2026年 03月 10日
バレイヤージュのひと 藤野早苗
3月8日、日曜日。天神はすごい人出。フラワーデモの影響もあったのかな。
アクロスでの支部歌会の帰り道、たくさんの方々とバッタリ。そんな偶然を思い出し、「今日は出会う日なのかもしれない」と思いながら、ひとりお茶をしていたら、隣の席に、とても美しい髪色の女性がお座りになった。多分、私より年上。けれど颯爽としたカジュアルなお召し物と、茶色のような金色のような艶やかなストレートボブが、その方を文字通り輝かせていた。
そんなこと滅多にしないのだけれど、その存在感に惹かれて、つい声をかけてしまった。
「御髪のお色、綺麗ですね。」
するとその方、まさしく花が咲いたように微笑まれ、
「ありがとう、とても嬉しい」
とおっしゃった。そこからずいぶん長く、お話しさせていただいた。
そもそも、なぜ私が見知らぬ人に突然話しかけるという奇行に走ったかというと、現在の悩みがまさに〈髪色〉だからである。ご存知の方も多いと思うが、今の私の髪色は〈薄ーく紫の入ったグレー?〉という、なんとも表現し難い色味らしい。これがまた、天然光か蛍光灯か電球光かで見え方が違うのがややこしい。

自宅の洗面所の光で日々自分の姿を見ている私は、つい先ごろまで、自分の髪色は黒だと信じて疑わなかった。ところがここ半年ほど、さまざまな場面で「その髪色にするにはどうしたらいいのですか?」と尋ねられるようになり、そこでようやく自分の頭髪の異変に気づいた次第である。
これも以前ブログに書いたことがあるが、私は尋常性白斑症だ。免疫系の病気で、身体中のメラニン色素が抜けていく。私の場合、最も症状が現れているのが頭から首筋。頭皮のメラニンが失われると、そこから生えてくる髪も当然白髪になる。ならば染めればよいのだが、ところが数年前、ジアミンアレルギーも発症。
以来、アレルギー成分を含まないカラークリームシャンプーで洗髪しながら、髪色補正(黒)をしていたつもりだった。けれど、ほぼ白い頭髪に定着力の弱い黒に近い紫系色素を入れても、やはり「黒」には見えないらしい。そのことが、ようやく腑に落ちたのがここ最近のことだ。もう還暦も余裕で過ぎた身としては、今さら黒々とした髪色になりたいとは全然思わない。けれど、あまり人の興味を惹かない、ナチュラルな範疇に収まる色はないだろうかと、常々考えていた。
そんな時、目の前に現れたのが、バレイヤージュも美しいダークブロンドの女性。その髪色自体は決してナチュラルではないけれど、その方のありようそのものがとてもナチュラルでエレガント。こういうふうに生きるには、どんなマインドセットでいらっしゃるのだろう。そう思ったらどうしてもお話ししてみたくなり、つい声をかけてしまった、という次第。
その女性は、私よりひと回りちょっと年上。現役でバリバリお仕事をされている。問題の(笑)御髪は、もう数十年のお付き合いの美容師さんにお任せしているので、自分ではよくわからないとのこと。この無頓着さもまたエレガントだ。
そうなんですね、と得心していると、
「ここの美容室、紹介しましょうか」
と素敵なお申し出。
長く今泉にあったその美容室、最近移転したらしく、マダムにとっては少々通いにくい場所になったらしい。美容室の名前を伺い、スマホで検索してみると――なんと、わが家のすぐ近く。あまりの偶然にびっくりしていると、「もし行かれるなら私の名前を出してくださっていいですよ」と優しいお言葉まで頂戴した。名前?ふとそこで、大概長く喋っていたのに、お互いまだ名乗り合っていなかったことに気づき、二人で爆笑。あらためて自己紹介をして連絡先を交換し、「また、いつか」とゆるくて心地よい約束を交わしてお別れした。
どうやら、やはりこの日は出会いの日だったらしい。
クロワッサンアマンドナイフで切り分けて時空の交差するカフェにゐる


