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ブログ記念日110 藤野早苗

いわゆるFax付固定電話、通称家電を取り外すことにしました。諸事情ありますが、一番の理由は母一周忌。スマホ、携帯よりも固定電話を使って連絡してきた母が、ひょっとしたらあちらから電話をかける気になるかも、と考えたり、そしたらやっぱり家電残しとかないとまずいよね、なんてありえないけどあるかもしれない妄想をしたりしているうちに、逝去から1年が過ぎようとしています。

1年待ってたけど、かかって来なかったから、もう家電処分するよ、おかあさん。

若いひとたちは知らない、受話器を耳に当てた時の不思議な充足感。

声で繋がることがあんなにうれしかった時代を知っているから、家電がなくなってもおかあさんの声、ずっと覚えてるからね。





母一周忌  藤野早苗

ふかぶかと秋は来てをり本を読む手元がすでに暗き午後五時

添削ではなく推敲す今生の残り時間を味はふために

驚きといふなら30年まへのカラン卿こそ歌壇の奇跡

さあ今日は何をしようと目覚めたる朝の日差しは価千金

浄土からかけてくることなかつたね固定電話いへでん外す母一周忌

レモン彗星 有川知津子

海風にそよいでゐたり三年まへひとの蒔きにしモリンガの種

この夏を生きのびた影をともなひて蟬のぬけがらその爪ぢから

JR春日駅まで続きをり「幕府をひらく」人々の列

ゆびさきの香油にほひあぶらに風がくるレモン彗星めぐる空より

旅客機が空にまぎれて客船が海にまぎれて博多の秋は

きつねの窓   鈴木千登世

ゆびさきを桔梗で染めて作る窓〈きつねの窓〉を思ふ秋の日

野の花の素朴の風(ふう)に虫あまた招くふしぎの花ふじばかま

「終了」と書かず「満尾」と記すこと面映ゆくまたうれしかりけり

コンサート終はり駅への人波に親しき温みひつつ紛る

「朝焼け」と最初に口にしたひとへ 朱鷺いろの雲ただ見ています

秋のくさばな  大野英子

五時なのにまだ明けぬ空オリオンと十八夜月ともにまたたく

描くこと出来ねばせめてまなうらにとどめて詠まん秋のくさばな

つはぶきの黄の花を待つばかりなる少しさみしく風すぎる庭

歩くこと辛いわたしを広き世へ連れ出しくるる歌集また歌誌

暮れ急ぐ街へ出かけるコンサートひゆういと弓の伸びる音思ひ

好奇心  栗山由利

半顔をふすまからみせのぞきみる猫には猫の好奇心あり

とんでゆきたいところなどゆつくりと考へなさい越冬さなぎ

耳のいい猫にまつすぐみつめられつぶやきが音たててはじける

一日がにじふよじかんではないにちがひない国 おとなり中国

猫好きのにほひかぎわけよつてくる大陸の猫に散るプラタナス

ピースの銀紙 大西晶子

甘苦ひ匂ひだつたよ遠き日に父にもらひし〈ピース〉の銀紙

BGMに混ざりて聞こゆ体調を崩しし人のもらせし呻き

救急車を待つ人たちに「お大事に」と視線をおくり店を出でたり

コスモスの咲く畑はたに紛れゆくやうに消息絶えたり年上の友

祥平の打球は視線幾万の尾をひき大き弧をゑがき消ゆ

夕焼け小焼け 百留ななみ

木のかうが秋のひかりにはじけたり鋸の音にはかに止みて

いつくしむ悦ぼふ憾むみどりごも老いも天子もおなじ心ぞ

駈けのぼり坂道の果て入日落つ尾花も蜘蛛も夕焼け小焼け

ガラパゴスゾウガメに乗り百歳の母はゆくべし中津塩町

無花果の実のなかにれ無花果の実のなか死する一生(ひとよ)あるとふ


by minaminouozafk | 2025-11-11 00:24 | ブログ記念日 | Comments(0)