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よめのさら   鈴木千登世

 去年の春頃から頻繁に通うようになったスーパーがある。住んでいるあたりは商店がない(1番近いのが酒屋さんで2㎞先)ので日頃は車で買い出しに出かけている。15分くらい走ると大型スーパーやショッピングモールがあるので、買いたい品物や気分によって使い分けていた。

 よく行くようになったお店は地域ごとにスーパーがあった頃のままのスーパーで、コンパクトなスペースにお魚や肉、野菜の他各種の食品が所狭しと並んでいる。出来上がった総菜の他にお店手作りの半分調理された食品(衣のついたトンカツなど)もあって、しかも美味しいのが嬉しい。酒屋さんから始まったお店なので山口の地酒だけでなく一般のスーパーでは売られていないような他の地方の美味しい地酒もあって、最初はお酒を買うことが目的で訪れていた。

 このスーパーの鮮魚コーナーには萩から仕入れられたお魚が並んで、パック詰めの切り身もあるのだけれど、頼めば捌いてもくれる。お酒を買うついでにぷりぷりしたお刺身や身の締った魚を買って帰るうちにいつの間にか魚を買うことが目的で通うようになっていった。

 秋のある日のこと。いつものように鮮魚のコーナーに行くと「よめのさら」が並べられていた。「よめのさら」は夏が旬の萩の磯で取れる一枚貝で、祖母の家で何度か食べたことがある。祖母は味噌汁に入れていた。(萩の)見島には「ぐべ汁」と呼ばれる郷土料理があったり、炊き込みご飯にしても美味しいという。「べべ」や「ボベ」と呼ぶところもある。地元でよく知られるものの売られているのは一度も見たことがなかった。身近過ぎて売られるものではないというイメージなのでびっくりしつつ直ぐに買い物かごに入れ、その晩はお味噌汁を作った。

よめのさら   鈴木千登世_f0371014_13121136.jpg

 この貝は直径が2~3センチで本当に小さい。何かの拍子に名前を聞いたら祖母は「よめのさら」と言って、驚く私に「嫁さんの皿はこんなに小さいってことかねえ」と笑った。その時のなんとも言い表しがたい思いを今も覚えている。磯の岩場でたくさん採れたので、泳ぎに行ったついでに採って帰ったこともある。こりこりとした身を噛んでいると祖母の声や「炊事場」がぴったりの、うす暗い土間にあった流しのこと、ご飯を食べる板の間の固さが思い出された。


名にとげの潜みてちくと胸を刺す〈ままこのしりぬぐい〉また〈よめのさら〉


by minaminouozafk | 2025-02-06 13:59 | Comments(0)