2018年 11月 01日 ( 1 )

渡り  鈴木千登世

藤袴の匂いはどこまで漂っていくのだろう。


ななみさんの記事(10/15)を読んでこの目で見たいと思っていたアサギマダラ。

山口に渡ってきているのを見ることができた。(10/28

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発端は10月の歌会。参加者の方が県立博物館のボランティアをされていて、4月にアサギマダラのために博物館の庭に藤袴を植えたと言われた。花の咲くのは10月。もしかしたらと博物館をたずねた。


噴水のあたりと聞いたけれど見当たらない。受付でたずねると学芸員さんが出で来られて、わざわざ案内してくださった。『もしかしたら』くらいの気持ちだったので、とても恐縮してしまった。

案内してくださったのは20代くらいの男性。表情がぱあっと明るく輝いている。

「来てますよ」とおっしゃる。「今、いるかはわかりませんが……」

花壇のところまでお話を聞きながら移動した。

思ったより小さな花壇。藤袴のむらさきがやさしい。


初めて見る藤袴の花。実は10年くらい前の京都旅行のときに源氏物語博物館の庭で、咲いていない状態のものを見たことがある。絶滅が危惧されていると説明されていて秋の七草なのにと密かに心配していた。保護活動によって増えつつあることに加えて、アサギマダラの人気もあって各地に植えられていくことが嬉しい。
紫式部も眺めた花だと思うと、感慨もひとしお。


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「ああ、いますいます。」の声に花の間をみると3匹のアサギマダラが羽をたたんでとまっている。
初めのアサギマダラ。旅する蝶と聞いて、このあたりでは見つからないだろうと思っていたのに、こんな小さな花壇の藤袴を見つけてやってくるなんてと、不思議さに打たれた。
近くに寄っても逃げる気配がない。蝶自身に毒があるので、外敵が少ないからでしょうと学芸員さんがおっしゃる。


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近づいてしっかり観察できた。感動。


それにしても、学校の花壇くらいの、本当に小さな小さな花壇なのだ。今年の4月に植えたばかりだから、蝶が知るはずもない。なのに、匂いに引き寄せられたのだろうか、羽をたたんで蜜を吸っている。



  やどりせし人のかたみか藤袴わすられがたき香ににほいつつ     紀貫之『古今和歌集』 

(私の家に泊まっていった人の形見だろうか、藤袴よ。忘れがたい香りに匂いまた匂う)          


古今集では秋の巻に藤原敏行・紀貫之・素性法師の歌が並んでいるというが、藤袴の歌の多くはその香りが詠まれている。けれども花壇のそばにいたのに花の香りは感じなかった。
調べてみると、咲いている時には格別の香りはないという。乾燥させたものが香料として用いられ、平安朝の女性たちは香袋に入れて十二単にしのばせていたという。どんな香りなのだろう。


アサギマダラはどうやってこの花を知ったのだろう。こんなに小さな小さな花壇。

人には感じない匂いを感じているのだろうか。そういえば、学芸員さんが雄が多いと言ってらしたような。藤袴が好きなのはフェロモンをとりこむためと言われていたような。人には感じない藤袴の匂いはどこまで届くのだろう。


海を渡るてふてふの()を香りなき匂ひで誘ふ花藤袴









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by minaminouozafk | 2018-11-01 05:50 | Comments(6)