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カテゴリ:ブログ記念日( 41 )

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2月9日、日曜日は「コスモス短歌会福岡支部」の歌会&新年会&チーム「南の魚座」金曜日担当われらが大野英子さんの歌集出版祝賀会。

 アクロス福岡での歌会ののち、水鏡天満宮並びの「梅の花」で、旧暦の新年を祝い、また、英子さんの第一歌集『甘藍の扉』(かんらんのと)のご上梓を言祝ぎました(天満宮並びの梅の花って、なんだかゆかしくて素敵)。

 参加者おひとりずつ、歌集の感想を述べていただいたのですが、みなさんほんとうに熱心に読んでいらして、おことばの一つ一つが温かくて胸に響きました。

 英子さん、素晴らしい歌集を出版してくれてありがとう。


 私たち「南の魚座」も無事、41回目のブログ記念日を迎える運びとなったわけですが、これもお読みくださる方々あってのこと。

 「いつも読んでますよ!」

 ってお声かけいただくだけで、日々の疲れを忘れてしまいます。こんな優しさに触れるたび、「コスモス」という母船のあたたかさをしみじみ思うのです。


 ありがとうございます。


 あ、コスモスって、COSMOS、つまり宇宙。

 その中に「南の魚座」が存在してるって……、

 そもそもそういうことだったんだ。


ブログ記念日41  母船のあたたかさ_f0371014_08154773.jpg

  ひさかたの水鏡天満宮過ぎて香やは隠るる「梅の花」あり


扇面皿   藤野早苗

扇面皿の(くう)を飛びたる鳳凰の年のはじめを五色に飾る

冬の夜の大観覧車Big O ひとつ星座のごとくかがよふ

デミグラスソースではなくケチャップ派ハートマークはこころに描く

すき焼きの鍋をひとりでつつかせてろくな女房ぢやないよな私

紅梅の梢より梢へうつりゆくメジロ一羽の恍惚として


デンドロカカリヤ   有川知津子

風向きがさうなのでせう北の窓をほそく開ければ(うしほ)のにほひ

旅客機は首を下げたり黄金の曼珠沙華咲く夜の博多へ

怠惰なる空気のなかで向かひ合ふデンドロカカリヤ・クレピディフォリヤ

せつかくだけどご辞退するよ昨日までたまたま吸はずにすんだ煙草だ

太陽のコロナのやうに見えるといふコロナウイルス これはほんたう


更新セヨ   鈴木千登世

祖母がゐて父ゐて母も若かりきいとこ煮といふ不思議を食べき

メッセージのつと現れ「コウシンセヨ」「更新セヨ」とパソコンが急く

地下ふかく冷えたる水にかすかなる雪の匂へりまぼろしの雪

のんのんと水面を渉る冬鴨が時折り水に嘴をくぐらす

洗い髪タオルに包む子と並びこぱらぱらりこ鬼豆をまく


遠くの海   大野英子

いちはやく膨らんでゐるくれなゐは遠くの海を見てゐるあなた

福みくじの福をいだいてどの顔も恵比須顔して太鼓橋渡る

会へる日を待つているのは〈目出鯛〉かわたしか暦の赤丸印

冬の雨ふりだす朝を鳴き交はす冬のすずめの朗らかなこゑ

寒の雨に下川端の太宰府の〈撫で牛〉祈りの痛みを流す


あのとき   栗山由利

多数決とればわたしの負けになる 猫と人間、三匹と二人

長年の付き合ひあつての忖度か体重計のやさしさを知る

最新の体重計のつめたさは何度乗つても変はらぬ数字

〈あのとき〉と言へる日は来るきつと来る そのとき話さう今の出来事

春三つ見つけた日には手袋をはづして歩こう川べりの道


復ち返り   大西晶子

三十年ともに暮らせるコンシナが復ち返りせり新芽を出だし

愛情を注ぐにとほき扱ひをしたるコンシナされどまだ生く

植え込みに隠れてをりし沈丁花(じんちよう)のあかくふくらむ蕾あらはる

この今がきらめく記憶となるだろう舞台の上の学生たちに

冬日受けふつくり咲けり虫食ひの穴ある黄色のシンジビウムは


素心   百留ななみ

四万十を遡りたりき息子らの受験のあとの春の花旅

下向きの素心蠟梅の花びらを伝はりて落つ昨夜の雨水

手ぶくろもマフラーも外し大寒の古都東山ふたりで歩く

をぐらやま大納言小豆を蜜で煮て漉餡に混ず 小倉餡レシピ

夕やみの鳳凰堂はがらんどう天つをとめの鉦鼓の余音


by minaminouozafk | 2020-02-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(6)

ブログ記念日40

 2020年、今年初めてのブログ記念日です。昨年末には「南の魚座」Vol.3の発行も無事に終えました。一年間の集大成として、日々の営みの励みになっています。

 このお正月も多くの方から年賀状をいただきました。小学校のときの先生、子供の保育園でご一緒していたお母さん、学校の先輩など年に一度のご挨拶になってしまいましたが、懐かしく手にしています。


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 そして巷では私くらいの年齢になると〈年賀状仕舞い〉をする方もいるという話ですが、短歌を始めたことでのご縁により逆に年賀状が増えてまいりました。嬉しいことです。

 50代後半で飛び込んだ世界ですが、このブログの初回で書いた「はじめの一歩」はわずかではありますが、足跡を残しています。これからも一日一日の一歩を大切に踏みしめていきたいと思っております。

 このブログを訪れていただく皆様の励ましを力に、また次を頑張ってまいります。今後とも私たちの「南の魚座」をどうぞよろしくお願い申し上げます。


ねえ相棒   栗山由利

追ひかけてかくれて急にとびだして午後の冬日に猫とくるまる

しあはせを手にした子猫がしあはせを運んでくれたメリークリスマス

上手くいく秘訣はひとつ、ねえ相棒 まづは相手を好きにならうよ

日本語とハングル、汉语まざりあふ時をおぼえていてね 三歳 

前に出す一歩はいつもはじめての一歩と思ひしつかりと踏む


歳晩  大西晶子

城跡はいまひかりの巣とりどりの色に息づく卵をいだき

ほのぼのと満天星あかき歳晩を宅配のくるま忙しくはしる

あたらしき白き布巾をおろしおく雑煮の椀と屠蘇器のために

いろどりの少なき冬の公園に八つ手の花のけぶるがに()

みづがねの色にしづもる水の面をみださずもぐる冬の軽鴨


クレーンのキリン   百留ななみ

鯵、平目、鮗釣れる太刀浦のガントリークレーン はたらくキリン

リフォームで開け放したるリビングのイシガケチョウは冬の夢虫

モッくんのために植えたる小松菜が庭のはたけのはじめの一歩

対岸にクレーンのキリン 落日のサバンナみたいな黎明のうみ

海峡の橋の下ゆく巨き船七千台の車を積みて


薔薇の棘   藤野早苗

うつくしき言を入れたるふたひらの耳はさやげり聖夜の風に

子とわれの交はすメールのナラティヴにともに過ごしし時間のぞけり

指ふかく潜みし薔薇の棘ひとつ押し上げてわがホメオスタシス

大歳の湯ぶねに浮かぶ柚子の実のしあはせだなつて感じの黄色

包丁の背でせりなずなストトントン唐土の鳥のゆゑわからねど


案中   有川知津子

朝方に祖母がきたりてわが夜具を引き上げゐたるけはひ 夢なり

うなばらの返すひかりは若くしてまなざしのごとしひとをつつめる

三年に二度ほどかしら隣人と揃つてドアをあける朝あり

垂れる血のそのリアリズムべにいろに膠を溶かすをとこの手見ゆ  *「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」展 

山案中(やまあんぢゆ)そして野案中(のあんぢゆ) ぽうぽうと案じられつつ年あらたまる


いやしけ   鈴木千登世

モミを挿し赤き実を挿し盤上に森を作りぬ沼秘む森を

サビエルも見上げただらう絹雲を薄く刷きたる冬の蒼穹

ひひらぎの花白く咲きはるかなる歌人(うたびと)思ふその師を思ふ

いやしけと願ひつつ聞く初春の幼きもののだれか呼ぶ声

深藍の全天あをぎ見る目見に清かに光る北極星(ノースポール)


朱のひとはな  大野英子

雨飛沫飛ばしとばしてとうきやうを発ちしが博多に冬がきてゐた

わたくしをあかるく迎えてくれるだらう冬のアロエの(あけ)のひとはな

凛とたつ朱のアロエの鱗片を纏ふつぼみはまだ固きまま

鱗片の固きアロエはわたくしを待たせ待たせて終ふる元年

六年を寝かしてをりし塗り椀につゆそそぐときほうとこゑする


by minaminouozafk | 2020-01-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(6)

ブログ記念日39

 

 12月8日(日)、コスモス福岡支部は今年最後の歌会を終えました。

 大いに学びました(そうでありたい!)。歌の作り方、読み方はもちろんですが、この日は、ことばや文化、人物、歴史、宇宙の様子などについても、ちょっとした学び合いがありました。

 加えて、――私的なことになりますが――歌の巧拙とは別の部分で、発信者の魅力に心を動かされることがありました。もしかしたらそれは、「人間力」という何かかもしれません。こうした余白の学びは、批評の俎上にのぼることはありませんし、割り切って説明できるものでもありません。けれども、端的に得た分かりやすい知識よりもかえって長く胸底にとどまるようです。



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モロー作

〈雲の上を歩く翼あるアレクサンドリーヌ・デュルーとギュスターヴ・モロー〉

*アレクサンドリーヌ・デュルーは、30年近くモローに寄り添い続けた恋人



 今日は、39回目のブログ記念日。

 ブログをとおして、今年も、新たな出会いがありました。これまで出会ってくださったみなさま、こころよりありがとうございます。そしてこれからも、ありがとうございます。一年の終わりに向けて、それぞれにご多用になることと存じます。くれぐれもご自愛くださいますよう。



深潭   有川知津子

ハーモニカをつつむ両手よふるさとに舫はれてゐる船を揺らして

チェロ奏者のやうに揺れしか賜はりしヨハネの首を抱きてサロメは *モロー展

雲の上あるくふたりは一対のてのひらほどの翼を分かつ

深潭をのぞくがごとき自画像の絡子の環が鈍くひかりぬ *高島野十郎展

星ばかりみてゐますからこのところ首の小さな皺がやさしい


銀のたてがみ   鈴木千登世

渇すると言ふやうに読む書のありぬ文字追ふも息吸ふも忘れて

大島の鳴門の瀬戸を橋に越ゆ玉藻ゆらめく海を見下ろし

事故の記憶とどむる島の橋越えて皇帝ダリアのむらさき仰ぐ

はじまりに「みだれ髪」あるうたびとの律に晶子のひびきさがしぬ

幻の奔馬過ぎゆく冬の野にそよぎてやまぬ銀のたてがみ


声は新し  大野英子

つねに君の声は新し秋風に保存、更新されてゆくこゑ

白秋の、小島ゆかりの自在なる風がもみぢの色を深める

ひとり酌む秋の夜長の友として話し相手となる『秋夜吟』

野十郎より手渡されゆく〈蝋燭〉のゆらぐ炎のゆるがぬすがた

〈蝋燭〉の体現のごとき自画像か自画像の化身なのか〈蝋燭〉


コイントス   栗山由利

ねぎ足やごぼう足ではありません 大根足です昭和のをんな

古代からつづく流れに灯篭の灯りが揺れる裂田溝

留学の収穫ひとつ子は餃子作りにたけて太り帰り来

投げ上げたコインが虹の七色をあつめて落ちるてのひらのうへ

コイントスはいつも表と決めている表はいいに決まつてるから


 〈きぼう〉 大西晶子

丈高くそだちて空で咲きてをり風折れしやすき皇帝ダリア

星見えぬゆふぞら高く飛び行ける〈きぼう〉かがやく砂金粒ほど

さざんくわの獅子頭とは寒椿よび名かへても同じくれなゐ

ポンカンと清実の子なるシラヌヒの甘き良き実はデコポンと呼ばる

デコポンの音感たのしき名のうらに農の技術と組織力あり


葉つぱ   百留ななみ

お舟手の海をひねもすながむべしスナメリの顔あらはるるまで

きんいろの公孫樹の葉つぱに埋もれてるリョースケ二歳が待ち受け画面

風のなき峡のもみぢ葉またひとつ宙をあそびて肩に不時着

にんげんとくじらの(あはひ)にながれたる冷たき水を照らす太陽

あたらしきオリーブの葉がぴりぴりり師走の空にひろがりてゆく


JingleJingle   藤野早苗

天動説はるかにそびえ揺るがざる中世の夜の闇深からん

みづからが選びしはずの運命に選ばれてゐるホモ・サピエンス

とぶとりの明日かも知れずA.I.のシンギュラリティ宣言聞くは

熾烈なる争奪戦もありにけん五十四帖ゆかしきものぞ

ことばにはしないけれども信じてる jingle jingle 来るかの人を


by minaminouozafk | 2019-12-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日38

 立冬を過ぎたが昼間はまだコートも要らない暖かさ。

 虫たちもまだ活動中だがさすがに少なくなってきている。なんとなく視線を感じ地面を見る。道路わきのセメントに怪しげな虫。ナナフシ?と思ったがスリム感に欠けるような・・・写真を撮ろうと近寄ってもぜんぜん逃げない。いやもう逃げられないのかもしれない。

 帰ってネットで調べてみるとトゲナナフシ。ちょっとおデブでトゲトゲ感はなかったような・・・が写真をよく見たらトゲトゲが背中にある。愛嬌たっぷりで可愛い。触ってはいないがトゲトゲは見せかけだけで痛くはないようだ。好きな食べ物もアザミや野バラなどのトゲトゲ系らしい。卵も硬い殻に覆われていてまるで植物の種。


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 ブログ記念日も38回目。いきなり始まったあの夏が遠くに感じる。虫も草もそろそろ休眠。3回目の冬を迎えます。いつもブログを読んでいただきありがとうございます。日々のつぶやきですが発信することで小さな足跡になっている気がします。これからもよろしくお願いいたします。



ふたたび   百留ななみ

三葉のさくらもみぢ葉とらへたる蜘蛛の巣に蜘蛛をらぬ夕ぐれ

<忠度>の亀山能を拝観す赤間の宮の神輿とともに

金木犀ふたたび匂ふ神無月その香をたどり蝶のあとゆく

そこに佇ち見まもりたるや千余年  青漆いろの楠の半眼

太つちよのトゲナナフシが立冬のひだまりのなかころがつてゐる


肉球   藤野早苗

公彦が定家に重なる午前二時「つひの栖」を読んで眠らん

たまきはるいのちの重さ知るひとの握るペンよりうた立ち上がる

ツユクサもそを見るわれもこの星に生きるいのちといふ一括り

起きなさいもう朝だよと肉球の冷たきをわが額に押し当つ

まぼろしと知れどホカペに身を伸ばす汝を見飽かぬ霜月の朔


帰らず   有川知津子

この夏を振り返るとき卓上に薄むらさきのビンカ・マジョール

飲まうやと(つき)をあげをり一人つ子の時代を持たぬおとうと二人

秋空はをかしいまでに晴れ上がり少しいびつなわが飢渇丸

音立てて鳶(のぼ)りゆき惚れやすき人の名まへをゼウスと覚ゆ

眼球が帰らうと言ふうぶすなは入江につづいてゐる草紅葉


ひたすら   鈴木千登世

小さき鉤ただそれだけに身を任せ異郷はるばるいのこづち行く

蓮の葉を真似びて作るしろがねのシートに露のごと珠の()

ゆふぐれの金のゑのころ 火の匂ひ恋しくなつて家に戻りぬ

鈴生りのりんごの奥の秋空に白あはあはと爪の月の浮く

詠みて読むそのひたすらに集ひたる人らと秋の一日語りぬ


残像   大野英子

薄れゆく飛行機雲は思ひ出の残像きつとわすれないから

上屋(うはや)」ということばと出会ひ立ち止まるふたりの背に汽笛が響く

家呑みの夜長うれしも到来の旬をいただき記憶を手繰り

瑞歯(みづは)さす人への歌評を粛然と車椅子に添ひ聴き入る息子

会果ててひとりふたたび呑み直す会ひし人らの笑顔を思ひ


ハートのつり革   栗山由利

それぞれの旅の途中の仲間たち とら、いね、たねも子らも私も

鉢割れのこころの傷が癒えるまで猫になります母になります

風きつて走つたことはないけれどエアロバイクで地球二周目

朝七時コンビニおにぎり買ふ人のために夜中に働くだれか

しあはせのハートのつり革つかんだらおぢさんにだつてしあはせは来る


海こえる蝶   大西晶子

歌碑のまへあげる祝詞にかさなれり海峡をゆく船の笛の音

海こえる蝶のひとつを思ふとき夜のかみなりとほくとどろく

うつしよのしばり越えたるうつくしさ玉三郎の楊貴妃の舞 

大好きなアンパンマンは大きくてびつくりしたね小さいユウタ

どのパンもみな同じかほ機械もて目鼻かかれたアンパンマン麺麭(パン)


by minaminouozafk | 2019-11-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日37

このブログも170週目に入る、キリの良い回数の日に担当となりました。


この場を借りてわたくしの第一歌集「甘藍の扉」を読んでくださって、感想や励ましを下った多くのみなさまにお礼申し上げます。


そのなかでも、ブログを楽しみに読んでいますという多くのお言葉に励まされています。なかには「コメント欄の気の置けない雑談も楽しみ」とのお言葉もいただきましたこと、嬉しく思います。そう、本当に楽しんでいる私たち。


私たちが楽しくなければ、読者の方にも楽しんでいただけない。そんな気持ちを持ち続けたいと改めて感じています。


7名の力と共に、読んで下さるみなさまがあって積み重なった170週、深く感謝いたします。これからも日常の細事とともに、短歌のあれこれをお届けしたいと思っています。秋の青空のように深く、広いお心を持って読んでいただければと願っています。


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       薄れゆく飛行機雲は思ひ出の残像きつとわすれないから


猫のいうわく   大野英子

わたぼうしたくさんつけて飛んでゆけ次は大地でのびのび育て

仄あかき凌霄花に抱かれてうつとりと家はひと夏終へる

稲の穂の稔りゆたかにシャラシャラと聴こえるやうな風が過ぎゆく

「飼ふ覚悟なければ触れてはいけません」思へど触れたい猫のいうわく

「文様」か「紋様」なのか白熱の議論こそ佳き神無月の夜


英子先生   栗山由利

路線バスを乗り継ぐ旅に誘はれる雲がながれるその先の町へ

どこへでもつれてつてくれる軽い靴 心の中の羽がある靴

夏空がさみしさ見せる夕ぐれは小石をかるく蹴飛ばしてみる

十人が手をつなぐ輪の真ん中に英子先生凛としてをり

あがらない雨はないのよ朝やけの虹をスタートラインにしよう


田のなかの道  大西晶子

うたびとの伊藤常足旧居指し車走らす田のなかの道

印刷の誤りならず古門の地に古物神社の書かれたる地図

王宮のうたげの卓にぶだうの房かならずありき絵本のなかで

夜の海を飛ぶダツ恐る槍になり光をめがけ突進するを

はなやかに祭列すすむ宗像に稲穂ゆたかに垂るる秋来て


百留ななみ

水面のひかりのうろくづ青空の雲のうろくづ 煌めきあへり

団栗の山道をぬけ吾亦紅、松虫草の草生のひかり

台風のあとの蒼空 境内の土に散らばるふたごの銀杏

しののめの朱金のうろこ雲が消え青空やがて本降りの雨

雨あとの水浅葱色の空にある宋の青磁の牡丹唐草


革命家   藤野早苗

歌人論令和の御代に語られて耳こそばゆき旅人、家持

もうすでに若くないのださうなのだ 革命家の目せる者のまへ

採取のみに過ごしてたんぢやないらしい弓矢使へた縄文女性

ジェンダーを考へをればとの曇る博多のけふの空模様かな

甘藍の扉の向かう出立をよろこびたまふ君が父見ゆ


二つある月   有川知津子

少しづつ故郷の納屋は狭くなりその年の秋にさらさら更地

カーテンのうちの光のやはらかさ会ひたき人に会へるとびらよ

寄りてこぬ猫のまへあし撫でるときわれの()(ひたひ)はつかにぬくし

切り替へてゆかう青空それはそれこれはこれつて雲梯わたる

うはばみがけむりを吐いて去りゆけりそれより空に二つある月


だいだらぼつち   鈴木千登世

野にありしはかなさのまま藤袴園芸店の店先に揺る

蝶の来る明日の日思ひ庭に植うかつて野原を統べしむらさき

とほくとほく海を見てをりひとでなく樹でなくだいだらぼつちとなつて

夜間飛行する眼の下にきらめけるきれいはさみしいとうきやうの(くわう)

水流の遠く聞こえる秋の夜に地はひとしづく綺羅星生めり


by minaminouozafk | 2019-10-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(6)

ブログ記念日36


もうそろそろ、天上の「南の魚座」がぐっと見えやすい季節になります。


南の地平線上に横たわる「南の魚」は、豪快に口をあけ、水瓶座の瓶から注がれる液体を飲み干すいきおいです。ブログメンバーの中には、この液体が、お酒だったら、と思っている人もいるかもしれません。


私どものブログ〈南の魚座 福岡短歌日乗〉は、今日、36回目の記念日を迎えました。

日々が過ごせていることには、ただただ感謝ばかりです。


ブログをご訪問くださり、心よりありがとうございます。

皆様のご健勝を思っています。




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夜の連弾   有川知津子

夏のひとは人なつつこくなつかしいまぶた閉ぢればそこにゐるひと

たまごから孵つたばかりの椿象の寄り合ふ呼吸しんとひろがる

いつまでも忘れずゐよう雷鳴のふかき空より来たるメールを

この世から持ちて出られるものなきを 二百十日の夜の連弾

父母の朝ののこりの味噌汁に赤たまご島たまごこつんと落とす


空飛ぶペンギン   鈴木千登世

家籠もり野分の声を聞いてをり耳鳴りかすか兆しはじめぬ

願ふのは日々の小さな幸ひの 夏空の下イルカ跳ねたり

空を飛ぶペンギンの辺に摩訶不思議空中浮揚をなせる足裏

画布に描くやうにことばを紡ぎたりラーゲリ描きし香月泰男は

露草の青見つめたり画家の言ふ夏の形見といふを思ひて


雨の音   大野英子

だいぢやうぶ切りはなしてこそ胴体はしつかり食べるよ睨むなイリコ

すつきりと明るき庭を喜んで父母の化身のカノコユリ咲く

クマゼミのこゑ湧く(あした)ページ繰る『かなかなしぐれ』を風がぬけゆく

蟬のこゑきこえぬ朝をきいてゐるベランダを強く打つ雨の音

朝焼けのそらを見上げて思ひをりいまごろ眠りにつくこどもたち


空の青さ   栗山由利

ハイタッチしてをさなごに渡したい今より澄んだ空の青さを

笑ひ声ひびく青空の下にすむにんげんならば嘘はつけない

脈をとる診察室のしづけさにとほくきこえる蜩の声

青銅の軍馬のいななき空をきる主まもりし墓より出でて

飾り切りされたカボスがこころなし所在なさげなタンブラーの縁


隠し味   大西晶子

社外秘のレシピのなぞがが隠し味折尾名物かしわめし弁当

戦前の出版なれば地の文は片仮名表記の『日本植物図鑑』

生まれ国かたち違へど苦瓜はやはり苦瓜いづれも苦く 

苦瓜の葉陰にいこふ羽虫らを狙いてしづか玻璃のやもりは

本ひらき天保の世に滑りこむ小田宅子刀自の旅に供して


胴体着陸   百留ななみ

一羽だと思ひつづけしアオサギは親子三羽のいづれか一羽

群れをなすニンゲンどもをほどほどに交じらはせたる(あはひ)のちから

夕やみを灯せる金子(きんす)これは夢 スマホ決済はうつつなりたり

あの夏の母の扇よ文字ありてひとは歌ひてこころを得たり

ひらりふらオハグロトンボ不時着す青銀いろの胴体着陸


嬬恋ひ   藤野早苗

液晶の画面に向かふ日々ながしペンケースには消しゴムあらず

嬬恋ひが待てる浄土に夫恋ひの往きていまごろ夫婦善哉

還暦の兄と五十七のわれ もうけんかせずさびしかりけり

酔芙蓉地にころがれり ひいふうみよいつむうなな 一夏畢んぬ

うすき背の見ゆるかぎりを見送りぬ爪先立ちですこしのめつて



by minaminouozafk | 2019-09-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日35

 今日はこの「南の魚座 福岡短歌日乗」のブログを始めて四回目の記念日。三年間途切れることなく毎日更新してこられたのは七人のメンバーと三人のスタッフのおかげだ。また読んで下さる方たちから得た力も大きい。続けて来られたことに本当に感謝する。


 それにしても年月の過ぎるのが速いとおもうこの頃だ。今年は北部九州では梅雨入りが記録的に遅く開けるのも遅かったので、盛夏になったと思ったらすぐに立秋を迎えてしまった。実際には当分残暑が厳しい日が続くと思われるが、そろそろ夜には虫の音が聴こえ始め、庭の柑橘類には青いちいさな実が育っている。千登世さんの1日の記事にも「夏の中に秋をみつけたよう」とあった。「夏果てて秋くるにはあらず。(中略)夏より既に秋は通(かよ)ひ~」は兼好法師の言。季節の移り変わりだけではない、社会の変化の兆しにも敏感でありたいと思う。


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花の未来図   大西晶子

すなどりて暮らす人らの村ありきビル蝟集するドバイに昔

目鯵など親しき魚を食べる人とほきアラブにあるを喜ぶ

ひまはりの大き花束かかへ持ち画室へ急ぎけんアルルのゴッホ

あさがおの小さき種は秘めもてり人知およばぬ花の未来図

おもしろく笑へるはずの歌を読みそのあと寂し夏の夜ふけて


朱   百留ななみ

祈りつつカーテンひらく田貫湖の朱金の富士とほんたうの富士

外つ国のキマダラカメムシ老木の染井吉野につどひあひたり

黎明の朱金のそらにみづうみにうす墨色の水無月の富士

朱のいろのさくらもみぢ葉きらきらしクマゼミつどふ梅雨のさくら木

ちやうちんの山笠(やま)の提灯ふたつみつカーブで消ゆる戸畑の祇園


Point of no return.   藤野早苗

清貧の聖者の御名を冠したる台風北上せり原爆忌

アマゾンを伐採しシベリアを焼き尽くしPoint of no return. もうここにある

生涯に男の子生まざりし口惜しさ夜蟬さわげばじんわり滲む

いちにちの栞と玻璃の急須よりほそく注ぎぬ水出し煎茶

うつかりに潜む本音の一夜干し 拡散シェア シェア拡散


借りつぱなし   有川知津子

電話なら糸でんわですあけぼのをひとすぢのぼる蜩のこゑ

こつちこそよ、と言ふ日は来ぬか三十二年借りつぱなしのばなな『キッチン』

をさなごの握りしめたるチョコレートつばさを持たぬものは溶けたり

こは釦きのこのやうで白ぼたん梅雨の月夜に見つけたものは

あるきたい気持ちになりぬもうずつと一人つ子なる母をさそひて


遠鳴き   鈴木千登世

巡り来る七十四年目の夏よ朝のからすの遠鳴きを聞く

雨垂れを聴きて眠れる雨の夜流れるものに眠りを委ぬ

水つかふ生活の音の辺を過ぎぬ百日紅白くひそやかな庭

南風(みんなみ)に緑の海が揺れる昼てのひら閉ぢてみどりごねむる

信号も人もかぎろふ街上を影濃く歩む今日八月忌


赤いくさぐさ   大野英子

忘れてはならぬ戦争、震災を遺すうたびとのそのこころはや

かたちからなのか気持ちが先なのか判らぬままの赤いくさぐさ

新しきワンピース着て歩きたし九十歳になつたわたしは

お隣りの赤子の泣きごゑ聴きながらわたしはみどりのいのち育む

クマゼミが鳴きだすときをけふひとひ乗り切るためのコーヒー淹れる


友といふ人   栗山由利

たちまちに時計の針を逆まはしできる人をり 友といふ人

喧騒はのみこまれまた喧騒となりてふくらむ上海の街

夏空へたかくとびたつ少年よ さうだ今から鳥になるのだ

さよならの涙をふいたハンカチでけふは笑顔のくちもとかくす

狗尾草(ゑのころ)がよんでゐるからさあ早くでておいでなさい そこのキジネコ


by minaminouozafk | 2019-08-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

 今日は34回目のブログ記念日です。初心を忘れないために、と1ヶ月の間に発表した短歌作品5首一連をアップする目的でブログ記念日は設けられました。月1回なので単純に30をかけると、34×30は1020。最初の1月はまだブログ記念日が定められてなかったので、もう30日足して1050日。7人で交代しながら書き綴ってきて千日を超えた(ということは1000首を超える歌が生まれた~)ことに感慨を覚えています。

 私自身は少し遅れての参加ですが、今日で138回目の担当となりました。138もの記事を書くとは(書けるとは)……。一人では絶対に出来なかったことです。

 「読んでいます」の声が大きな励みとなっています。魚座の仲間が心強い支えとなっています。

 「量は質に変わる」という言葉が好きです。地道に続けていくことで育ってゆくものがあることを願って、日々の小さな思いを言葉や歌にしていきたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 写真は以前にご紹介した源久寺の大賀蓮(古代蓮)です。咲きました~。2000年前の弥生の人も見た風景、はろばろとします。


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知ラセテネ   鈴木千登世

狐雨通り過ぎたる境内にあぢさゐ青き宇宙を起こす

上りゆく蜘蛛を仰ぎて上りたき心湧きぬ何に渇くか

知ラセテネ かすかに声の聞こえきて龍福禅寺参道緑陰

うつむきて咲く擬宝珠のむらさきのあはき憂ひに水無月の尽く

少女らは細い(おゆび)にひそひそと襞たたみたり夜をたたむがに


あしたも晴れる   大野英子

わたくしを鞭打つごとく枝を引くたびに雨滴を落とす老い梅

とろとろと夕焼けいろに煮詰めゆく梅、さうきつとあしたも晴れる

九尾狐にかすめとられた梅ならんわたしをあはく照らす月影

水無川さへ隔てえぬ夫婦なり詠んで詠まれて連れ添ふふたり

ふたりにはなれぬまままた夏が来てゆふぐれ寒きしちぐわつよつか


やはらかき声   栗山由利

語尾あげて「すいとうと?」つて聞いたとき猫はとほくをみる目をしてた

このごろはおきうと売りの声きけずおきうとに似たやはらかき声

ゆふぐれの鴉の声にせかされて出すひと足が大股になる

朝にいふ「いつてらつしやい」夜にいふ「おかへりなさい」で一日しづまる

かけまはり、たふれこみ、またかけまはり永遠のごとく青の時代は


夏の入り口  大西晶子

司生(ししよう)(むし)のをりし龍ヶ岳の麓なる職場で夫は日々老い人を診る

そのかみは三毛や白やと呼ばれけん鼠退治で斃れし猫ら

子と孫に送ると本の小包をかかへて歩く小雨降るなか

庭すみの小さき畑で生るきゆうり食べつつ夏はいまだ入り口

にがうりの苦実炒める日々つづき夏の暑さに肌が慣れゆく


葛原   百留ななみ

しかと見よゲンバクによるニンゲンのまつ黒焦げの爛れた顔を

窓ぎはの蚊取線香つけしまま網戸で寝ねけり 昭和の子ども

羽衣をなびかせ天女の降りたつや七夕真夜の余呉のみづうみ

月光のま葛が原で蔓先を天へと競ふ葛モンスター

踏みしだく人はゐないよあたらしきコンクリートの葛原の道


文学批評   藤野早苗

邂逅はヒガンバナ咲く長月の太宰府 幸ひ人をひた待つ

ストレスが具現化したる結石といふ医師の目のわが方に向く

吹き荒れてやがてあたらし火を三つもてるその風「飇」つむじかぜ

自分史を投影しない記さない「文学批評」その一の一

紫陽花の葉裏にひかるひとすぢの マイマイツブリ銀のアリバイ


月下の群   有川知津子

梅雨の夜は夢のつづきに降りやすしチョウチンアンコウのわれに会ふゆめ

樅の木よおまへはどこへ帰るのか冬ひとときを塵芥のなか

「厚狭」といふ地名のゆゑを調べんと書き付けおきし紙片がのこる

黒鍵に狙ひさだめて降るごとし人を送りしのちのゆふだち

手を振れば手をふりかへす仲間ゐて月下の群はまた歩き出す


by minaminouozafk | 2019-07-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

 今年の北部九州の入梅は遅い。関東地方の方が先に梅雨入り宣言してしまった。けれど体感的にはしっかりじめじめしていて、もうすでに梅雨入りしていました……なんていうことがあるのではないかしらと思ったりしている。



 この時期になると思い出す。娘が生まれる前の年だからもう22年前。6月だった。インドネシアに出張だった夫がお土産に布をたくさん買ってきた。日本よりさらに蒸し暑いその国で出会った木綿の布たちは、すずやかで、素朴で、肌にも心にも優しかったのだそうだ。


 その布が更紗。異国情緒ゆたかな彩色と図案に私は一瞬で心をわしづかみにされた。梅雨期の、頭痛までするようなうっとおしさがたちまち雲散霧消してしまった。Sarasaというs子音の響きのすずしさもまた心地いい。テーブルクロス、ベッドカバー、パーティション……、もうすっかりこの布はわが家にはなくてはならないものになったのだった。


 そして、その一年後の暑い夏の日、思いがけずわが家に誕生した女の子に付けた名前が何だったかはもう言う必要もないだろう。


 先日、フェイスブックで知った展示会。舞鶴の「ギャラリー黒砂糖」でたくさんの更紗と出会い、また一人、家族を増やしてしまったのだった。



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髪ひとすぢ   藤野早苗

犬つれて雨後の町へと歩き出す幸ひ人にさいはひもらふ

床の上に発光しをりわたくしを離りてゆきし髪のひとすぢ

この一会おろそかならずうたびとのえにしに集ふ五月とある日

瞠いてつぶさにぞ見よいうきうと呼ばれしものの崩れゆくさま

入梅の報いまだなりアジサイの球花支ふるうなじ細くて


すてきな歌   有川知津子

まぼろしの鷲の翼をなぞりをり夏のほとりに立つ南部富士

きたかみ、と北上川の名を呼べばわが両耳は風にそよぐ木

チグリスとユーフラテスは出合ふときどちらが先にああ、と言ひしか

いつだつてそんなものです夢の中で作つた歌はすてきな歌で

海よりの風かがやかぬ曇り日に庭をあやしてゐるしやぼんだま


世界を旅する植物館   鈴木千登世

みづうみの風の吹き抜ける丘のうへ「世界を旅する植物館」あり

和名まだない植物の名をたどり森をめぐりぬ湿りを帯びて

水流を通して見つむ群青の闇に見えない星を見てをり

群青の夜のふところに息づけり水より()れし火の子ほうたる

水無月のみづの匂へる夜の田に老ごびらつふふつと眼を開く


洗はれる石   大野英子

とうめうの緑のつるののびやかさけふもこころとお腹を満たす

眼鏡ふと指でもちあげジョーク言ふ人せうねんの含み笑ひし

雨上がるわが誕生日、空よりも空美しき川面と出会ふ

せせらぎのながれに憩ひ洗はれる石となりゆくやうな一冊

漢籍に辿りつきゆくゆたかなる旅人、憶良をひもとく時間


「く」の字   栗山由利

教へてはもらはなくてもゴキブリを見て家猫はハンターになる

家猫をハンターにしたゴキブリののこつた脚はせつなく「く」の字

千年のみづの流れはゆるぎなし緋鯉の影を光にかくす

大海をみてきた鯛の眼球を大海をしらぬわれがいただく

それぞれに名前がありてそれぞれの個性きはだつ花も人らも


めぐみ   大西晶子

航海に長けし宗像一族の墳墓ならべり海ちかき地に

五世紀より眠る墳墓を去りにけむ死者のたましひ海に還ると

陽光のめぐみなるべし津屋崎の過去の製塩いまの発電

教卓の花瓶に紺のやぐるまぎく午後の教室ただ明るくて

無彩色の絵より聴こえてかうかうと雁がねの声絶ゆるなき声


朝の蛍   百留ななみ

あふぎみる若戸大橋 青空にカドミウムレッドの直線きらり

草つたふ赤き胸もつ甲虫は音信川の朝の螢よ

ホバリング止めいつしんに蜜を吸ふオオハナアブの縞々の眼

飛ぶことは無理でもちやんと生きること教えてください黒猫ゾルバ

〈高砂〉は住之江までの舟旅ぞはじめてひろぐ観世流謡本


by minaminouozafk | 2019-06-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日32

 立夏を過ぎ、木漏れ日が美しい季節になってきた。青葉がそよぐ桜の木の下に入ってみると、若々しい緑色のなかに一輪だけ、たった一輪だけの桜の花を見つけた。


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 春の忘れ物?桜のいたずら?

 こんな小さなことに心が惹かれるようになったのは、もちろん短歌のおかげに他ならない。さあ、もっともっと新しいことを見つけに出かけましょう!


 私たちの日々のつぶやきに、目をとめてくださる読者の皆様に心から感謝いたします。変わらない日常のちょっとした輝きを残していけたらと思っています。


可能性玉子   栗山由利

いつだつてグーしかだせない猫の手は片手でつつめるしあはせサイズ

をさなごがかかへる〈可能性玉子〉なかからコツコツつつく音する

「おいしい」を最強応援団にして立つお得意のキッチンステージ

ひとつぶの桜ん坊にひとつぶの光はぢける雨あがる朝

めざめどき忘れたやうな一輪の桜五月の風にふるへる


大内山   大西晶子

不動尊まつる御寺に咲くさくら大内山は紅き葉を負ふ

日々すがた変へる桜の大内山見るとかよへり婿がねのごと

さみどりの木の芽ひらくを待ちに待つ母の味なる木の芽和へ欲り

萩焼の椀の抹茶を飲むのみど触れてゆきたり花散らす風

コーランを聴きてそだちし猫たちが歩く街なり子の住むドバイ


芬陀利華   百留ななみ
さみどりのかへるでの葉つぱその下に紅点点花あふれて咲きぬ
八百万神おはしますこの国はみんなちがつてみんないいのだ
生年はグレースケリーと同じなり夫の祖父の歌集『芬陀利華(ふんだりけ)
潮音の黄華鬘草(きけまんそう)の径のはて向津具半島(むかつくはんとう)川尻岬
つやつやの蓮の浮き葉の池の面 真夏の(あした)〈芬陀利華〉咲く


をちかへるべし   藤野早苗

青白き灯にうづくまる品々の賞味期限といふ名のいのち

胸に手をあてて歌はん We are the champions. われらのアンセムとして

五百重波花弁かさねて牡丹は牡丹色の(くう)をいだけり

平成の三十年を費やして「気づきの短歌」成せる人あり

『八十の夏』『八十一の春』過ぎて歌人オクムラをちかへるべし


カプセルトイ   有川知津子

はなびらは一筆描きに消えゆけり春は軌跡のくきやかなとき

うつすらと埃纏ひぬひだまりのサプリメントの褐色の壜

犬と人、しばらくののち鳩が越ゆ落ちたばかりのくすの小花を

フェルディナンドの指をほどきてほらと置くカプセルトイのなかの月光

小雨ふる林のほとり人がゐて木を見上げをり木のやうな人


夏柑の実   鈴木千登世

我が庭は憩ひやすいか白花のたんぽぽぽぽぽぽ一列に咲く

初生りの夏柑の実を手に載せぬ我が産むもののやうに(むす)びて

二つ目の実は母猿にもがれたり夏柑の花ほのかに匂ふ

母猿よわが夏柑はすつぱいぞすつぱすつぱと子猿が泣くぞ

水と陽と風の集へる公園の守衛のごとし鋼のオブジェ


シロヤマブキ   大野英子

死者たちもあふぎ見るらん魂鎮めするごとく降るさくらはなびら

やはらかに柳わかばの枝揺るる川るいるいと花筏ゆく

葉桜にかささぎ一羽憩ひゐる園にやさしく降る涙雨

わたしここから生まれたのよといふやうにシロヤマブキのうへゆく白蝶

亡き母の誕生日過ぎ平成はおはりしづかに春の雨過ぐ



by minaminouozafk | 2019-05-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)