2026年 01月 17日
なつかしい味 栗山由利
ときどき、母が作ってくれた料理を思い出して食べたくなることがある。聖護院大根の煮物は手に入ったときに作っている。口の中でとろけるような食感とほのかな甘みがやさしく、母の好物でもあった。
あとひとつが玉ひもの煮物である。玉ひもとは鶏のまだ卵になっていない未成熟卵の黄身(きんかん)とそれをつなぐ卵管(たまみち)のことで、手ごろな値段だったのか食卓にちょこちょこ上っていた。味というよりも独特な食感が特徴で、黄身といってもゆでたまごの黄身とは全く違いその密度の濃さが癖になるおいしさである。
鮮度が落ちやすいので一般のスーパーなどではあまり見かけにくく、なかなか手に入りにくいのだが博多駅のデパ地下の鶏肉の専門店には置いてありカルチャー教室の帰りに買うこともあった。しかし、それが昨年の夏あたりから店頭に並ばなくなり尋ねたところ、もう入って来ないということでいささかがっかりしていた。
それが先日、無性に食べたくなり思い悩んでいたところ閃いたのが、いつも行っている近所のお肉屋さんのご主人の顔だった。このお店は看板はあげているものの表の通りから中は見えず、建物のドアを開けて入ると野菜屋さんと二軒だけで営業しており他のお客さんに出会うことも少ない。二軒とも小売りより飲食店や病院、保育園などが主な取引先のようである。お肉はすべて九州産で、ここのもつ鍋用のもつを食べたらお店に行く必要がなくなった。おでんに使う牛すじ、アキレスもきれいだしお願いすればローストビーフのブロック肉も準備してもらえる。
そうなると居ても立っても居られず、店に直行して聞いてみたところ二つ返事で卸やさんに電話をかけてくれた。聞くと鮮度が落ちるのが早くて冷蔵でも2日しか持たないそうだ。加えて下処理が面倒がられて需要は少ないらしい。「おいしいのに勿体ないですねえ」とご主人も言っていた。

かくして数日後に届いたのはまさに見た目は金柑そのもののきんかんと薄いピンク色がふんわりしたたまみちであった。ゆでて薄皮を剝いたり、たまみちの内側を洗ったりと手はかかるがごぼうとこんにゃくと一緒に生姜をいれて甘めに仕上げた煮物はなつかしい昔の味だった。
いただいた命は隅々までいただきましょうと思うのだが、この玉ひももいずれは消えていくのかなあとちょっと残念な思いである。

おもひだす母の味にはちかづけずでもいいのよと母の声がす

