2026年 03月 11日
ブログ記念日114
15年前の今日、私は糸島の図書館の2階にいた。1階のカウンターでその報を聞いた。対応してくれた院生アルバイトのゆるやかな三つ編み、片側に寄せられた三つ編みの陰影が、その日の栞のように残っている。
日本に住む多くの人が、あの日、生活の時間が狂う経験をした。物理的にも精神的にも――。福岡は近いとはいえず、けれども遠くの出来事とはとうてい思えなかった。
訪れて記憶に新しい鮎川港にまだ私は立っていたし、若い祖父母が暮らした家も幼い母が通った坂道もあざやかに思い出された。
11日のめぐり合わせで、今日は「南の魚座」の記念日。改めて歌の縁をおもいつつ有川記す。

羽白熊鷲 有川知津子
ここもまた誰かの故郷ひびわれた樹木に注連縄が張られて
射貫かれしすがた記憶にある者かつばさ鳴らさず生きる里人
丘陵は鳥のつばさに暮れてゆく人のすがたを見失ふまで
ゆふぞらを東へ駆ける笑ひごゑ羽白熊鷲の奥つ城どころ
羽ばたきに雲ほぐれつつ遠浅の海の引ききるときのしづけさ
たゆき海光 鈴木千登世
子ども語のひとつと思ふ〈こんぷりいと〉回らぬ舌が得意げに言ふ
食堂にカレー匂ひて穏やかな午後 病む人もゆるく息して
島影を過るフェリーの影消ゆる時あり たゆき海光の中
時代つと移り何がな書きにくく殺虫剤をスプレーと記す
やさしさの時代は良けれ良けれども良いのか「殺」の字の消えゆくは
きらめきの一皿 大野英子
きらめきの一皿と逢ふ北風にあふられて着くあはきともしび
うつくしき手仕事なりて時をかけあじはふ一皿、またひとさらを
あさのひかりゆふべのひかりをたくわへて時ながく咲け梅のしらはな
鳥を呼び花虻を呼び花しづか実らずとも良し老木の梅
とぢてゆくひとひたまゆら火を灯すたいやうそしてけふの充実
父のサンダル 栗山由利
孫をつれ徐州の桜もみただらう父のサンダルおかへりなさい
一杯のお茶でちかづくこともある さあお茶しましょ、春はテラスで
案内のこゑはかろやか語尾すこしあがるのもよし女性運転士
テーブルを笑顔がかこむまんなかに主役となつて母の手料理
黒髪のほつれなほして雛壇にならぶ雛も七十二歳
縫ひぐるみ 大西晶子
もの言はぬ縫ひぐるみたちにたましひを見出だし児らは良き友にする
やはらかき縫ひぐる抱けば老いわれに降りて来たれり慰謝のごときが
欲張れば身を損なふとふお神籤を運びきたれり土のしろうま
得点はどうあれ力尽くせしはひと世のあかき記憶にならむ
風呂の湯に手足のばして思ひをり雨多き国に生れしは恩寵
にんまり笑顔 百留ななみ
てんこ盛りに仏飯そなふ仏壇を囲むちちはは四人の写真
坪井川わたり上通りの古書店へ漱石となりそぞろゆく午後
黄楊の木で彫られし入れ歯を愛用せし本居宣長、滝沢馬琴
セツさんのにんまり笑ふ遺伝子を継ぎたるミータンすくよかならむ
大ミミズ驚かせつつ三月のはたけに人参ていねいに蒔く
ハードラー 藤野早苗
カンバスに紛れ込みたし語り部の咽喉をとほり名を呼ばれたし
新しきわたしの小さなコンクェストe-Taxで申告をせり
迫りくる障害迷はず飛び越して110ハードラーだつたあの頃
戦ひのなき世のための戦ひと大義搭載ミサイルが飛ぶ
ミモザの黄掲げてあゆむフラワーデモ 「わたし」を大きな主語で括るな

