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2018年 10月 24日 ( 1 )

鷗外「鶏」 有川知津子


鷗外に小倉三部作がある、と書いたのは先々週の水曜日のことであった。


その小倉三部作の一つに「鶏」がある。


実は、この「鶏」、酉年にちなんで、去年のうちに話題にしようと思っていたが、できなかったのだ。


なぜなぜ?


生きていると、日々、何かが起こる。起こったことはどうしようもないので、みんなの記憶の新しいうちに書いておこうという気になるではないか。むろん、そう思っても文字にならないまま零れ落ち、賞味期限が過ぎてしまうことの方がはるかに多い――。


その点、鷗外に賞味期限はない。そう思ってうららかに見送っているうちに戌年になっていた。鷗外に賞味期限はなくても酉年に限りがあることに気づかなかったのである。まことにウカツであった。


あ~、仕方がない。12年後の酉を待つことにしよう。健気にもそう決意して10か月余りを過ごした。


ところが、先日、鷗外旧居に行ってしまったのである。


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というわけで、12年後を待つ健気さは別のところで使うことにして、今日、書いている。


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「鶏」から引用してみよう。



翌日も雨が降っている。鍛冶町に借家があるというのを見に行く。砂地であるのに、道普請に石灰屑を使うので、薄墨色の水が町を流れている。

借家は町の南側になっている。生垣で囲んだ、相応な屋敷である。庭には石灰屑を敷かないので、綺麗な砂が降るだけの雨を皆吸い込んで、濡れたとも見えずにいる。真中に大きな百日紅の木がある。垣の方に寄って夾竹桃が五六本立っている。(鷗外「鶏」より)



 雨の日に、主人公が見に行く「鍛冶町」の「借家」が、写真の鷗外旧居。この旧居は、鷗外が小倉時代の前半を過ごした家である。


 門を入ると右手にさるすべりの木があった。見上げると高いところに花が少し残っている。白花のようだった。夏の花の盛りに行って見たいと思いつつ、不思議と秋ばかり来てしまう。この日は、先客がいて土間に掲げてある年表の前でメモをとっていた。


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鷗外の憩ひし縁に坐してをり風のすがたのあらぬ秋の日



by minaminouozafk | 2018-10-24 06:47 | Comments(7)