2018年 01月 16日 ( 1 )

先週1月11日、86歳の母が膝関節のインプラント手術をした。結果は問題なく、あとは経過を見ながらリハビリの期間を過ごせばよいということで、とりあえず一安心。



先週は今季最大最長の寒波に襲われた日本海側。

実家も例外ではなく、めったに積もらない雪が路面を覆い、雪道走行に不慣れな私は移動の足を失った。

予定では、11日の手術終了後、福岡に帰り、12日の朝日カルチャーの短歌講座を担当して、再び日曜日に実家へ…という段取りだったのだが、上記の事情で断念。カルチャー事務局の方に連絡を入れ、休講にしていただいた。(受講生のみなさま、本当に申し訳ありませんでした。)



というわけで、雪まだ残る12日朝、母を見舞う準備をしながら見ていたテレビに、「歌会始の儀」。ああ、ここ何年か見たことなかったなあと、ついつい見入る。講頌の朗詠の生真面目さの中にそこはかとなく薫る「ゆる面白」い感じにはまり、テレビ画面から離れられなくなってしまう。


今年のお題は「語」。

全国から集まった歌数20453首。入選歌10首のうち、史上最年少12歳の佐世保の中学生「中島の由優樹」くんの作品がやはり素敵だった。


・文法の尊敬丁寧謙譲語僕にはみんな同じに見える

宮中歌会始の儀の会場松の間にあって、この1首。素直さが素晴らしい。日本語はこうして平たくなっていくのだなあ、と思いつつ、それを意識している中島君のような若者がいれば大丈夫などと考え直したりしたのだった。


そして、夫君を癌で亡くされた、福井の「川田の邦子」さんの作品。


・突風に語尾攫はれてそれつきりあなたは何を言ひたかつたの

講頌が「言いひたかつたの」の語尾を長く引き、それが「おおーお、おーお、おおーお、おーお…」とまるで風の中で響いているようで、朗詠が作者の悲しみを鮮明にしているようだった。歌のはじめは「訴ふ」。聴覚的要素は名歌の条件のひとつなのだと再認識。


そして、今回(あくまで個人的にですが)こころに残ったのは、選者5氏(篠弘・三枝昂之・永田和宏・今野寿美・内藤明)の代表として、内藤の明氏が詠進した1首。


・語り了へ過ぎにし時間かへり来ぬ春の雪降る巻末の歌


おお、これは、あの「いやしけよごと」ではないですか。まことに恐縮ながら1月2日の拙ブログで取り上げた家持の作品。『万葉集』20巻4516首の掉尾の1首である。


内藤明氏は、「まひる野」所属。早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授で、万葉学者でもある。早稲田大学在学中は武川忠一氏の「短歌研究会」に所属し、われらがゆかりさんとも活動をともにされ、親しい間柄と聞く。個人的には、歌論にも注目すべき歌人であると思っていたその人が、新しい年を占う歌会始において、自分と同じ歌に焦点を当てていたという偶然がなんだかとてもうれしかったのだ。


ただ、内藤氏と私ではこの1首に寄せる思いの深さは全く違う。解説によると、内藤氏はご自身の主宰する万葉集の講読研究会で、20年もの月日をかけて4516首を読み終えられたという。「語り了へ過ぎにし時間」の重さを考える。2日のブログで、「家持が大巻の掉尾に置いた気持ちがなんとなくわかる…」などと書いた自分が恥ずかしい。それはまさに、内藤氏にこそふさわしい胸中であったのだ。


昼近くになってもまだ降り続く春の雪。

今日、この1首に出会えた幸を思う。平成の御代の歌会始も、思えばあと1回を残すばかり。善き方へ進め…。家持の声が朗詠の向こうに聞こえたような気がした。



手術せし母をことほぐ春の雪あたらしき生たまはるごとく

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*内藤明氏については解説不要かと存じますが、東郷雄二氏のウェブサイト「橄欖追放」に詳細な歌人論・作品論が書かれています。ぜひご一読を。


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by minaminouozafk | 2018-01-16 08:17 | Comments(7)