庭の豊後梅は週半ばの雨で散り始めた。今年の桜の開花はいつだろう。


春よ来い   大西晶子

二ヶ月になりしユウタに「春よ来い」うたへば庭でつばきが笑ふ

あかねさす赤い鼻緒のじよじよ履きしみいちやんを思ふその後の生

さながらに補陀落渡海送るごと海の入り日をながめていたり  

みぞれ降る街を来たりて見る舞台いちめん桜の春の野である

愛らしきお染でありし七之助こわいろ変はりお六で凄む


伝ふる手段   百留ななみ

だんのうら正座のままで漁れる平家の裔の男ありけり

言ふべきを伝ふる手段が言葉なり英字新聞やうやく一面

ひとつづつ魚の種が消え知らぬ間に肉屋のやうな魚屋ばかり

兜にも京都と江戸の別があり迷はず渋き江戸もの選ぶ

大岩と大岩の間の暗黒を苔のみどりがほつほつ照らす


行者大蒜   藤野早苗

風邪(ふうじや)引きたるわれにさすたけの君が差し出す行者大蒜

眉頭眉尻すこし描き足せば父によく似た一本眉毛

西北風(にしぎた)に吹きッさらしの黄水仙「うんにゃ、うんにゃ」と首横に振る

振幅の大きこころを定型に矯めて納めて過ごしし日々よ

学校に行かざる日々のありしことこの子の今を輝かしめて


ありがたう   有川知津子

ありがたう今日のとびらを日溜まりの気持ちで開いてゆけるわたしを *誕生日の日に

あめつちのあはひの出逢ひうれしくて飛行機雲に手を振つてみる

梅いちりん、ここが銀河の中心といふごとく咲きほのぼのかをる

出口まで来てふたたびを引き返す〈喪乱帖〉の深き歎きに *「王羲之と日本の書」展

これの世のイマコノトキのきらめきを心に置きて玄関あらふ


(つちふ)る   鈴木千登世

肉球を持たぬ私は言の葉の足あと残す波までの道

鼻濁音やさしく子規を語りたりとうきやう人はガラス戸を指し

空もまた悩む日ならんうつすらと山烟らせて遠く(つちふ)

口呼吸すればざらめく感じあり無人駅舎に砂の降る午後

深宇宙のはじまりの波とらへんと立つアンテナは天のさかづき


それでいいのだ   大野英子

南関揚げを汁に沈めて白秋の詩がはじけくるじゆわわわじわん

春と冬せめぎ合ひつつ来る春のミクロ世界のなかから目覚めよ

満潮の川の辺を打つ水音のひびきやさしく聞こえきて春

燦々と白金(プラチナ)のごとく輝けり春と交信してゐる水仙

よそよりも少し遅れて咲く庭の椿、白梅それでいいのだ


雪まんま   栗山由利

風の子の一歳がつくる雪まんま(、、、、)庭にこぼれた冬をあつめて

小さき春ひろひあつめて手籠からあふれてきたら さあ飛びたたむ

毛氈に雛ひとりずつ置く母の胸にうかぶや幼きわれら

はろばろと海越えとどくMade in China は美味し想ひはやさし

待つてよと鳩を追ひかけをさな子の語尾の「よ」の音春風にのる


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by minaminouozafk | 2018-03-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)