2025年 11月 20日
りんごの香りと歌 鈴木千登世
長野の友だちからりんごを送ったと連絡が来ました。秋の初めに、山口のいつもの岡崎りんご園で買ったりんごはシャキシャキして美味しかった。届いたりんごの箱を開ける時の何ともいえない高揚と開けた途端わっと目に飛び込んで来る赤いつやつや。剝いた時の甘酸っぱい爽やかな香り。友だちからりんごが届くたびにまた冬がやって来たことを、そして年末が近づいていることを感じます。

このところりんごの香りを詠んだ作品に惹かれることが多くありました。
なによりも林檎の好きな人とゐて林檎の香る家に暮らせり 水辺あお『空の静謐』
水辺あおさんの『空の静謐』については先週の金曜日のブログで大野英子さんがこの歌集の魅力について熱く詳しく紹介してくださっています。昨日届いたコスモス12月号では有川知津子さんの、歌集の根源に触れる評が掲載されていました。
社会に対する鋭い眼差しとヒューマニズムに満ちる作品に目を開かれながら読み進める中で、折々に現れる「暮らしを詠んだ歌」に幾度も立ち止まりました。最も惹かれたのがこの林檎の歌。(知津子さんの歌集評のタイトルが「林檎の香る家から」だったことが嬉しい)
妻とふたりのあたたかな暮しが立ち上ってきます。「林檎の好きな人」からは明るく清らかで可愛らしい妻の姿が見え、「林檎の香る家」という言葉からは生活感と一緒に清潔さや心地良さ、甘やかさが伝わってきます。安心と信頼に満ちた素敵な相聞歌です。

ルビー婚 むかしもいまもわが妻はきれいに林檎の皮をむくひと 久葉堯『菜の葉第20集』
林檎の清らかなイメージに、清楚な妻の姿が重なります。たくさんの長所のなかで最も妻の人柄の現れている行為として「きれいに皮をむく人」が選ばれています。香りは直接詠まれていませんが歌の背後からりんごの爽やかな香りが漂ってきます。妻への感謝と変わらないあこがれの思いの重なった素敵な相聞歌です。
最後は白秋の
君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋『桐の花』
歌になると林檎の香りがするから不思議です。清らかな雪に清冽な林檎の香りが重なります。舗石に積もった雪の白さと漂うまぼろしの香り。明るさと清らかさと。それは恋人のイメージにもつながるようです。
りんごの歌、ことに香りは相聞とよく合うことに気づきました。りんごの似合う女性の姿をいつか詠めたら。宿題ができました。
りんご剝きりんごのにほふキッチンに〈寒太郎〉来ぬ北風に乗り

