2025年 10月 07日
才能さんたち「シン・わくわく学びフェス」 藤野早苗
10月5日は開智プロジェクト主催の「シン・わくわく学びフェス」に参加。今年は運営スタッフとしてお手伝いさせていただきました。

〈開智プロジェクト〉は、小説「下町ロケット」のモデルになった(株)植松電機社長植松努さんがご自身の経験をもとに創設された、新しい学びについて考える人たちが知恵を寄せ合うプラットフォーム。全国にたくさんの仲間がいます。学びの場は学校だけではありません。学びたいと思ったら、いつでもどこでも学び始められる。もし、なんらかの事情で学校と折り合いが悪くなって通えていない状況になったとしても、自分らしい学びの道は必ずあるし、社会にはそのためのリソースが実はたくさん用意されているのだということを日本全国津々浦々、講演依頼を受けた先々で伝導していらっしゃるのが植松社長なのです。
その志に共鳴して、福岡でもぜひ……とはじまったのが〈シン・わくわく学びフェス〉。会場である福岡大学の工学部教授松隈洋介さん(植松電機でロケット製作修業経験あり)総指揮のもと、開智プロジェクトメンバーとボランティアスタッフでイベント当日の仕切りを行います。3回目となった今年も大盛況。全ての出店ブース、講演、ショーが見どころ満載で、ひとつしかない身体では回りきれないのが残念でした。

そんな中で、今年特に印象に残ったこと。それは、若い才能さんたちとの出会いでした。
小学3年生の時にであった「元素」に心奪われ、手描きの「元素カルタ」を自作し、その企画を企業に持ち込んで小学5年生時に商品化してしまったレウォンくん。その経緯を語るプレゼンの手腕は有名で、高校1年生の現在、講演やメディア出演の依頼が途絶えないという状況です。今回のイベントではポラレウォン(母上のポラムさんとのユニット)として出店。ブースで開催された元素カルタ大会は大賑わいでした。
*元素カルタはこちら↓。




一箱に4バージョンのカルタが詰まっています。
レウォンくんの手描きイラストと細部にこだわった構成が素晴らしい作品です。
実際に遊んでみると本当に面白い。
クセになりますね。
そして、スペシャルニーズ教育で知られる明蓬館高校博多SNECさん(センター長岡本美香さん)のブースでもすごい原石を発見しました。SNECさんの教育の柱は〈マイプロ〉。アクティブラーニングの最先端で、自分が興味を持っていることについて、あらゆる方法を駆使して調べ、それについての論文を年間10本執筆します。その発表の場のひとつがこの〈シンわく学びフェス〉で、私も毎回楽しみにしています。壁際に置かれたマイプロを読み、ふっと首を左へ90度振ったところ、目に飛び込んだものに思わず声が出ました。「うわ、これすごい!」


「かまくら新聞」。こちら全部手書き。レイアウトも上手い。今時の高校生は紙媒体の新聞とか読まないのだろうなと思っていたら、なんとこのように素晴らしい新聞を自作する高校生が存在したとは。しかもその内容は、通り一遍の「新聞つくりました」とは一線を画す仕上がりになっている。思わず「天才」と呟いていたら、それを聞きとめたセンター長岡本美香さん(みかりん)が、「あ、早苗さん、作った子いますよ」と、製作者をご紹介くださいました。製作者Aさんに、記事執筆にあたって参考にした文献は?と尋ねると返ってきた言葉は「愚管抄」! もちろん他にもたくさん資料を読んでいらっしゃるだろうことは想像できますが、真っ先に「愚管抄」が上がってきたことに驚いたのでした。画像の「かまくら新聞」、ご本人の了承をいただいて掲載しています。アイディアとセンス、絶品でした。
このフェスの最後のイベントは、松隈教授によるロケット打ち上げ。フェス本部教室に置かれた紙製ロケットに、来館者が思いの丈を書いたカードシールを貼り付け、空高く飛ばしてフェスの成功をみんなでことほぎます。イベント責任者として、打ち上げを見届けようと集まってこられた方々の前で話す松隈教授の横で粛々と微調整する高校生。彼はもうずいぶん長く松隈教授のもとに通い、ロケットのことを学んでいるのだそうです。自分の高校時代を顧みて、大学のセンセイと懇意になり、自分の興味を究めるというそんな贅沢が赦されるなんて考えたこともありませんでした。この高濃度の学びは学校教育ではなかなか得られるものではありません。たくさんの人が集まる、まさに衆人環視の状態で黙々と作業をする彼の姿はとても印象的でした。


そしてこの後、ロケットは無事打ち上げ完了。パラシュートも予定通り、福岡大学の芝生の上に落下。大きな拍手と歓声でこの日のイベントは幕を閉じたのでした。
昨日、大阪大学特任教授坂口志文さんがノーベル生理学・医学賞を受賞されました。そのインタビューの中で、「自説が受け入れられない不遇の時期を過ごした」ことを語られています。そんな状況でも「頑固に続けた」、それが今回の受賞に繋がったのであろうとも。坂口教授とご紹介した3人の高校生は、好きなことを諦めない、世間がなんと言っても工夫と信念でやり通す、その点で共通しています。地盤沈下に歯止めがかからないこの国の教育を救うのは、こうした情熱の火を燃やし続けられる人材なのではないかと思うのです。そんな才能に出会うたび、大きな喜びとほんの少しの羨望と、そんな気持ちを噛み締める私なのでした。
航跡はやや右曲り夢載せて紙製ロケット秋空へ飛ぶ

