2025年 10月 06日
草枕の道 百留ななみ
少し涼しくなって歩けるようになった。熊本からの帰り道に「草枕」で画工が辿った道、漱石が歩いた道を車で少しだけ廻った。

漱石は松山の中学校から熊本の第五高等学校に赴任。結婚をしたばかりの29歳。4年ちょっとの熊本滞在。その後、英国に留学。「草枕」の発表は39歳。
学生のころ「草枕」は他の漱石の作品とともに一読した。「智に働けば角が立つ」から始まる軽やかで美しい文体をただ読み進めた。深く理解できぬまま、アンニュイな那美さんに惹かれたまま……数年前に読み直したら、漱石の美意識や倫理観がここかしこに散りばめられていることに気づいた。主人公は画工であるが名前は記されていない。
画工も詩人も小説家も同じ。「小説も非人情で読むから、筋なんてどうでもいいんです」は画工のことば。人情界と離れるという言い方が作中では多く見られる。自然天然に芝居をしている美的生活。羊羹にまで美しさを求めている。漢語や英文学、俳句、能、絵画と迸る語彙についていけないが、心地よい文章のリズムに乗ってあっと言う間に読み終える。
漱石の哲学がたっぷり詰まった一冊だと思う。雨の山道。峠の茶屋でひと休み。鳥越峠には茶屋が再建されている。県道1号線で遠回りして茶屋の駐車場に。中には漱石にかかわる資料の展示もしている。裏に出ると白い彼岸花。井戸の跡もある。この裏道を漱石は辿ったのだろう。

途中、宮本武蔵が五輪書を書いたという霊厳洞に立ち寄ったあと車を停めて石畳の道を少し歩いた。竹藪、蜜柑畑の続く静かな山道。

ほんの少しだけ漱石の思いに近づけたような気がした。
摩訶不思議と思われる出戻りの那美さんのこころ。長閑な有明海を望む温泉宿の人間模様。非人情といいながら、満州への召集、出稼ぎなどの現実の別れの場面で「草枕」は終わる。
那美さんの小天温泉からのぞむ有明海。
「肥のあかり」という蜜柑を直売所で買った。小粒だがとっても甘い。

白花のまんじゆさげ咲く山路で非人情など逍遥する朝



