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カテゴリ:ブログ記念日( 31 )

ブログ記念日31

 今年はお天気に恵まれたことで例年以上にさくらを楽しむことができました。入学式も桜日和で、咲き匂う花の下での入学は大切な思い出として新入生や家族の心の中に深く残るのではないでしょうか。

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 画像は、第2回目の批評会の時に龍福禅寺の参道でのもの。歴史ある建物は二の次にして「何の芽かしら」と皆さんで盛り上がったことは、ちづさんのブログに紹介されました。あれから2週間、再び龍福禅寺を訪れると、柔らかな緑の葉をふわりと広げていました。

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 もうこの植物の名前がおわかりの方がいらっしゃるかも知れません。あとしばらくで花が見られそうです。(その折りにはまた、ご紹介しますね。)
 花の芽がしずかに葉を伸ばした2週間は、新しい時代への期待を感じる時でもありました。
 新元号が公表されてからの世の中の動きを思う時、(新しい)言葉が生み出す力をしみじみと感じています。南の魚座は今日で31回目のブログ記念日を迎えました。4月から学生となった早苗さんを初め、第3号に向けてメンバーそれぞれが思いを新たにしています。時代の変わり目の今、言葉に携わる者として、目の前の現実を見つめ、たどたどしくても自分の表現を探ってゆきたいと思います。

 いつもブログを読んでいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

辛夷咲(ひら)けり   鈴木千登世
四十年後もわたしを温むる下北の旅のこたつと番茶
まつさらな時を包める花苞の白のさやけさ 辛夷咲(ひら)けり
歌を詠み読む楽しさの中にをりしんと澄みゆく眼を見つつ
先駆けて咲く一輪を仰ぎたり若き日ともに若かりしさくら
いつか読む書物の中で眠りたる滋味あることば迎へにゆかな

春へいざなふ   大野英子
肥後椿のつぼみまあるく膨らんでうたつてゐるよ肥後手まり歌
〈戦(ソヨゴ)〉とは書いてはならず朱き実が小鳥寄らしむソヨゴは冬(ソヨ)青(ゴ)
わたくしを春へいざなふ海風とたいやうそしてちづりんのこゑ
芽吹く木を愛でるうしろのかいだんの上からのぞく猫と目が合ふ
青空を背負ふ白猫とんきやうな顔をしてゐる春まつさかり

「よーいドン」   栗山由利
競ふなら自分自身と「よーいドン」 遅くたつてもかまはないから
約束は自分としよう 緑風に吹かれながらの漓江下りを
たちまちに薄紫のヴェールぬぐ春はをとめのほほえみのごと
見覚へのある漢字あり「文選」のなかの人らがすこし近づく
いにしへの人らが愛でし桃の花とほきかをりを古書がしらせり

鎮国寺の春   大西晶子
樹には樹の都合あるらしそれぞれに時たがへ咲くオガタマの樹々
ナンクロの文字ひとつ得て紐ほどくごとく解けたり残る三文字
花のもと野立ての茶会する人のありて楽しも鎮国寺の春
逝く時を具現するかに散るさくら野立ての茶碗に落ちるもあらん
おむすびを食べて眠れるをさな児はさくら咲く空飛ぶ夢をみる

背表紙のうら   百留ななみ
やはらかき水とひかりに濯がるる粗き砂子をてのひらに乗す
にぎにぎしき馬関の醤油に迷ひをりとろとろ甘露、うまくち、あまくち
繍仏は糸のみほとけカイコガの繭は一本の長き糸なり
天平のをみなのつどひ針刺しけり糸のみほとけ當麻曼荼羅
あのひとの文字の愛の詩 色褪せし亀井勝一郎の背表紙のうら

まんづ咲く   藤野早苗
黄の花は春のさきがけまんづ咲くマンサク繊き花弁がおどる
不条理は条理のごとく紛れこみ役に立たない「物見の塔」よ
二次元の中の多次元 生まれては消える蜥蜴のひとつため息
天平の梅を過ぎ来し風ならん令和間近のけふを吹く風
遅すぎることなどないよ 散り初めのさくらの下をゆつくり歩く

令大太宰府キャンパス   有川知津子
五十年生きたからだを運ぶとき宿り木をやどす一樹尊し
ガリ版のガリははるかなオノマトペわが手の生みしことなき音色
ぐるんぐるん転がつてゆくエッシャーの〈でんぐりでんぐり〉命なりけり
賭けました令大太宰府キャンパスの自販機で買ふ富士山の水
カリカリがただぱらぱらとあるばかりただぱらぱらとカリカリがある


by minaminouozafk | 2019-04-11 06:07 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日30

 ブログ記念日も30回目。そういえばホークスも福岡移転30周年。平成も30年ちょっとで新しい元号に変わる。30年はちょうど一世代でもある。ブログ記念日はひと月に一回だから30か月。

 今年も三月の瀬戸内海の島巡りをした。小さな島の樹々はあまり人の手が入ってない雑木林のままだ。朝の小径にはまだまだ練習中のウグイスの声がひびく。シジュウガラやヒヨドリ、ヤマバトも鳴いている。日の出前の入江から小さなフェリーが出ていく。春はあけぼの。少し肌寒い空気が心地よい。白梅もまだ残っている。濃い桃色の莟は緋寒桜。その向こうに満開の桜が・・・近づくと椿寒桜と書いてある。椿が咲く頃にさく寒桜ってことかしら?なんだか春気分。いつの間にか明るくなった空に三日月が残っていました。染井吉野の莟も大きくなっている。

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 いつもブログを読んでいただきありがとうございます。混沌の時代ですが少しずつ何かを発信できたらと思います。これからもよろしくお願いいたします。

たまむしいろ   百留ななみ
あふれ咲く馬酔木の花のももいろを夕べの風にひとつ放てり
レバノンの映画のあとに島国のたまむしいろも宜しと思ふ
白黒もはつきりつけねど嘘もつけぬたぶん化石になれないだらう
ふわふわのたまごサンドの耳を食ぶやはらかきこゑ天降る夕ぐれ
天馬門の阿吽の木彫りの馬の顔あふぎて入る本覚寺院

AY―OH   藤野早苗
春の陽にあたためられてぶるぶるる 猫エンジンは全開である
人族の五倍速にて加齢する猫よ弥生の日差しにねむる
わたくしをスキップしたり若草の萌ゆる指輪は義母から吾子へ
成人となれる娘の指に差すGood Luck を宿せる石を
かの夏のCall and Response AY―OH に揺れるアリーナ十万人が

行きてあふ   有川知津子
行きてあふ雪の降る日の日本海うばたまのくらきおもてをひらく
ほろ苦きものよとりわけふるさとの岬なだりに咲くふきのたう
くれなゐの胡頽子を恋ほしみかぞへたる茂吉をおもふ少したのしく
校庭のまなかに立てば古き地図壁から剝いだやうなゆふぞら
白秋の引つ越しの道おほまかに辿りゆきたり地図にピンして

虹彩(アイリス)   鈴木千登世
人生を大肯定せようつそみは虹彩(アイリス)と呼ぶ虹ふたつ持つ
田鶴をらぬ海光の町を行き過ぎぬいしぶみと海をカメラにしまひ
遣新羅使雪宅麻呂の見し海のきららの海に魚跳ねやまず
わつと春が押し寄せてくるにぎわひのひなもん垂るる町の如月
伝説のシュー・アラ・クレーム頬ばればこどもの頃の私が笑ふ

ひかりのとき   大野英子
曇天の下にしらうめふふみゆく乾涸びながら苔生す古木
おひなさまをかざりてをりしはいつまでか帰つてこんねといふ母もなし
めじろ二羽しらはな散らし雪かづくやうに苔生す古木はなやぐ
みどり濃き筑後平野のまんなかで白黒の猫むむ、いきんでる
きみの笑顔を思ひうかべて待つてゐる五月まばゆきひかりのときを

ひなた猫   栗山由利
描かれたペンギンママのまなざしはひとしくおなじこの星の愛
をさなごの大きな前歯が人参をカリポリかじれば陽射しがわらふ
三月の風がつれだす釣り人と河原のベンチで昼寝する人
子育てがおはりてのちの猫育て 算数、国語は教へないけど
ふくふくとふくらむ春がはじまつて猫ふんわりとひなたにまろぶ

豚の笑顔   大西晶子
訪れのすくなき孝子正助の廟に冬の陽ふかくさしこむ
虫の目で見る菜の花はいかならん紫外線をも見る複眼に
十二支に ゐのししあるは異例にてアジアのくにぐに豚年を祝ふ
春節のシンガポールを歩きつついくども出会ふ豚の笑顔に
沈丁花にほふ夜更けを日野冨子は燭の灯のもと銭かぞへけん



by minaminouozafk | 2019-03-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日29

 年明けの一月。やはりあっという間に行ってしまった。今年はほとんど雪を見ることがないうちに立春。あちらこちらで春が生まれている。おとなりの長府庭園では蕗の薹、土筆までのぞいている。さくらの芽鱗も小豆色にふくらんでいる。

 花のころになると石原吉郎の「花であること」の詩をおもう。はじめて読んだ時もとても良いと思ったが、難しくてちゃんと解釈できなかった。石原吉郎は7年間ものシベリア抑留体験をしている。そのなかで生き残った感慨。〈花ひらくごとき傷もち生きのこる〉詩人であるが、俳句も短歌も遺している。最近、出会った彼の俳句。花がひらくのは歓びだけではない。傷つきながらひらくこともある。

 ブログ記念日も29回目。あらためて時間とは小さな欠片が積みかさなっていくものだと思う。読んでいただいている方に感謝です。それぞれの人生、いろいろな傷をもちながらも愉しみたい。

 古い楓の大木。プロペラの種が残っている枝には紅色の葉っぱのふくらみが・・・葉っぱにも莟がある。

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ふつくり   百留ななみ
おかへりと五十五歳のしたごころをふくらませゆく窓辺のひかり
乃木神社うらの土塀の崩れたり豪雨後百日じわりじわりと
絵あそびあり文字あそびあり反骨の宮武外骨よみがへるべし
佳きことば佳きメロディでふくふくの身体に入れる冷えた葡萄酒
姫コブシのつぼみふつくりリモコンのほこりきはやか二月のひかり

初期化せよ   藤野早苗
いそのかみ古るうつそみを初期化せよ ファイトケミカルスープを掬ふ
幾重にも絹をまとひてあした咲く蕾のやうなわたしとなれり
百年の時空を超えて神楽坂ためいき重き白秋に会ふ
創造の名のもと破壊を繰り返し自己破産するほかなき地球
真理にはとほく空目と空耳のうちに忸怩と過ぎんか一生

屠蘇延命散   有川知津子
この人のおだしき貌を見よといふ《受難》描きてジョルジュ・ルオーは
どれくらゐ違ふ高度を行くのでせう見上げれば空に消える十字路
遠くより手を振るひとに手をふりて夕暮れ五時の日本橋なり
祖父に似る母とならびてきざみをり屠蘇延命散儀式のごとく
銀漢にアルゴー船を舫ひたるひとをおもへば春のあけぼの

ぢよきぢよき   鈴木千登世
作らない日はさみしいと言ふ声に振り向けば知らぬ顔のさざんくわ
ぢよきぢよきと切り抜いてをり 結局は言葉なのだわたしの欲しいものは
たどたどしいことばで愛を告げたなら君は応へてくれただろうか
冬の陽の温みを受けてある生の窓辺にきんをこぼす蠟梅
くるぶしに春は訪れ街を行く少年少女の軽きステップ

黒ネクタイの紳士   大野英子
楼門のはだへに触れてじつと待つ過去世と未来世ゆきつもどりつ
それぞれの過去を灯してあたたかな歌ありそつと付箋をはさむ
晴れをんなのわたくしけふも申し訳けなく外出(そとで)する春をさがして
雪解けのひかりのなかに飛びたたん雛のまとふ唐(から)衣(ぎぬ)の鶴
四十雀の黒ネクタイの紳士来てフウの実につと口づけをする

しあはせサイズ   栗山由利
「三都賦」を学び来し子の十年を重くきざんで背表紙の金
デジタルの器械にまでもみえをはり年齢設定五十といれる
平成の最後をかざるお年玉切手シートの猫まねく福
冷えた手につたはるうどんのどんぶりの温さがちやうどのしあはせサイズ
歳の数まつすぐならべた福豆の二十粒目をしつかりと噛む

色絵の小皿   大西晶子
このひろい海に結ばれへだてられ近くて遠い隣国とふ国
ヒートテック下着で冬に汗をかくわたしにくださいメロンのアイス
水鳥の足掻き思はす漫画家の細字で埋めた創作ノート
口きけば何をかたらん窯を出て四百年経る色絵の小皿
大鷲!といふ声に見る高き木をつばさひろげて飛び立つ一羽

by minaminouozafk | 2019-02-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(8)

ブログ記念日28

 今年最初のブログ記念日です。
例年通り、三日に太宰府天満宮へ出かけました。これまでは混雑を避けて横道から本殿に入り参拝をしていたのですが、心字池に架かる三つの橋を渡ることで、邪念を捨て心身ともに清められることを思い、参道から人波に揉まれつつゆるゆると歩きました。
 楼門辺りで進みが止まります。そこで普段はじっくりと見ることもない楼門を見上げ、注連縄の上の隠れミッキー!?のようなハートのマークや色鮮やかな梅の彫刻を眺めていました。

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        楼門のはだへに触れてじつと待つ過去世と未来世ゆきつもどりつ

 おみくじは吉。
内容よりも、目がゆくのは書かれる和歌。

   海ならずたたへる水の底までも清き心は月ぞ照らさむ
                     菅原道真

さすが、天神様。大宰府に配流されたときに自らを慰めて詠まれたものですね。
「清き心」を忘れないよう心にとめて置きたい一首です。
 みなさまにとって今年が善き一年でありますように。


けふのはじまり   大野英子
草木愛でぐんまに地上根張りて生きゐるひとを嘉せよ冬陽
皮を剝く刻む合はせる火にかける水躍り火沸き楽しく料る
波羅蜜の若きこゑするざらざらと手触り粗き小冊子のなか
冬暗き門の花壇に残照のごとわたくしを待つちさき花
あらたまの朝日を背に草を抜くいつもとかはらぬけふのはじまり


七色十色   栗山由利

南国のぬくみをぎうとつめこんだ金柑ばうやにあへる年の瀬

ジコチューで狗尾草(ゑのころ)が好きでツンデレの猫 あら、これつて私とおなじ

ころころと猫がころがす玉のやう七色十色のをみなごの声

ゆく年を三日のこして紅葉ちる名残惜しんで手をふるやうに

つつみこむ手にやはらかき温もりのをさなの頬はつきたての餅


七草   大西晶子

思はざる指の鈍さに焦りつつ薄き紙折りリースをつくる

豊作と豊漁ねがひテグス巻く注連縄に白しあたらしき紙垂(しで)

大陸の知識と物と国難を運びし玄界けふ波高し

垂れこめる雪雲と海のさかひめを奔り抜けたりウィンドサーファー

七草をたたきて粥のしたくせん唐土の鳥のわたらぬうちに


朱き金いろ   百留ななみ

玉鋼を造りつづくる人に会ふまへに亀嵩駅で蕎麦食ぶ

木製のでんしんばしらのてつぺんでサンタクロースは休らひてゐる

きらぼしのかたまりなるや朝日子に屋上の鷺は朱き金いろ

みづいろの空くろき驢馬モロッコを描きし香月のリトグラフ買ふ

朝日子を持ち上げ二羽の蒼鷺は朱金の帯の金銀砂子


ニューホライズンズ   藤野早苗

あらたまの年のはじめの杣道のどんぐりごろごろでんぐり返し

五十六まで生きたから信じてるサンタクロースは必ずゐると

美ら海に投じる土砂の黒々と ワレワレハモウヒキカエセナイ

太陽系外縁目指しイアソンのごとく旅するニューホライズンズ

六本の弦で宇宙を創造す天文物理博士(アストロフィジックスドクター)メイは


紅花襤褸菊   有川知津子

極月の箱の底より出で来たるフロッピーディスク一枚しづか

五島産飛魚(あご)の日干しが並びたり歳晩の博多阪急地階

かのやうにならんとおもふ気丈なる祖母ふたりより名まへもらひき

一塊の緑さゆらぎほころびぬひとつひとつの樹木の素顔

うつむくはこの花のいろ元朝の曇りのもとの紅花襤褸菊


ゲルマンの星   鈴木千登世

水面に散り散るもみぢ散りもみぢ真鯉を撫でるてのひら無数

むぎわらの星を吊しぬゲルマンの祈りの星は麦にてつくる

ハイテクの器械に疲れいやされて仰ぐ夜空に三つ星光る

嬰児の声にいのちのふくらみて藍の蕾を置くいぬふぐり

見廻り君見守り君とあだ名する猫入れ替はり来る春の庭


by minaminouozafk | 2019-01-11 09:05 | ブログ記念日 | Comments(6)

ブログ記念日27

 二週間くらい前になるのだろうか、丸善ギャラリーで北欧のクリスマス雑貨マーケットを開催していた。充実してはいるものの、あまりの忙しさに疲弊していた私はついふらふらと会場に入ってしまったのだが、瞬間「あらっ?」と驚いた。そこにはどう見てもスタッフとしか思えないお二方が値札付けをしたり、販売用の北欧産の布を切り分けたりしていたからだ。「え、まだ開店ではなかったのかしら?」怪訝な顔であっただろう私に頓着することなく、作業を続けるお二人。まあ、いいか、と展示会場内所狭しと置かれた北欧雑貨を堪能。どれもみなほっこりと暖かい。

 新品ももちろんあるが、味わい深いのは圧倒的にアンティーク。中には今となっては珍しい刺し子のタペストリーがあり、しかも信じられないくらい安い。あまりにも驚愕してしまったので、その訳を聞くと、50年以上前、北欧のおばあちゃんたちが冬の手仕事で自分たちのために作った品々が今、代替わりするタイミングで若い世代の人々から放出されているのだそう。それを残念に思ったオーナー(現地在住の日本人女性)がそうした品を買い集めて、価値を理解してくれる方々にお分けしたいと思ったのが、この仕事を始めたきっかけとのこと。なるほどなあ。往復の旅費とか、送料とか考えたらこの価格では利益は見込めないはずだ。商売として考えた場合、この企画展の評価はなかなかリスキーである。

 でもこの人の幸せそうな表情はなぜなのだろう。人生の豊かさを信じているこの安らかさは何なのか。その秘密を知りたくて、つい件のタペストリーを買ってしまった。その日からなんだか居間が暖かい。


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件の刺し子のタペストリー。
細かな細かな手仕事です。


 みなさまのおかげをもちまして、「南の魚座 福岡短歌日乗」、27回目のブログ記念日を迎えることができました。2018年、もうすぐ終わりますが、当ブログはまだまだ続きます。今後ともよろしくお願い申し上げます。



山霊のこゑ   藤野早苗

切支丹でうすの魔法 女子高生が西鉄電車で公彦に遇ふ

レコジャケの裏なる小さきクレジット NO synthesizers 女王の誇り

秋深む宇津ノ谷峠たづねきてうつつにぞ会ふ山霊のこゑ

宮仕へかこつ日記をものしたるうたびと明き月仰ぎけん

めくる手の時に加速し停滞し『明月記を読む』未読了なり


見えぬもの   鈴木千登世

手をつなぎ園に入りゆく二人子のちひさき決意秘めたる背中

うつすらと色づき一気に変わる葉の紅葉が照らすこの世さゐさゐ

蔦の道歩くを思ひ週末を思ひ仕事の日々暮らす

少しづつ目鼻のちがふ雛たちがほのほのと笑む微笑(みしょう)曼荼羅

ぼんやりと見ているだけでは見えぬもの冬の海へと参道は伸ぶ


銀貨   有川知津子

コスモスの花のあはひを(くだ)りゆけりときをりせせり蝶を立たせて

人形にひとみ点ずるたまゆらの記録遺りぬ国宝なれば  *「鹿児島寿蔵の人形と短歌」展

祈りとは灯をともすことともしびに暗くかがやく当麻曼荼羅  *特別展「浄土九州」

すなはまにうづもれてゐる秋の壜ひとの伝言いづこへゆきし

敷石にささる銀貨に入りゆきいのちは羽根をうごかしはじむ


母のほほゑみ   大野英子

蚊が住みて汚れちまつたわが視界羽音せぬこと良しとうべなふ

錦秋(きんしう)の深まる山路をひとびとの孤独を乗せてゆく墓地のバス

わたくしを抱くやうなる四つ塚の冬の陽ざしは母のほほゑみ

初冬の陽のぬくとさにふふみたりイヌマキの実と冬苺の実

傘寿すぎし夫婦が育て摘むといふ山肌を這ひ昇るみかん園


いちやう落ち葉   栗山由利

平積みの本よりゆかし店奥の書棚にならぶ文字のつぶやき

ぐぐぐつと押し込んできた白黒の鉢われ猫が胸に住みつく

いつぴきがくわはりかはる関係をたのしむ私もかはれるだらう

煽られていちやう落ち葉が道わたる人を追ひこす師走の風に

舗道脇に散りしくいちやう落ち葉踏み足につたはるあたたかさ聴く


一反木綿   大西晶子

日本の山野やせたり月の夜に遠吠えをするおほかみ失せて

貼り換えのすみたる障子しらじらし子と孫去りし部屋に陽のさし

風にのりアラビアへ飛べ置き去りにされて寂しき一反木綿

母の住む博多に帰省するたびに寿蔵を迎へきあかつちの山

鍵盤をはしる手待ちつつねむりゐん博物館のピアノの無音


ほんの一片   百留ななみ
ブルーシートが黄金(きん)の公孫樹の背景なり日田彦山線の代行タクシー
蒼空の碍子の白のきらきらし知つてることはほんの一片
赤も黄も黒も晴れやかモロッコの香月泰男の砂子のひかり
モドキとは似て非なるものちちちちちクダマキモドキは控へめに鳴く
駅までのてんじんさまのほそみちは休日なれど人影まばら


by minaminouozafk | 2018-12-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日26

今年はオガタマノキの実の成長に興味を持って、宮地嶽神社に何度か見に行った。最後に行った時に実の中に朱色の種ができていることが分かったが(当ブログ1028日)、さてその後どうなったのかが気になり先日再度見に行った。


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枝には実がまだ少し残っている。先月来た時にはピングが美しかった皮が裂け、中の種が直に枝に付いているように見える。皮はまだ色が残っているものもあるが、乾びて茶色になったものある。樹の下の砂利の上には茶色の皮(殻)と朱色の種が点々と落ちていた。命をつなぐ樹の仕事はひとまず終わったと言えるだろう。

オガタマノキの3月の花から実が裂けて種を落とすまでにブログ記念日が7回過ぎて今回で8回目になる。季節が移り変わっても途切れることなく続くこのブログ。樹の営みに似て一つずつ重ねていく文章と写真。これからも大切に続くことを祈っている。


鹿児島寿蔵展   大西晶子

泣き顔と笑顔とふたつ面持つ寿蔵の人形は銘「両面童子」

「南海の夢」とふ人魚の人形あり尾を机にし香炉の香きく

朱の種をオガタマノキははぐくめり花のごとかるももいろの実に 

若かりし江口章子の写真にて一途さあらはな真黒きひとみ

堀の面の空とやなぎをゆるがせて曲がりゆきたり空どんこ船


くぷくぷ   百留ななみ

モノクロのドット紋様がキュートなりアサギマダラの蜜を吸う顔

この夏に乗りし線路をゆつくりと色えんぴつで白地図に描く

碧翅の花粉をはらひハナムグリ 放物線で朝空に消ゆ

クリークに生まれ流れて消えそしてまた()るる(せい)くぷくぷとあり

新入りの朱き鯉の子つどふなか鯔の子たちは機敏によぎる


クロノスの鎌   藤野早苗

花よりももみぢことさら身に沁みて五十六歳さくらを見上ぐ

胸の鳩とうに飛び立ち背に猫首に猪を飼ふ齢となれり

切り結ぶ覚悟はあるか 咽喉元にクロノスは鎌押し当てて問ふ

言の葉の種を蒔くべしかなしみに耕されたる胸の沃土に

牧水の恋の顛末読む夜の闇は凝れり蜜の重さに


水城   有川知津子

かたかたと秋のかぜ吹き虫籠の蟬のぬけがら崩れはじめる

鷗外の憩ひし縁に坐してをり風のすがたのあらぬ秋の日

野茨の秋のいばらをくぐり来て革命のごとく夕顔ひらく

あきざくら群れて咲きをりいにしへの人の願ひの〈水城〉のほとり

大いなる〈水城〉のことを話さうか余談の好きな生徒のために


とんからり   鈴木千登世

伏し目して夕影見つむまなざしの深く澄みたる女院と思ふ (永福門院)

鶴女房には遠いけどとんからり風の糸にて筋雲織りぬ

海を渡るてふてふの()を香りなき匂ひで誘ふ花藤袴

木に冬と書けばひひらぎまだ固きつぼみの中に風の子眠る

身にいくつ金属を埋め生くる生さびさびとして五十も半ば


赤い魂   大野英子

歌会をふたり小声で語り合ふ機窓のあをぞら闇となるまで

ただ一度訪ひし日向にワープするまだ父母が待ちゐしころの

ほろほろと朝露こぼす秋の風首に冷たく蟻はもうゐず

ブザー音鳴り、進行表めくる手が少し震へてやがて開会

背後から聞こえるうんちくまた楽しぶわつとあがる赤い魂


花かんざし   栗山由利

手入れせぬカボスを無農薬と言ひおすそわけする ありがたきかな

朱の鳥居くぐるをさなの桃割れの花かんざしに秋の陽とまる

花の香がほうとひらいて菊花茶のわうごんいろを透ける秋の陽

弾けとぶ声なき午後のキャンパスに蟬声だけがながく尾をひく

うけついでひきわたしてゆく人たちの知識のたすきの古書の香をかぐ


by minaminouozafk | 2018-11-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日25

今日で25回目のブログ記念日。

流れるように過ぎる日々に読点を打つかのように巡ってくる記念日。


金木犀の甘い香りが部屋の中まで漂ってくる。ようやく涼しくなったと思ったら、今年もあと3月となっていた。何をしてきたのだろうと愕然となる。起きて、仕事へ行って、帰って、眠って……の繰り返しの私の日常に短歌(とブログ)がなかったら、日々は過ぎ去るものとなってしまいそうだ。

何でもない日々が、言葉によって掬われると忘れがたい特別な景として心に刻まれる。

歌という形にすることで鬱屈したこころが整えられ、明日へ向かう気持ちが少しばかり湧いてくる。自分でない他の人の作品の言葉や調べ(それは他人の視線や思想)に揺蕩いながら、目をひらかれ、また知らないどこかへ導かれてゆく快さ。短歌と出会ったことで多くのものを得られたように思う。

読んでくださる方々や陰で支えてくださってる方も含めた南の魚座のメンバーに感謝しつつ、また次の1月を進んでゆきたい。


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マジックアワー   鈴木千登世

言葉なく足湯にひたる傍で夫は目を閉ぢ天に向きをり

ああやはり「おまへは何をしてきた」と風が吹くなり中也の風が

シルエットうつくしくなるゆふぐれのマジックアワーとふ神の賜物

秋に咲く桜さくら子時知らぬ桜さくら子 咲くときが時

くつくつとりんごを煮をり火の傍に座り文庫の本めくりつつ


花のこゑ   大野英子

雲のなきあしたの空の白き月はんぶん隠れてわれを見下ろす

雲ながくみつめつづけてゐるうちに過去へと戻りゆくやうな秋

葛の花匂へる秋を待ちわびてまづは葉陰の花のこゑ聴く

活力でここまで育つてきたぞつて不敵な笑みの葛の花言ふ

壁面がわうごん色の市ヶ谷に〈夕焼け小焼け〉鳴る十七時


未来予報   栗山由利

あまたなる生まれなかつた鮭の子が口で溶けゆくとろおり秋の日

とりあへず新聞ひらき一日の情報つめてエンジン始動

高空を悠々すべる鳶ににて平成の鳶は足場をわたる

風やみてとほく近くの虫の声寒くなるぞと季をおしへる

来年のカレンダーに書く未来予報なりたい私を太書きにする


ほんの入り口   大西晶子

秋は今ほんの入りぐち子供らのいまだ気付かぬ青きどんぐり

目の澄める烏賊得てかへる道々に大豆のみどり濃き畑ひろがる

皮、果肉すてたる今は繊維のみしろく乾けるへちまの束子

想い人に文遣るごとく顔しらぬうたびとたちに歌評を書けり

投稿の歌で知りたりとなりまちの対馬みるとふ対馬見山を


夏眠   百留ななみ

つゆくさの群れ咲く墓地で聞いてゐる運動会の玉入れのこゑ

たつぷりの夏眠のあとのかたつむり土塀の上を堂々とゆく

新米のおにぎり旨し()の赤の剃刀花は不動明王

蟻ん子の足あと見える斑猫と見えない人間おんなじいのち

きらきらし夏眠の夢で見し萩の白花のなか舞ふしじみてふ


登龍門   藤野早苗

わうごんの鱗かがやく六六魚登龍門をさかのぼりつつ

天神のご加護たまはり台風の進路南下す贈賞の日の

解き洗ひして陽に干せば百代をはたらきさうな紬の着物

一着の着物を解けば八人の長き短きイッタンモメン

ちちよちよちちよ縫ひ針刺してまた抜いて千鳥のあしあと残す


気泡   有川知津子

四つ星の矢座探しをりまだ恋を知らぬ子どもら島に遊びて

澄むといふことのしづけさ秋空は会ひたきひとを映せるかがみ

あめつぶにつつまれやすきわが嗄声救はんと傘を差しだすひとり

馬小屋のありしところは晒されて秋をいちりんつめ草咲けり

海層を上りゆきたりぎんいろの硬き気泡につつまれながら


by minaminouozafk | 2018-10-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(6)

ブログ記念日24

 日本の南から発信を続けてもう二年と一カ月が過ぎた。お読みいただいているみなさま、ありがとうございます。


 最近の相次ぐ災禍に驚き、自分の無力さに立ちすくむばかり。何もできない自分に、それでも何ができるのか。文芸は無力なのか。考え続けたいと思います。


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浜灌頂   藤野早苗

数学が得意であつたら 仮定法そこに広がるわが()茫漠

これやこのマジックボックスPCに向かへばフリーズしたり脳は

1/f(えふぶんのいち)の揺らぎを含む声宝満下宮の神域に響る

宝暦の武者、(あやかし)らよみがへる浜灌頂の大灯籠に

台風の災禍、震災あきつしま透き羽傷めし蜻蛉が飛ぶ


紙の図鑑   有川知津子

どのやうな掟があるといふのでせう夢に来てひとはほほゑむばかり

畳目に沿つてたたみを拭く作法伝へたき子はもう駈け出せり

枝折りして山を歩けるひとのあとまた枝折りつつ歩けりむかし

日輪の下をゆきかふ蟹の群れときのまわれの前をゆきかふ

茅蜩がとうしんだいで載つてゐる図鑑ほしいの紙のがいいわ


もんきりあそび   鈴木千登世

天の日を浴びて開ける花オクラひかりの色の花びらを食む

思ひ出は青いみかんに秘められてゆつくりじつくり醸されてゆく

梨の実をさくりさくりと食んでをり 秋風いろの甘き梨の実

くきくきと鋏で切りぬ江戸の世の人を思ひてもんきりあそび

抱き萩と対ひ兎を切り抜きて秋を招きぬ紀州の盆に


晩夏のからだ   大野英子

翅おとをばさりとたてて朝空のはるかを目指す鳴かぬクマゼミ

草取りを終へてしづかな昼の庭風がときをりひかりをこぼす

へんぽんと白いスカートひるがへす風に乗りたい休日の昼

迎へ火も送り火もせず夕空のなかなる父母を探してゐたり

花オクラ、豆腐、アカモク喉越しの良きものを欲る晩夏のからだ


小さき願ひ   栗山由利

セーターが電車とおなじ色でしたどうしてるかな〈電車さん〉今

とぢあはす手の中にあるをさな子の小さき願ひはまだ白きまま

手の中のまだまつ白のをさな子の願ひは小さく羽ばたいてゆく

とつぜんに揺り起こされた休眠脳働きはじむ「我要加油」 ※私は頑張ります!

あつちにもこつちにもいい顔をしてAlexaはもうよき同居人


灰雪   大西晶子

敗戦は遠きできごと八月を灰雪のごとさるすべり散る

望郷に泣くものあらん火星から地球をあふぐ未来の人類

苦瓜の葉陰にをりし守宮らは棲み処の失せていづこであさる

外壁の塗装用足場組まれたり明日よりネットに包まれ暮らす

亀甲の紋ある煎餅を両の手でもちて食べたりをさなごわれは


ぬけがらの穴   百留ななみ

霧ふかき高原ほのかに浮かびゐる松虫草のうすむらさきいろ

吾亦紅、萩、野菊、葛、松虫草、尾花、秋桜 われの七草

ニンゲンも魚もスズメもひたすらに秋を待ちわぶ残猛暑日なり

17音プラス14 あかねいろの空から降つてくる言葉待つ

数珠玉に糸通ししは数珠玉の花の末枯れし抜け殻の穴


by minaminouozafk | 2018-09-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日23

毎月11日のブログ記念日ですが、8月は特別です。「南の魚座」二周年を迎えました。

初めてのことで、一生懸命だった一年目、二年目は少しばかり肩の力も抜けたでしょうか。この一年の間に一周年記念号を発刊いたしました。

毎日の小さな一歩の積み重ねのちょっと大きな一歩でした。


三年目に踏み出しました。読者のみなさま、これからもよろしくお願いいたします。


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出番を待つ新幹線車両



夏ど真ん中   栗山由利

夏の陽が直滑降でめざす先ブラックベリーはむくむく太る

辻道を舁き山が走りわざわひをはらひて街は夏ど真ん中

さくさくと育つオクラにありがたう規格は人のわがままだから

テキストをひらけば街は近くなり上海、成都 朋友

出番まつ車両は大きく深呼吸してをり白き炎熱の中



蝕の月   大西晶子

金柑の花の濃き香にたへられず窓をとざせり熱帯夜にて

宗像の市の花と植ゑしカノコユリ南の島より来しものと知る

蝕の月赤きあしたをひそやかに繊維そだてるへちまの若実

茅の輪をくぐる人らのさきがけは白衣まぶしき神職と巫女

まかれたる切紙ひろひ玉砂利をきよめる人あり祭の果てて



公孫樹の葉っぱ   百留ななみ
銀杏の白実をゆらす台風は迷ひ迷ひて西へとすすむ
切れ込みがなくなり()しき扇形 公孫樹の齢は葉っぱでわかる
ぎらぎらの太陽光がだいすきな狗尾草のC4回路
てふてふの少なき春はくまぜみのちからなく啼く炎暑となりぬ
バナナ売るもも売る馬関の露天商 汽笛の音の愉しかりけり



をかしの御髪   藤野早苗

むらさきの花に似る名のハルシオン熟寝の床に播くひとつぶは

内向きはさまざまあれど外向きは二人三脚 夫婦はチーム

「推敲のポイント」耽読する真昼逆走台風みんなみに荒る

八月の鋼のごとき陽をかへす強霜置けるをかしの御髪

あたらしく齢重ねるいちにちの夜のきりぎしに白髪なびく



迎へ灯籠   有川知津子
梅雨明けたり向日葵の葉の破れより大蟻ひとつこちらへ出でて
炎帝のくらき吐息が渦を巻くゴッホ描ける渦のごとくに
「とほく」といふ言葉にかかるグラデイションどのくらゐなら遠くへ行ける
母の吊る迎へ灯籠しるべにて祖霊語らひながら帰らん *8月7日
長崎の方を望みてしづかにすナガサキとなりしその刻限を



舞台俳優   鈴木千登世

かなしみの梅雨明けに咲く花槐樹影を小さき風に揺らして

境界を越えて害なす猿の背の光沢(つや)なく乾くそのけむくじやら

涼やかな眼に深く生を問ふ舞台俳優のこゑを忘れじ

選びたる人の面輪を思ひつつ書棚の本の背文字をたどる

暑かつた日といふいつもの夏の日と聞く今年の今日も夏空



単純は良し   大野英子

ただ一羽河口のうみうが繰りかへすもぐる顔出す単純は良し

潮風に吹かれさわさわ揺れだしぬ青葉がしげるわたしのからだ

あおぞらと博多の街を見て育つ固い実青い実あなたはだあれ

ひよつこりと顏出すも驚いてゐるらん熱暑、落雷、豪雨

声のやつとしづまる夕暮れの潮風のなかの夕餉は気まま



by minaminouozafk | 2018-08-11 09:51 | ブログ記念日 | Comments(5)

ブログ記念日22

〈南の魚座〉は、平成28年夏にスタートしました。
来年の夏は、すでに平成とは違う元号を使っているはずです。
その頃私たちはどのような夏を迎えているのでしょうか。

ここ数日のうちに起こったことを考えると、
一年先を想像するということがあまりうまくゆきません。

そのような中で、
今日、〈南の魚座〉は22回目のブログ記念日を迎えることができました。
唯々ありがとうございます。

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白髭のヴァリエ   有川知津子
こつくりと榊の花は咲きゐたりものの音せぬ梅雨のあかとき
かまきりの卵みつけたその日より父の散歩はしばらく続く
雨粒のひとつひとつに臓腑あるがごとくに乱れ濡れてゆく窓
小学校のまへ過ぎるとき甲高く「コナンくーん」と呼ぶこゑ聞こゆ
セザンヌが最後に筆を入れし絵のそのしろたへの〈白髭のヴァリエ〉

笑顔   鈴木千登世
汽車に乗る我らに向けて振り続く手ありまぶしき笑顔とともに
虹を見るやうな笑顔に長く長く汽笛で応へD51は行く
たましひの芯じんわりと温むる熾火のやうな笑顔のチカラ
意味なんてなくて不思議な響きする言葉がいつぱい子どもの時間
鰐といふ一族ありぬみんなみの波を渡れる海人の生

追熟の時   大野英子
梅の実のゆたかなる香に満ちてくる追熟を待つわたしの時間
塩水にじんわり沈む梅たちのいのちはやがてわれを養ふ
窓際にひかり射しきてベランダの梅はオォなどこゑあげてゐん
天日干しの梅、不可侵の柔さなり夜は部屋内に匂ひをはなち
亡きひとの思ひ出熟す六月の梅のてんじんさまも目覚めよ

ふくふく燕   栗山由利
放たれた矢のごと飛べる日のことを夢みてねむれふくふく燕
かけあひのごとうぐひすの声響く肥後街道は梅雨の青空
林から吹く風のなかに街道を行きし人らのざわめき聞こゆ
なまで聞く大分弁のやりとりににんまり笑ひ土産物買ふ
てつぺんを靄にかくしたビルのねき上海人は速足でゆく

あをき風   大西晶子
手榴弾おもはす糞の落とし主いもむし君の壊したきは何
たつぷりと水をたたへた早苗田にあをき風ふく雨上がりの午後
新生児の小さかりしを言い出せり赤子抱く子はゴーギャンの絵に
モネの絵のひなげし畑に立たせたし洋行せし日の帽子の晶子
ナーベラーのみどり汚しぬ火にかける鍋に醤油と味噌など落とし

からまつ   百留ななみ
空に咲く泰山木の一片が白磁となりて降りてくる朝
ねえデイゴ水先案内たのもうか堂々めぐりのたいせつなこと
這松の雪の斑らな土に坐す目蓋の紅のあはき雷鳥
からまつの生ひたる池の鴨の子の三羽が消えつ落葉松の洞
からまつの林の奥処かなかなの小鳥の声がまつすぐに降る

NIRVANA   藤野早苗
黒川の闇を明滅する螢 みづは甘きか人やさしきか
疲れたる母ら憩へりファミレスのドリンクバーに近き一角
早乙女でありしむかしを縁側で語れる媼 あれはわたくし
早苗、稲、米、藁 五十六歳はイネ過ぎて今ヨネのあたりか
トリカブト、アカハライモリ、猫のヒゲ nireva nirutoki niyo NIRVANA


by minaminouozafk | 2018-07-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)