2026年 03月 05日
「水城293号」届きました 鈴木千登世
お雛祭りのおととい、「水城293号」が届きました。
今号の吉祥文様は「芽柳(めやなぎ)」。新芽を付けた柳を表していて、若芽のけぶるような枝ぶりが早春に芽吹く生命力の強さや魔よけになると好まれたそうです。和装では初釜に適した柄とのこと。以前にお稽古に通っていた裏千家では初釜の時に床の間に枝を長く垂らした「結び柳」が飾られていたのを思い出しました。

寄せられている会員19名の作品のうち一首をご紹介したいと思います。
有川知津子「青い雛罌粟」より
月光のしたゆくときのたのしさはあなたが雨のフランスにゐた
(遠く隔たっていても空の下でつながっていた「あなた」。私が楽しさを覚えたのは「あなた」がいたからだった。幼馴染への挽歌の中にこの一首があって胸を打たれました)
有中房子「ヘルペス生ず」
弱りたる布繕ふは弱い糸とたらちね言ひし単衣を繕ふ
(繕いをして布を大切に使っていた古くからの智恵。「弱った布には弱った糸」という母の言葉に目が開かれました。作者が丁寧に繕う姿も浮かんできました)
池田毅「ランサムウェア」より
知らぬ間にランサムウェアが侵入し倉庫管理システム破壊す
(企業のシステムに侵入して脅かすランサムウェア。その被害がリアルに描かれた一連でした。現代社会の便利さの裏の脆弱性を他人事でなく感じました)
池野京子「市長となりてこれから」より
目覚めると「ごきげんいかが」と自らに問ひかけ今日の一日を生きむ
(「一日」を「生きむ」という言葉が印象的です。自らに語りかけて前向きに暮らそうとする作者の心の在り方に励まされます)
江﨑玲子「料理は科学」より
七合米誰が食べたと争った頃も懐かし今一合半
(家族の変遷がお米の量でわかります。七合とは何人家族だったのでしょうか。にぎやかな暮しから夫婦ふたりの暮しへ。私自身をふりかえって懐かしい思いに浸りました)
大西晶子「アドベント」より
よきことを待つ日々たのしアドベントカレンダーの開かぬ窓を数えて
(クリスマスまで毎日引き出しや窓を開けながらカウントダウンを楽しむアドベントカレンダー。最近は「待つ」ことが少なくなりました。「待つ」ことをわくわく楽しむ作者の気持ちが伝わってきます)
大野英子「二千二十五年の師走」より
大音響ひびかせ浚渫船は発ち豪華客船音なく入り来
(小さな浚渫船は大きな音、豪華客船は静かに。港の船の出入りが鮮やかに見えてきました。吹き抜けて行く潮風の匂いまでするようです)
栗山貴臣「地域猫ひな」より
みーちゃんと呼ばれた猫に瓜二つ母猫のあと地域を担う
(ひなちゃんの母も地域猫。お世話しているようで実は与えられていることに思い至りました。「地域を担う」という表現に惹かれます)
栗山由利「再会のゑがほ」より
大小のスーツケースがすれちがふ駅コンコースのにぎはひやまず
(おそらく博多駅のコンコース。「スーツケース」という一語(換喩)で人の流れや駅の空気感まで描写されています)
猿渡紀美子「町内餅つき大会」より
つきたての餅を小もちにちぎりゐる指の間まつ赤熱くて投げる
(つきたてのお餅を小餅にする過程が丁寧に詠まれています。「指の間まつ赤」「投げる」という表現からお餅の熱感がリアルに伝わってきます)
辻恵泉「鎌倉彫」より
在りし日の母が彫りゐし鎌倉彫マガジンラックに夕日が射せり
(使い込むほど深い味わいを生むという鎌倉彫。亡きお母様手作りマガジンラックが夕日に浮かび上がる様子はうつくしくてまた切なくもあります)
手嶋千尋「サンタ業務」より
サンタから業務委託を受けているママに手紙を託す小三
(「サンタから業務委託」という発想がとても楽しく、クリスマスのイベントを微笑ましく回想しました。しっかりしつつも幼さの残る子ども表情が見えて来るようです)
中村仁彦「三光園」より
マンションのまちにできたる空間に三光園のまぼろしもなし
(由緒ある料亭が取り壊され移り変わってゆく一連の作品のさびしさが印象的です。「三光園のまぼろしもなし」が見せ消ちに働いて漠々とした空虚感が広がります)
橋本宣子「いらつしやいませ」より
七鉢に増えてそれぞれ花咲かす母の形見のだるま君子蘭
(君子蘭が繁殖して花を咲かせるうれしさ。母の形見のだるま君子蘭ならなおのこと感慨深く感じられることでしょう。陰翳のある下句が心に残りました)
濱田敬子「さざんくわの白花」より
癌完治せし姪に絹のスカーフを梔子の実で黄色く染める
(梔子の実で染めると輝くような黄色が現れます。重病を克服した姪御さんへの心からの贈りものとなったことでしょう。鮮やかな黄色が姪御さんに幸福を招くように思います)
播田小弓「左肘頭骨折」より
「全身麻酔かけます」「はい」と答えつつ瞬時思へり『外科室』の恋を
(心に秘めた事をもらすのを怖れて麻酔を打たなかった夫人を描いた泉鏡花の『外科室』。手術前緊張感や独特の不安が立ち上がってきました)
藤野早苗「カナンへ」より
おほぞら発ちたるものも果てにけん冬風に鳴る空蝉ひとつ
(風に鳴る空蝉のさびしい景。その抜け殻を飛び出した蝉への言及がさらにさびしさを際立てています。冬という季節の本質や命ということを顧みる思いがしました)
藤野萬璃子「アーティスト反田恭平」より
モーツァルト「きらきら星変奏曲」亡き娘弾きしを思ひつつ聴く
(亡き娘の幼い頃の姿でしょうか。「きらきら星」を演奏する姿や音を目の前の反田恭平のピアノに重ねて聴くという姿に母として心情を思いました)
増田柳子「人は減りAI栄ゆ」より
パソコンに装備されたるChatGPT5肉体持てばどうなる 不安
(AIの驚異的な進歩に便利さを超えててとまどいを覚えています。「肉体持てば」とさらなる進化への発想に注目しました。ひとマスあけの「不安」に同感です。)
今号にも作品とともに白秋や柊二研究が寄せられています。盛りだくさんの内容をこれから熟読させていただこうと思います。ありがとうございました。

さんぐわつの冷気とひかり 迷ふのはもういいかしらと芽を吹く桜

