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2019年 06月 11日 ( 1 )

 今年の北部九州の入梅は遅い。関東地方の方が先に梅雨入り宣言してしまった。けれど体感的にはしっかりじめじめしていて、もうすでに梅雨入りしていました……なんていうことがあるのではないかしらと思ったりしている。



 この時期になると思い出す。娘が生まれる前の年だからもう22年前。6月だった。インドネシアに出張だった夫がお土産に布をたくさん買ってきた。日本よりさらに蒸し暑いその国で出会った木綿の布たちは、すずやかで、素朴で、肌にも心にも優しかったのだそうだ。


 その布が更紗。異国情緒ゆたかな彩色と図案に私は一瞬で心をわしづかみにされた。梅雨期の、頭痛までするようなうっとおしさがたちまち雲散霧消してしまった。Sarasaというs子音の響きのすずしさもまた心地いい。テーブルクロス、ベッドカバー、パーティション……、もうすっかりこの布はわが家にはなくてはならないものになったのだった。


 そして、その一年後の暑い夏の日、思いがけずわが家に誕生した女の子に付けた名前が何だったかはもう言う必要もないだろう。


 先日、フェイスブックで知った展示会。舞鶴の「ギャラリー黒砂糖」でたくさんの更紗と出会い、また一人、家族を増やしてしまったのだった。



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髪ひとすぢ   藤野早苗

犬つれて雨後の町へと歩き出す幸ひ人にさいはひもらふ

床の上に発光しをりわたくしを離りてゆきし髪のひとすぢ

この一会おろそかならずうたびとのえにしに集ふ五月とある日

瞠いてつぶさにぞ見よいうきうと呼ばれしものの崩れゆくさま

入梅の報いまだなりアジサイの球花支ふるうなじ細くて


すてきな歌   有川知津子

まぼろしの鷲の翼をなぞりをり夏のほとりに立つ南部富士

きたかみ、と北上川の名を呼べばわが両耳は風にそよぐ木

チグリスとユーフラテスは出合ふときどちらが先にああ、と言ひしか

いつだつてそんなものです夢の中で作つた歌はすてきな歌で

海よりの風かがやかぬ曇り日に庭をあやしてゐるしやぼんだま


世界を旅する植物館   鈴木千登世

みづうみの風の吹き抜ける丘のうへ「世界を旅する植物館」あり

和名まだない植物の名をたどり森をめぐりぬ湿りを帯びて

水流を通して見つむ群青の闇に見えない星を見てをり

群青の夜のふところに息づけり水より()れし火の子ほうたる

水無月のみづの匂へる夜の田に老ごびらつふふつと眼を開く


洗はれる石   大野英子

とうめうの緑のつるののびやかさけふもこころとお腹を満たす

眼鏡ふと指でもちあげジョーク言ふ人せうねんの含み笑ひし

雨上がるわが誕生日、空よりも空美しき川面と出会ふ

せせらぎのながれに憩ひ洗はれる石となりゆくやうな一冊

漢籍に辿りつきゆくゆたかなる旅人、憶良をひもとく時間


「く」の字   栗山由利

教へてはもらはなくてもゴキブリを見て家猫はハンターになる

家猫をハンターにしたゴキブリののこつた脚はせつなく「く」の字

千年のみづの流れはゆるぎなし緋鯉の影を光にかくす

大海をみてきた鯛の眼球を大海をしらぬわれがいただく

それぞれに名前がありてそれぞれの個性きはだつ花も人らも


めぐみ   大西晶子

航海に長けし宗像一族の墳墓ならべり海ちかき地に

五世紀より眠る墳墓を去りにけむ死者のたましひ海に還ると

陽光のめぐみなるべし津屋崎の過去の製塩いまの発電

教卓の花瓶に紺のやぐるまぎく午後の教室ただ明るくて

無彩色の絵より聴こえてかうかうと雁がねの声絶ゆるなき声


朝の蛍   百留ななみ

あふぎみる若戸大橋 青空にカドミウムレッドの直線きらり

草つたふ赤き胸もつ甲虫は音信川の朝の螢よ

ホバリング止めいつしんに蜜を吸ふオオハナアブの縞々の眼

飛ぶことは無理でもちやんと生きること教えてください黒猫ゾルバ

〈高砂〉は住之江までの舟旅ぞはじめてひろぐ観世流謡本


by minaminouozafk | 2019-06-11 06:00 | ブログ記念日 | Comments(7)