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コスモス富山支部報「零」 大野英子

 

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年に二度発行の「零」303号は昨年1210日発行です。18名の方が七首ずつ作品を寄せられてる中から、一首ずつご紹介させていただきます。


明け方の光の筋を引くやうに谷の底よりかなかなのこゑ 頼田晴子

スケールの大きな一首です。かなかなの沸き起こるような勢いと朝日の力強い光が一日の始まりを嘉するように感じられたのでしょう。

 大病をすることもなく夫とわれ生き得た幸をかみしめてゐる 上田洋子

結婚記念日のお祝いの席で、過去を振り返り、家族の今後の希望を素直に詠み込まれる一連です。どうぞ、末永くご健康でありますように。

 「嘘くと閻魔大王が舌ぬくぞ」幼に読みて聞かせしは誰 上野博之

多くの大人がこう言って子を諭して来たのです。そして今、日本は、世界は。意味深な一首に仕上がりました。

 トウキチの居ない日中の空気感静寂でもなく沈黙でもなく 岡部真知子*

保護犬トウキチと過ごした五年間を詠まれます。亡くなった後の捉え切れない空虚な思いを、重くのしかかるような空気感と捉えているのでしょう。

  「屑の花踏みしだかれて」と詠まれし葛今は空き家を覆ふグリーンモンスター 尾原永子

釈超空の一首を思い、踏みしだかれても、なお色鮮やかな屑の花を出すことにより、踏む人も遮るものもなき葛の勢いを効果的に伝えています。

 母あらば「満月きれい」の電話あり仰ぎしものを今宵十五夜 北川澄子

「電話あり」に「て」を補って読みました。満月のたびに電話を下さっていた母の、いない寂しさを言わず

伝えています。

 人間の残飯あさるゆえならむ攻撃的な声する鴉 栗三誌野*

人間の攻撃性を、鴉の声に託して、人間の恐ろしさを伝えています。不穏な現代、妙に納得させられてしまいました。

 ふはふはの糸と針もてくさり編み教へるこの子のおばあちゃん我は 沢麗子

お孫さんとの交流の一場面。「ふはふは」からきもちの温かさ、「くさり編み」から連綿と続く血縁を感じさせて下の句が生きてきます。

 曇り日を金木犀が急ぎ咲く夏の頁がぱたんと閉ぢられ 中川暁子

長くていつ終わるとも知れなかった今年の暑かった夏。それでも出番ですよというように咲く金木犀の香りに夏の終りを感じたのですね。結句の「ぱたん」に、その瞬間の臨場感がこもります。

相談はまとまりたるか翅黒蜻蛉ら妖しき風情に蓮葉を離る 西嶋圭子

他の蜻蛉と違い、蝶のようにひらひらと軽く羽ばたく様子を「妖しき風情」と捉えた観察が行き届き、複数の蜻蛉の存在を伝える初句から物語も生み出し、楽しく仕上がりました。

補助輪の子と父親のはしやぐ声ささやかなることわれらが平和 西村好美

変容する世の中を詠む一連の最後に置かれた一首。それでも変わらない親子の日常の一場面に読者も安堵します。

煩はず集中せんと入院の長女に持たせるベスト編みゆく 練合そとみ

長期入院なのでしょうか。あれこれと心配する気持ちを抑え、せめて愛情いっぱいのベストを編むことに集中しようという親心が切なく伝わります。

ひとり居の姉とのラインに「刑務所の松があったね」と話して「またね」 牧野玲子

七十年振りに二人で訪ねた場所。思い出が残っていたことと共に、新たな思い出が出来ました。「あったね」と「またね」の間の一呼吸に滲む思いが感じられます。

 西郷(せご)どんの銅像と会ふ鹿児島に高岡銅器のわざ誇らしき 松本京子

九州旅行の折の作品。西郷像に出会った喜びよりも富岡の誇る伝統工芸である高岡銅器で作られていることの郷土愛が勝っています。

ひつそりと一人静と延齢草吾と夫の今の生きやう 水野恵子

あまり目立たずに咲く春の花。穏やかに長生きをされるお二人を野の花に見立て、静かな暮らしぶりが伝わってきます。

黒づくり昆布かまぼこ亡き叔母の好物は叔父の酒のアテなり 山口芳子

黒づくりも昆布かまぼこも富山名物です。叔母の好きなものは、叔母亡きあとも、そのまま叔父の酒の肴となり、飲みながら妻を偲ぶ叔父の姿が浮かびます。

 行き生きて見たきものある幸せに一人旅せりリュック背負ひて 横山裕子

星や雲や植物を歌材に詠まれる横山さんです。そんな横山さんの一人旅は単なる観光ではなく、新たな自然との出会いの旅なのでしょう。満ち足りた一首です。一人旅に出かけたくなりました。

 葡萄の葉お茶に加工せぬと収穫の終りしワイナリーに葉を摘む人ら 四谷範

調べるとノンカフェインでありながら栄養価も高いようです。土に返すだけだった葉を再利用するというサスティナブルなお茶。作業に関わる人たちを温かい目で見守られているのでしょう。


他にも会員による秀歌抄、作品評、紙上歌会、毎号の水上比呂美氏による歌作りのヒントなど、盛り沢山な支部報です。皆さんの歌に対する熱意が伝わってきます。


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この冬は、各地で例年を上回る積雪が記録され、富山でのホワイトアウトや黒部の積雪もニュースで取り上げられていました。みなさまに被害のなきことを祈っていました。穏やかな春を迎えられますように。


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      三分を置かず旅客機飛びゆけるゆふぐれの空どこか行かうよ


by minaminouozafk | 2025-02-28 07:53 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(0)