ブログ記念日21

June bride ローマ神話の女神Juno に見守られた幸せたっぷりの6月の花嫁。

6月は水無月、梅雨の季で青水無月ともいう。

きれいな水色のドレス。それにピッタリの ティアドロップブーケ。

Tear drop は涙のひとしずく。


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教会での真白なウェディングドレスのときは白と淡いピンクの薔薇のラウンドブーケだった。

友人の家で手入れの行き届いた咲きほこる色とりどりの美しい薔薇を見たのは2週間前。

水色のドレスにふさわしいアンティークな微妙にニュアンスの違う薔薇の花。テーブルフラワーも優しい色の薔薇。甘い薔薇の匂いが立ちこめている。


今年の薔薇が咲き始めた5月5日。短歌を始めるきっかけとなった大切な師の森重香代子氏の夫君の古川薫氏が逝去された。おたがいにリスペクトされている本当にすてきなご夫婦でした。師の第二歌集『二生』を読み返しています。


旅行カバンに秘めてもち来し薔薇の花ベッドのわれに夫は呉れたり

                      森重香代子『二生』




ティアドロップ   百留ななみ

名を知れば小さきむらさき愛ほしかり付箋だらけの野の花図鑑

オレンジのドロップひとつ転がりて五月の夜に小童(こわっぱ)つどふ

むらさきの野蒜坊主は(むか)()なり小さき星花やうやく咲きぬ

土塊の握り仏の手向け花 野蒜の(しゅ)()の白花を摘む

水無月のウェディングブーケは藤色と撫子色のティアドロップ


永遠の半身   藤野早苗

厨うたないがしろにせし二十年 漂白液に布巾を沈む

わが知らぬ鉱脈眠る厨うた若きらは掘るごくナチュラルに

永遠の半身として北に棲むうたびと思ふその生思ふ

捲りゆく頁はどこもあたらしき雪の匂ひす「Sainte Neige」は

魔女よりの一撃に伏す床のうへ四方の壁がかぶさつて来る


市ヶ谷の空   有川知津子

先人のサイドラインに導かれ柊二の歌をめぐる半日

後ろ手にエプロン解けばゆふぐれぬ 永遠(とは)にまへゆく祖母のゐること

咲くといふことのしづけさ中庭にけふも杖曳くひとがたたずむ

昼の月あふぎゐるとき気づきたりクリップ一つポケットのなか

百ほどの鳩放たるるけはひして振り向けば青し市ヶ谷の空


風を呼ぶ壁   鈴木千登世

木々揺らす青嵐また親しけれ君の為吹く清風と聞き

あかつきの夢に来鳴けるほととぎす夏告げ鳥のくきやかな声

湧きやまぬ泉のごときもののあれ目先忙しきこの日常に

森に生ふる草みつみつと覆ふ壁 呼吸する壁、風を呼ぶ壁

黒髪に水の匂へる六月の朝の池に睡蓮ひらく


海色の鉢   大野英子

大雨は去り去りがたき別れぎはお互ひエイコと気付く可笑しさ

きつと父もこうしただらう潮風を浴びる楓は海色の鉢

黄のバラは母を思はせすがすがと揺れる五月のひかりたづさへ

ふかくあはき墨がいざなふ(えにし)ある秘窯の里をふたたび訪はん

青螺山颪吹き来よ鳴り出だせめだかが泳ぐ伊万里風鈴


地球の隅   栗山由利

あめ色の母子手帳にあり若き日の母が記せしわたくしのこと

初夏の風たちあがれ巣立ちする鴉をのせて空の高みへ

八分を新幹線のたびびととなりて降りたつ博多南駅

チェシャ猫がセル画のなかから三日月の口で呼びくる魔法の国へ

風のあを水のあを満つみづいろの地球の隅で昼寝の金魚


翻訳のできない言葉   大西晶子

若かりし白秋の恋のあやふさや敷道おほふあはゆきに似て

トナカイが休まず歩く距離をいふ「ポロンクセマ」は何キロだらう

翻訳のできない言葉「ピサンザブラ」バナナいつぽんを食べ得る時間

シャンパンを開ける機会はあといく度しろき布巾でグラスをみがく

メーカーのロゴ付きシャンパンフルートをのぼる泡ほど佳きことのあれ


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by minaminouozafk | 2018-06-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日20

実家のそばの土手は一面ツルニチニチソウが花盛りです。


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この花を見るともう初夏の予感。季節の移り変わりは早いですね。


ブログ記念日は20回目を迎え、記事は97週目となります。

仕事と実家と墓参り。つくづく毎年、毎週、代り映えしない暮らしであることに気付かされています。


それでもブログが、引きこもりがちな私を外の世界とつなげてくれています。

読んで下さっているみなさまに、そして楽しい仲間たちに改めて感謝いたします。



仲間と共に   大野英子

春の陽が生みだすやうなミズクラゲ小船とともにヒューイと揺れて

あたたかなまなざしのなかに浸りゐる読書時間に春の風吹く

はなふさのまだととのはぬ大藤を享保の風が揺らして過ぎる

ほろ苦く甘いたけのこ一献のささ添えるとき笑む父と母

あらここもあそこも馴染のあらくさが顔を出してる仲間と共に


未来地図   栗山由利

思ひ出を胸にしまつてわたくしは抱卵をするめんどりになる

重たかろ花のすべてが実になれば枝垂れ梅から落ちた実ふたつ

白皿のゑんだう豆とアスパラに黄身酢をそへて春かをりたつ

ふはもこのコートをぬいでをさな子は二歳の春に一歩踏みだす

飛びなさい、さあ行きなさい 大空は未来地図描く青いカンバス


むらさきの闇   大西晶子

花どきを過ぎて来たれば山桜若葉ゆたかな樹となりて立つ

うかうかとしては居られず人に花に盛りのときはたちまち過ぎて

足早の人波みだし街路樹の橡の紅花見るとちかづく

藤の花長く垂れたるトンネルの奥はしづけしむらさきの闇

すれちがいざま嬰児のつむりに触れゆきしあの老い人は神やもしれず


神水リユース   百留ななみ

近づけどびくともしない青鷺は去年の青鷺 おかえりなさい

手水舎の春の神水リユースなり翼をひろげ水浴ぶる鳩

グラス持つ指に肉球 着こなしのお洒落なネコとランチする夢

サングラス越しセピア色 フロントのガラスいつぱい五月の夕日

トクサ属ツクシ、トクサの根つこあり恐竜あらはるる前の地中に


Irisの子ども   藤野早苗

晩春のひかり玻璃戸を抜けるとき壁に生れたりIrisの子ども

強霜の髪黒く染む十八のわれのみ覚ゆる人に会ふ日は

ぬるま湯に首まで浸かりぬるいねと従順にして言ひあへるのみ

土砂降りの雨上がりたり出棺を送らむとして出でし外の面は

晴れ男なる君在さぬこれの世の昏迷いよよ極まりゆかむ


夜間飛行   有川知津子

にんぎやうの踊る時計を仰ぎゐるつぐみ八歳髪はさらさら

ちぢみつつ子猫消えたりたんぽぽの白き綿毛の球体のなか

草臥れたまぶた機窓に映りつつ夜間飛行と呼べば(かぐは)

ゆふぐれのしろつめ草の野つぱらにおいてけぼりの四十五年

白秋の草稿を閉ぢ町へ出る読めぬ一字を胸にたたみて


青海波   鈴木千登世

名を口にするとき知らぬはずの樹がおうと応へりはるか頭上で

海の国日本にあればうすずみのブロック塀に寄る青海波

定位置のめがねにふれて安堵せり霧の小径に迷へるわれは

マンモスの足下ひそと咲きをりぬミツガシワあはき夢見るやうに

きのふまで知らぬ人らと囲む炉の和やかにして一会の点前



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by minaminouozafk | 2018-05-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日19

4月のひかりに桂の葉がかがやいていました。


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調べてみると、桂の学名は Cercidiphyllum japonicum


japonicum」!


japonicum(日本の)」を名にもつこの木の葉っぱは、

ご覧いただいているように、愛らしいハートのかたち。


古くは、古事記に、神聖な木として登場します。

綿津見神の宮の井戸のほとりにあり、

火遠理命(山幸彦)と豊玉毘売の出逢いの舞台となる木です。


新たな年度に入り、あたらしい出会いの海へ漕ぎ出した方も多いことでしょう。

どうか出会いの一つひとつが、佳き出会いでありますように。


今日、「南の魚座」は、19回目のブログ記念日を迎えることができました。

このブログをとおして恵まれた出会いに、こころより感謝申し上げます。



        ☆☆☆☆☆☆☆



桂の影   有川知津子

いにしへのプトレマイオス楽しみき星をむすびて名まへをつけて

巻貝は〈島〉に似てるね姪つこはちひさな島をつまみあげ言ふ

天ぷらにしようなどとはもう言はず蕗の花見を楽しむひとに

青空の下にこそ見め光太郎愛でしひかりの連翹の花 *連翹忌に

てのひらに桂の影を受けながらまぶた閉ぢればわたつみの底


教科書   鈴木千登世

黄砂降る昼ひつそりと読んでをり若書き残る古き教科書

荒らかに生きざる我と嘆きたる歌にこもれる迢空の息

父よりも上の世代の愛を言ふ歌しくしくと胸を打つなり

海峡の向かうに暮らすひと思へばふはりと鬢を吹き過ぎる風

歌の種さがしつつ見る境内のさくら素知らぬ顔に散りゆく


潮の香   大野英子

フランシェとサヴァチェの名前を冠したる帰化植物もおしあふへしあふ

ぐぐぐつと春のひかりを押しかへし土筆えへんと胸そらしをり

やがて咲くさくらに怯えつつ見上ぐいろづくつぼみに罪科はなく

仄白く闇を照らせりみやうてうはひらかんふつくらふくらむさくら

あおぞらのさくら仰げばさやさやと吹きくる風がはらむ潮の香


蠢くいのち   栗山由利

とうきやうの二月の風に身をちぢめ入りたる船の灯りぬくとし

いつせいに降りくる春の陽をうけた蠢くいのちそちこちに見ゆ

沖に出るふねに花枝高くふる少女(をとめ)もをらむ天平の春

からだごと言葉になつてをさな子が風にかたれば光がこたふ

川べりのベンチに座る人ふたりつかず離れずほどよき距離で


をがたま   大西晶子

わたくしを呼んだのは誰をがたまの花咲くしたで来るまで待つと

をがたまの樹の下で妣とすれちがふ一陣吹いたあの風がさう

戦ひの飢饉のあるな花のもとねむりゐる児の先ながき日に

抱くほどに重くなりゆくこの赤子石にあらずや妖怪譚の

桃の木に厄を預けた身はかるく商店街ゆく食欲をもち


さくらのつち   百留ななみ

わが影の土に九つ紅椿むかしの地図をゆつくり畳む

ややこしき年金制度は華甲過ぎいかといかとぞ54のわれ

島かげを春の入日を呑み込みてとろ海とろとろ濃藍となりぬ

平飼いのにはとりの産む卵黄色ニホンタンポポおいしさうなり

ももいろのさくらの(つち)に仰向けばこころ軽々落蝉のわれ


みすずの海   藤野早苗

纏ひたる青もさまざまとりどりに みんなちがつてみんないいのだ

北浦の海はろばろと藍ふかしみすずのこころ育みし海

おほははの羽織らせくるるここちせり米沢黄八の丹前ふはり

あまたなる女御更衣のその中のただいちにんとなるふしあはせ

一年を途切るるなくてつづりたるわれら七人根つこが真面目


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by minaminouozafk | 2018-04-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日18

 一月逝く、二月逃げる、三月去る。寒い時期の月は過ぎるのが早い。三月は終わりのような始めのような、年度の終わりで動植物の目覚めの時。天候も変わり目で三寒四温の日々だ。

 こんな変化の多い、すこし胸もざわつくような季節だけど〈南の魚座〉は毎日の更新を続けて18回目のブログ記念日を迎えることができた。(メンバーとサポーターに拍手を。)有難いことだと思う。


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 そろそろ宮地嶽神社では寒緋桜が満開だろう、庭の豊後梅は週半ばの雨で散り始めた。今年の桜の開花はいつだろう。


春よ来い   大西晶子

二ヶ月になりしユウタに「春よ来い」うたへば庭でつばきが笑ふ

あかねさす赤い鼻緒のじよじよ履きしみいちやんを思ふその後の生

さながらに補陀落渡海送るごと海の入り日をながめていたり  

みぞれ降る街を来たりて見る舞台いちめん桜の春の野である

愛らしきお染でありし七之助こわいろ変はりお六で凄む


伝ふる手段   百留ななみ

だんのうら正座のままで漁れる平家の裔の男ありけり

言ふべきを伝ふる手段が言葉なり英字新聞やうやく一面

ひとつづつ魚の種が消え知らぬ間に肉屋のやうな魚屋ばかり

兜にも京都と江戸の別があり迷はず渋き江戸もの選ぶ

大岩と大岩の間の暗黒を苔のみどりがほつほつ照らす


行者大蒜   藤野早苗

風邪(ふうじや)引きたるわれにさすたけの君が差し出す行者大蒜

眉頭眉尻すこし描き足せば父によく似た一本眉毛

西北風(にしぎた)に吹きッさらしの黄水仙「うんにゃ、うんにゃ」と首横に振る

振幅の大きこころを定型に矯めて納めて過ごしし日々よ

学校に行かざる日々のありしことこの子の今を輝かしめて


ありがたう   有川知津子

ありがたう今日のとびらを日溜まりの気持ちで開いてゆけるわたしを *誕生日の日に

あめつちのあはひの出逢ひうれしくて飛行機雲に手を振つてみる

梅いちりん、ここが銀河の中心といふごとく咲きほのぼのかをる

出口まで来てふたたびを引き返す〈喪乱帖〉の深き歎きに *「王羲之と日本の書」展

これの世のイマコノトキのきらめきを心に置きて玄関あらふ


(つちふ)る   鈴木千登世

肉球を持たぬ私は言の葉の足あと残す波までの道

鼻濁音やさしく子規を語りたりとうきやう人はガラス戸を指し

空もまた悩む日ならんうつすらと山烟らせて遠く(つちふ)

口呼吸すればざらめく感じあり無人駅舎に砂の降る午後

深宇宙のはじまりの波とらへんと立つアンテナは天のさかづき


それでいいのだ   大野英子

南関揚げを汁に沈めて白秋の詩がはじけくるじゆわわわじわん

春と冬せめぎ合ひつつ来る春のミクロ世界のなかから目覚めよ

満潮の川の辺を打つ水音のひびきやさしく聞こえきて春

燦々と白金(プラチナ)のごとく輝けり春と交信してゐる水仙

よそよりも少し遅れて咲く庭の椿、白梅それでいいのだ


雪まんま   栗山由利

風の子の一歳がつくる雪まんま(、、、、)庭にこぼれた冬をあつめて

小さき春ひろひあつめて手籠からあふれてきたら さあ飛びたたむ

毛氈に雛ひとりずつ置く母の胸にうかぶや幼きわれら

はろばろと海越えとどくMade in China は美味し想ひはやさし

待つてよと鳩を追ひかけをさな子の語尾の「よ」の音春風にのる


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by minaminouozafk | 2018-03-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日17

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この冬は例年になく寒い。立春を過ぎても九州では珍しい雪がちらつき、最高気温が1度などという日が続く。それでも庭の豊後梅の枝が赤らみを帯びてきた。近所の桜の樹も太い枝から芽をつけた短い枝がたくさん上向きに伸びている。今年はあんがい桜の開花が早いと聞いた。寒さの向こうに待っている春を感じるこの頃だ。お陰さまでこのブログもまた月一度の記念日を迎えることができた。仲間と読んで下さる方が居ての継続だ。毎朝どんなことが書かれているのかを知る楽しみのためにも、長く続けていきたい。


熊の子   大西晶子

木の枝の腕もつ小さき雪だるまユウタが初めて触れたる雪は

くるくるとタオルを巻きて折りねぢり輪ゴムでくくり熊の子つくる

目鼻つけ熊の形に折りしゆゑ手拭きに戻せず茶色のタオル

彫刻の〈神の手〉のした過ぎ行けり病むひとあまた医学生あまた 

薄ら氷のごとき上布が似合ひけむ白秋の妻なりし俊子は


已己巳己   百留ななみ

山陽ゆ雪やまを越え山陰へふたたび雪をくぐり山陽

ながくながく見つめ合ひたる冬星をわれの瞳はつつしみて受く

兄、弟、姉、妹とひとりづつ五人きやうだいの真ん中の友

トレモロがカシャカシャ音のマンドリンわれのこころのままの音なり

已己巳已の里芋六つ手羽先とこつてりと炊き小正月待つ


報恩譚   藤野早苗

語り部が「むかぁしむかし」と始むれば彼岸此岸の境がにじむ

報恩譚もたざる猫を溺愛しわれら家族に過ぎし七年

手術せし母をことほぐ春の雪あたらしき生たまはるごとく

あをぞらを背負ひて来たる空気感日向一彦めぐりの温し

あたらしきブーツで行かむ霙降る大博通りをキャナル目指して


……   有川知津子

東京の秋の日差しが頰にくる駐機場なる飛行機のなか

ましづかに冬は海から来ると言ふはしばみいろの目をせる嫗

たなぞこに方位磁石の針を見て東北西南一巡りせり

一月の東京の空まぶしくて来世でもまた歌を詠みたし

立春のあしたの空をこぼれくる雪のやうなるものを見る、……雪!


2月  雪降り積もる   鈴木千登世

攫はるるはずなどなきに夕暮れは私を幼の心に戻す

身を寄せて巣穴に眠るものの上に雪降り沈み雪降り積もる

アンデルセン童話を読める窓の外しまきし雪のいつか凪ぎたり

立春と春の字書きぬ雪の辺にふくりふくらむつぼみを見つけ

瀬戸内の潮追風(しほおひかぜ)にしばたきつつ与謝野寛が見た海の青


素はだかの古木   大野英子

あまたなるどんぐり、せんだん、くぬぎの実歓ぶ()(うら)が栗鼠になりゆく
手袋、マフラー、コートまで脱ぎ歩くほど身軽になるよ身体とこころ
素はだかの古木はちから溜めるらん冬のくさぐさ嘉するなかを

父の(たま)こころに宿り父がせしやうに草取る読書のあひを

ピーマンを六個刻んでうふふふふひと日の鬱がどこかに消えた


春待ち雀   栗山由利

お年玉切手シートに登場のお声かからず猫のモヤモヤ

うどんやが名所となりて行列の中からきこえるハングル漢語

憧れはカウンター奥のひとり酒すこしつかれた女のふりで

薄雪にかくれるほどの嘘をつく冬日にとけて流れるやうに

南(みんなみ)のおほぞらかけてやつてくる春を待ちゐる雀ふつくら


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by minaminouozafk | 2018-02-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日16

2018年最初のブログ記念日です。南の魚座は2度目の新年を迎えることができました。
お正月が巡ってくる度に過ぎ去った時間を過去として、また新たに仕切り直せる幸せを感じます。

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写真は常盤公園にある現代彫刻の作品で、タイトルは「風になるとき」(西野康造作)。
昨年紹介した宇部ビエンナーレの過去の受賞作品です。
強い風だけでなく、わずかな風の流れも捉えて柔らかく羽ばたく翼は人工物なのにまるで生きもののようにしなやかで美しく、ずっと見つめていたくなります。
日常のささやかな出来事や思いを、言葉という翼に載せて飛翔させることができたらと青い空に舞う翼を見つめながら思いました。

読んでくださる方がいて、一緒にブログを作るメンバーいて、そのことに感謝しながら励みとしています。2018年最初のそれぞれの作品をお読みいただければと思います。

蕨手文(わらびてもん)   鈴木千登世
旅立ちは吉とふ神籤たたみつつ斎庭しづけき神の森ゆく
文字持たぬ者の描きし蕨手文(わらびてもん)渦の野原を馬は越え行く
瞠きて北斎漫画見つめゐる画家を思へりドガの〈踊り子〉
閃きが作品生みし傍らに立てばかそけき水流の音
元旦に海鼠を食めばしくしくとふるさと匂ふ 遠き潮の音

遠く呼ぶ風   大野英子
沸き上がる薬缶、流れるモルダウが今夜のわれを責め立ててゐる
けふもひとりあしたもひとりへんぺいなオリオン武骨にかたぶいてをり
身震ひをしながら生れし小さき花さびしき庭にめでる水仙
繭をつくる蚕のやうな月の下われは籠らん歌なる繭に
土笛を吹けば枯れ野を渡りくる風あり私を遠く呼ぶ風

清しき風   栗山由利
全身でクリスマスを待つをさな子は緑のコートに赤いマフラー
横跳びに二歩ちかづゐて同じ方(かた)見やる雀に年の瀬の風
段取りをととのへ締めるエプロンの紐いつもより少しつよめに
ゆく年に忘れたものをたしかめる間もなく聞こゆ除夜の鐘の音
新年に清しき風を運び来るをみな子二人外つ国に来て

早く眠らな   大西晶子
みづからの眼うたがへ現実の姿をしたるフェイクをさがし
先入観もたずに見れば愛らしき色さまざまのオブジェの蛇ら 
目ざむれば明日は新年待つものを思うは楽し早く眠らな 
ふるさとの古き町並み友のごと迎へくれたり角まがるたび 
木より生れ数百年経しこまいぬは過去をかたらず阿形の口で

あと追ひ   百留ななみ
くらげゐる水面の上の青空にくつきり白き半月のあり
クリスマスイブにはケーキ食べたって息子の息子の息子のことば
蕭々とながるる時間に金いろの鶴の水引きむすび新年
シンギュラリティ倍々ゲームでせまりくる息子の息子の後追ひはいはい
西ながれ東ながれと忙しなき海峡の水ずつと透明

高麗茶碗   藤野早苗
一口(いつこう)が一城の価値ありしとぞ戦国の世の高麗茶碗
フランツとエリザベートのすれ違ふこころの声をそらみみに聞く
マジ卍(まんじ)ムカ着火ファイアーのうちの猫(ぬこ)ぽ尻尾ぶぉんぶぉん丸てカハゆす
新春のMoet et Chandon もう一杯分を残してクーラーの中
高取の碗にふんはり初春の野辺の若菜の萌ゆるを喫す

雑煮をはこぶ   有川知津子
牧水の詠みし納戸におよぶ日の冬のひかりの秀先に手触る
背嚢をバックパックとやはらげて芋の蔓など食ひしを話す
われらみな球乗り中の道化者ときをりゼブラゾーンを駈けて
水仙の苞はつかなる音立ててひと日ひと日の今をふくらむ
新年は井戸のほとりの神さまへ雑煮をはこぶ小鳥とともに



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by minaminouozafk | 2018-01-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日⑮

 長い夜がようやく明ける。東の空が朱金に染まり、冷たい空気のなかゆっくりと朝日がのぼる。夕焼けよりずっと短い時間。ちょっと怖いほどの朱の空。冬の朝焼けは凛としていてホッと心を充電してくれる。

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 朝焼け、小焼け、大漁だ・・・『大漁 金子みすゞ』のように、わが家では海から朝日が昇り山に沈む。しかし日本海側や博多も反対だ。山から山、ビルからビルのところもあるだろう。
 年を重ねると柔軟性が乏しくなる。しっかり身も心もストレッチをして、いつでも新しいことに挑戦できるようにしておきたい。
 今年もあと少し、酉年が終わる。やり残したことはいろいろあるが、ブログを毎日更新できたことは確かな小さなしあわせだと思う。



鹿のこゑ   百留ななみ
ていねいにつやつや剥き栗ならべたり鬼皮渋皮やうやく剥きて
わが姓と同じ百留横穴墓その奥底に両手を合はす
朝まだき春日大社の参道が響む牡鹿の甲高きこゑ
くれなゐの楓もやうの苔の上どんぐり兄弟とんとん生る
軽トラが鹿の鳴き声かき消して落葉をはこぶ朝の参道

まつのみ   藤野早苗
これの身は待つのみならずジェノベーゼソースの中の白い松の実
湯上がりの薔薇色の頬うつくしき吾子に剝きやる赤き林檎を
ママハハぢやなくてほんとのおかあさんだつたんだつて 「白雪姫」つて
笑顔よきかのいちにんをああ神よ御国に召されたまふなしばし
平等に過ぎる時間の中にゐてひとしからざる果実のみのり

林檎のスープ   有川知津子
騙し絵にだまされてゐる秋の昼いまならもつとやさしくなれる
柳川のしやしん四枚えらび終へ温めなほす林檎のスープ
みづからをひどく責めゐる子をつつみ冬のはじめのせせらぎの音
時過ぎて今をおもへば少年のまなこ覆へる夕あかね雲
容赦なし明日よりはもう十二月鉄棒に身を乗り上げながら

日常の歌   鈴木千登世
風景の一部となつて眠る人の耳くすぐりてゆく湖(うみ)の風
『炭鑛(やま)の日々』閉ぢてしばらく目を瞑る労働の歌の清らかな声
子どもより親の笑顔が充ち満ちぬ口角あげてといふ声もして
味噌汁の葱きざみをりこの朝葱きざむ人の丸い背思ひ
かうとしか生き得ぬ我の日々(にちにち)を詠み重ねつつ日常の歌

そそげ日輪   大野英子
風音に耳かたむけるやがてくる老いの序曲のやうな海風
海近く荒れる波間に身をまかす川の夜陰のをしどりの影
来る冬をみなみに向きて伸びてゆく小(ち)さき芽吹きにそそげ日輪
ガラス壁に映るツリーもきらきらりはじめましてと見上げてゐたり
橋の上をつぎつぎわたるカモメらの風切り透けて今朝は冬晴れ

八の字眉   栗山由利
もやもやと決まらぬ思ひに糸ほどく呪文をためす猫のとなりで
N回の選択をしてここにいるワタシは二のN乗分の一
おでん煮るほのほくらゐの幸せで充分なんです 消えさへせねば
「ちゅかれた」と八の字眉の一歳がおでこコトンとテーブルに伏す
お疲れね。けふの悩みはゆめの中バクにあげましよ眠れをさな子

羽化   大西晶子
一冊の歌書にさそはれ秋ひと日旅に出でたし鶴などを見に
蛹にてひと冬過ごし生きのびよクロメンガタスズメガ春の羽化まで
引き出しの奥で出番を待つ道具たつたひとつの用途のために
ねぐらさす五位鷺ならん夜の窓をぎやつとひと声過ぎてゆきしは
ちちぶさの記憶のみ持つ小さき手でひらく未来に陽のひかりあれ


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by minaminouozafk | 2017-12-11 06:30 | ブログ記念日 | Comments(7)

ブログ記念日⑭

秋の色は黄色と赤だと思っていた。黄色はいちょう並木の黄色。赤は童謡の世界の赤。童謡の「まっかな秋」(薩摩 忠作詞)の世界が小さい頃から好きだ。

つたの葉っぱ、もみじの葉っぱ、からすうり、とんぼの背中、ひがんばな、遠くのたきび、みんな赤い。そしてまっかなほっぺたの君と僕。

懐かしい心の中の昔の風景が私の秋のイメージです。


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北大北十三条門からの銀杏並木


ブログ記念日も二度目の秋をむかえました。毎年、同じように流れていく季節ですが、受け手それぞれの心にひびいたものを三十一文字の中にしっかりと込めたいと思っています。


一等賞   栗山由利

ころんでも一等賞でなくつても栗とミカンと母のおにぎり

スタンドのジェット風船さながらに狗尾草(エノコロ)ゆれるソフトバンク勝て

ツンデレの猫のみやげに道端の狗尾草摘んで早足になる

開かねば飛び来るものはないものと心の窓は南に開く

舟の帆がへさきに変はり泣き顔を笑顔にさせるだまし舟ひとつ


歩く木   大西晶子

吹く風に耳が冷えるよ佳きことを聞くのみならぬ日々のつづきて

菊の香の酒を飲みたし月のよき秋の夜なれば君とさしつつ

しづしづと歩く木の列見ゆるらん月のよき晩沼のほとりで

江戸の世にそだちし木のくせそのままに残しくろずむ酒蔵の梁

中空のかぼちやに目とくち穿ちゆく悪党ジャックに道を照らすと


石畳み   百留ななみ

男郎花の白花のなか摩訶不思議 サツマニシキは斑猫の色

右肩のブルーブラック むらさきの珠実を食べし椋鳥の糞

足を手をピーンと伸ばす亀とゐて空へほろほろ心飛ばせり

美術館めぐる箱入り仏像をお地蔵様と見送りてゐる

石畳みの旧参道の杉苔をさくら紅葉が包み隠せり


脳味噌スープ   藤野早苗

うつし世のものならぬもの生み出だす神の手をもつ神ならぬ身が

取引きはしないよ小さな魔族たち お菓子を食べよ悪戯もせよ

ハロウィンの夕餉はカボチャのスープなり異名ジャックの脳味噌スープ

殿堂に打つ黄金(きん)の釘その燦をひそか支へてゐる〈てにをは〉よ

みんなみのうたびとの声ほがらなり短歌黄昏はるけきごとく


秋のひるがほ   有川知津子

校庭のフェンスくりつとくぐりぬけこちらにひらく秋のひるがほ

消火器をつかふ事態に都合よく白い軍手がある訓練日

パトカーの急行現場に居合はせて男のバンザイ偶然見たり

秋の日に耳をさはれば思ひ出づ耳さはりつつ覚えたる歌

ひとり子の微熱やうやく去りし春 祖母は老いたる猫を撫でたり


冬の匂ひ   鈴木千登世

秋の夜のくず湯とろうりあなたなる真葛の原を思ひとろうり

ひらがなの多き手紙を君に書くハロウィンに沸くとうきやう思ひ

青インクは冬の匂ひと思ひたりガラスのペンで様と書きつつ

秋空にすこーんと憂さをかつ飛ばす ピンポンマムの花を抱へて

冬近き庭に黄菊の澄みて咲き夕ぐれ時をほのあかりせり


はくしうの月   大野英子

スポットライトの下のてのひら祈るやうまた舞ふやうに語りはじめる

白き手がひらりと笑みを零しゆくまどかに鼻濁音抜けてゆくひと

冬には冬の庭を点せる花あかり待つとき楽し揺るるつはぶき

秋風がさざなみを生む掘割のおもてをゆるりゆくどんこ舟

はくしうの月が夜闇を照らすころ湧きゐるならん水上パレード


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by minaminouozafk | 2017-11-11 06:30 | ブログ記念日 | Comments(6)

ブログ記念日⑬

秋!

といえば、「読書の秋」「スポーツの秋」。

(どちらも短歌では使いにくい言葉です……)


気候の比較的おだやかなこの時季に、

精神の修養と肉体の鍛錬を行うことは理に適っているそうです。


北原白秋の号「白秋」は、ご存じのとおり秋の異称。

白秋にこんなスポーツの歌があります。詞書き付きです。


テニスをはじむ、子も伴なり

野分だつ茅萱がむらに飛び逸れてテニスの白き球ははずみぬ

『風隠集』(第四歌集。引用は岩波版全集)


白秋、テニスをしたのですね。


『風隠集』は、小田原山荘での生活を題材にしたもの。

白秋歿後に木俣修の編集によって刊行されました。


修は柊二の兄弟子。

この大先輩達がいなければ当ブログは無かったでしょう。


お蔭さまで、

今日、13回目のブログ記念日を迎えることができました。


こころよりありがとうございます。


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碇石   有川知津子

江戸風鈴よく響くなり長崎のうぶすなの島の()(あを)の風に

夏行けり長崎駅でおとうとに缶コーヒーを買つてもらつて

ベランダは押すな押すなの秋日和ふとん、玉葱、ピアニカ、白秋

秋の日にたゆたふごとき碇石わたしはあなた、あなたはわたし

また一つ齢加へて歩き出す母をおもへば遠きふるさと



月読(つくよみ)壮士(をとこ)   鈴木千登世

降る雨の最中に浮かぶ虹の橋仰ぎつつ見るその不可思議を

台風のふとも晴れたる茜空テンポ正しくちぎれ雲ゆく

上向きてりんごをもぎぬてのひらを秋空の青にすつと浸して

瞑りたる女の絵ありて静かなる祈りは今も私を包む

シヤッターを押しても押しても捉へ得ぬ月読壮士は直に見るべし



窓をひらいて   大野英子

ゆふぞらをひととき染める金のなみ窓をひらいてむかへにゆかん

とうきやうは地下鉄さへも刺激的わがスカートをがばりとあふる

東京の疲れをリセットせんと着るパリリ糊効く真白きシャツを

吹く風に竹田の秋がまぎれこむ雨のち雲がながれる街に

誰もゐぬ実家でわれを待つてゐる秋のあらくさそして思ひ出



か・き・く・け言葉   栗山由利

いつだつて鳥になれるよ皆にある背中の二枚の羽は金色

すじ雲が流るる空と猫の目はとほきペルシアの海の青色

開いたら絵本をとびだしねこたちが教へてくれる か・き・く・け言葉

一歳の口をとびだす言葉たち音符のやうに空にはぢける

あしばやにすぎゆく秋を惜しみてか石壁の上の蜻蛉うごかず



ゆびきり   大西晶子

「らいねんの九月に会ふ」つてゆびきりをしていたかしら白曼殊沙華

釣りびとの立つ波止のした海面をよこ泳ぎする月夜のがざみ

おだやかに寄せる海水いたく透くけふは釣りびと見えぬ港に

むなかたの女神のゐます島つつむ海の青さに解けゆく想い

美しきものは隠すと髪つつむイラン乙女の息の薔薇の香



拡大鏡   百留ななみ
びしょぬれで踏ん張りてゐる蜘蛛ぐるり巣は一本の紐となりゆく
空の青はむかしのままか 恐竜のたまごみたいな蘇鉄の雌花
老いし目に拡大鏡のたのしかり雄しべ雌しべのその奥さぐる
つぎの世にいのちをつなぐ要の無き一代雑種の野菜ばかりだ
とらはれし小さき虫だけ揺れてゐる野分のあとの軒の蜘蛛の巣



異形   藤野早苗
善き人に善き訪れのあらむこと『鳩時計』読み了へて祈りぬ
来年を約しさよなら 太宰府のうたの縁に繋がるわれら
三日月に満たせる御酒をささ召され秋の夜風が杯を傾く
良い母は三日やつたら飽きました 朝寝昼湯に気を養はむ
Hollywood
聖なる森に棲むといふ異形の者に今宵見えむ



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by minaminouozafk | 2017-10-11 06:30 | ブログ記念日 | Comments(8)

ブログ記念日⑫

12回目のブログ記念日。はじめて月曜日のブログ記念日だ。二度目の夏が終わり、ブログも日常のリズムのひとつになってきた気がする。12か月で1年。1年とは地球が太陽のまわりを1周する時間。はっきりとした春夏秋冬のある瑞穂の国では田植えから稲刈りまで、稲の成長が時間の概念だったと思う。だから年神様は五穀豊年を祈る神様。ちょうど新米の季節。ブログも1年を経てささやかなる実りを信じたい。


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土塀のうえから覗いているのはヘクソカズラ。可愛い花を咲かせている。屁糞蔓と書く。なんとも失礼な名前。最初にこの名前を知ったのは20年以上まえの子育て真最中の頃。クリスマスリースを作っていて、飾りの木の実などを探していた時だ。秋の終わりの陽差しに金色にきらめく小さな実を見つけた。一緒に作っていた友だちに嬉しくて見せたら、ニヤニヤしながら名前知ってる?ヘクソカズラだよ。えっっと思いつつその時から每年気になる憎めない植物だ。


皀莢に延ひおほとれる屎葛絶ゆることなく宮仕へせむ  (万葉集 巻16


万葉集にも詠まれている。ふつう「絶ゆることなく」の序に使われるのは玉葛。ここはわざと屎葛を用いて戯れとしたようだ。たぶん花や実の可愛さと匂いとのギャップは万葉人も感じたのだろう。秋の終わり、かさかさに乾いた金色の実はほとんど匂わない。


スフィンクス   百留ななみ

カラフルな絵のタコ灯る修復の門司港駅の白き壁面

太陽光パネルもよろし瀬戸内の海沿ひスイカ畑なほ良し

寝返りて威風堂々のスフィンクスむすこのむすこのはじめての夏

ニンゲンのナウマンゾウの骨ねむるドリーネ今も深まりてゐる

見上げたるつくつくぼうし樫の木の枝にみどりのどんぐり点る


大いなる手   藤野早苗

この星に播かれしあまたの火種より火の手が上がる今日敗戦忌

やはらかきさみどりの鎌振り上げていのち彷徨ふ八月の路

Direct me. 迷ひの森で佇めるわれの背を押す大いなる手よ

定型の中に息づき言の葉の繁りゆたけし『蜜の大地』に

三十分遅延(ディレイ)の後をぬばたまの翼に発ちぬスターフライヤー


虹の化石   有川知津子

ま青なり作業現場の残響を力いつぱい容れて夏空

風待ちの(みやこ)をとこを見送りし少女あらぬかとほき先祖に

祖父のこゑ聞いたくぢらの(すゑ)ならんわれの知らない祖父の涼声

ふるさとは思ひ出なほも深くして今日より七日間の送り火

虹の化石出でし話はまだ聞かずうつつこの世の深さ果てなし


白き日傘   鈴木千登世

孤独なる歌つくりの標として果てなき闇に浮かぶ灯船

黒ぶだう食めば思ほゆ盆の夜にゆかりの家を巡る海の村

砂糖かけトマトを食みし夏の午後白き日傘を母は差したり

降る雨に濡れそぼちゐる鴉二羽うつむく(せな)の寄り添ひてゆく

あこがれのやうに思ひしひとつ星見つめる胸のあたたかくをり


秋の雲   大野英子

ひと雨が過ぎて降り足りない顔の空うつうつと雲流れゆく

雨雲の向かうに明るき世界あるような夕空 橋にたたずむ

人にあらぬいのちなれども久々の気配に華やぐ古家(こか)とわたくし

ゆふぐれの灯ともし頃の街のそら飛行機雲もあかねに染まる

秋の雲さまざま浮かびさあ、けふはどの雲に乗り遊びにゆかん


二枚の羽   栗山由利

一歳のおちよぼぐちからとびだした「コッコッケーコ」が夏風に乗る

渋滞の車列のうへをお先にとツツーイツイツイ赤とんぼとぶ

めいつぱい夏日を貯めた大ぶりのトマトかじる子 目はまんまるに

渦巻のクリームコロネはロバがひくパン屋につながるタイムトンネル

背にたたむ二枚の羽でもういちど飛び立つつもり空と風みて


風に背おされ   大西晶子

かって子を産みたるわれのまなぶたが石を産みたり白き結石

半世紀まえのある夜のおもひでは痛き日焼と教頭の怪談

怪談を聞きつつ見たる舟の灯の遠きまたたき真暗き海に

苦瓜の蔓と萎れた葉のからむ窓からの風ひやりと九月

桜の葉色づきはじめしわが町を歩きつづける風に背押され


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by minaminouozafk | 2017-09-11 06:30 | ブログ記念日 | Comments(7)