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「コスモス愛知」555号 大野英子


 

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先週の水曜日に早苗さんが書かれていましたように、しばらく有川さんが休筆されます。それで、微力ながらこれまでは、有川さんが折々にご紹介してこられ、まだ紹介できないままで心残りであるだろうコスモス各支部の支部報をぼちぼちと紹介させていただきたいと思います。


「コスモス愛知」第555号。202410月発行です。28名の会員の方の七首詠が掲載されます。掲載順に一首ずつ紹介いたします。

手から手へ財布から財布へ巡りゆく御札の先生いかなる旅か 池田あつ子

かつて津田塾で学ばれた池田さん。津田スピリットと新紙幣の顔となった津田梅子へと思いを巡らせています。津田梅子の新たなる旅です。現代のお財布事情をどう見られるのでしょう。

 神事とて天皇の田植の報道ありああぎこちなし令和のみかどは 伊藤文弘

ほととぎすの鳴き声を聞き、故郷やその田植を詠まれる一連の最後に置かれます。新しい天皇への見守るような視線が楽しく伝わります。

 明日電話しますと友のメール来て小一時間も話を聞きぬ 井上啓子

「も」に勘弁してほしいという気持ちがこもります。メールで念押しされたら逃げられない思いが結句にこもります。

雑草におおわれながら赤と黄のダリアはとても下品に咲いた 岩舘澄江

「下品に」の言葉に釘付けになりました。夏の生い茂る雑草のシンプルさの中に咲くとなるほどそう見えるのかもと納得。

 五色素麵残りの二束食べし後スタミナつけんと冷しやぶ作る 魚住千佳子

暑い夏、お手軽な素麺でしのいで来られたのでしょう。最後の素麺を食べて、ふと、これではいけないと思ったパワーがみごとです。

 欠席せし同窓会のスナップは時間の向こうに老顔ならぶ 奥村幹男

直接会って話せば、時間を飛び越えて若い頃のままの気分でいられるのですが、写真を冷静に眺めると「老顔」が明らかになるのでしょう。そのタイムラグを「時間の向こうに」と上手く表現されています。

 川沿ひの葉桜並木(あを)さやか風にさそはれ白鳥橋まで 風野芳子

木洩れ日も見えてくるような気持のよい散歩道。固有名詞も効果的にいつもより距離が延びた清々しさが伝わります。 

 わが後をくる黒犬は旅ののちするりとキャリーケースに戻る 河合育子

いつも旅の相棒である黒いキャリーケースをまるで愛犬を引き連れるように旅をされるのでしょう。「するりと」の鮮やかさが旅という異世界から現実に戻る瞬間を捉えています。

 冬の夜の思ひ出ひとつ 海鼠腸を肴に父と恋語らひき 小嶋啓生

恋の現在、過去がロマンチックに詠まれる一連。最後に置かれる遠い日の父との思い出。肴の「このわた」が男同士の内緒話の小道具として生きています。

 夏バテの今朝の心は始動せず冷抹茶たてゆっくりと飲む 小山芳子

昨年の猛暑を丁寧に詠まれる一連。気だるい一日の始まりの、冷たくすっきりとした苦みは心身を立て直してくれたことでしょう。 

快適さ求める手術の後ろめたさ命の軽い国を思いて 齋籐久美子

白内障で視力を取り戻した喜びを詠まれる最後に置かれます。命の重たさに差は無いはずなのに、医療に恵まれた国にいるしあわせの中、戦争の犠牲となり容易く命が失われる国へと思いを深めています。

 甘味なぞ感じてないのにそれはそれスイカ頬張り夏を愉しむ 柴田有里

夫君の病の後遺症の味覚障害を見守りながらも前向きさに救われている作者の愛に溢れる一連です。

 子息より訃報届きぬ智津子さん最期まで歌を詠みしと添へ書きのあり 鈴木竹志

今月のコスモスで「短歌の沼に心地よく浸かる」と短歌愛を詠まれる鈴木さん。短歌のお仲間も大切にしていることが伝わる一連です。四句の大幅な字余りに万感の思いがこもります。

 今朝殊に美人におはす伊吹(さん) 新緑深く雀ら元気 鈴木仁

いつも見ている伊吹山。一連で猫背の自己を「春愁の形」と詠まれていますが、この景色にはきっと背筋も伸びて元気を貰ったことでしょう。「山」のルビが人への呼びかけのようにも感じられ親しみが伝わります。

 白き岩ころがる大河の木曽川よ岩間をくだる水音たかし 副松悦子

長野から三県を経て伊勢湾に注ぐ一級河川。「白き岩」や水音の描写から雄大な情景が浮かんできます。

 離れ来しふるさとの国のおおきみをいまかりそめのふるさとに待つ 高橋みどり

英国留学中の、昨年の天皇皇后ご訪英を詠まれます。ふるさとをリフレインすることにより、離れている日本と、今はお迎えする側である英国愛が共に伝わります。

 葉を鳴らす銀杏に釣られはじまりの五音を探し唇ゆるむ 塚原明子

銀杏の葉の風に鳴る音に詩心をかきたてられています。ゆるんだ唇から今、初句五音が発せられる瞬間。

 本日の蒸し焼き会場地区祭り死んだ目をして「いらっしゃいませ」 野村歩歌

何の蒸し焼き会場かと思ったら、真夏の祭りの会場が蒸し焼き状態。奔放な詠みが持ち味の作者。一首では判りにくいのですが、無理やり参加させられている様子がユーモアをもって詠まれています。

 まだ意識あるから身体も動くから話せる生きてるそれだけでいい 野村まさこ

重篤な病の息子さんを思う一連。畳み掛けるような語りかけは、また、自分に言い聞かせる言葉でもあるのでしょう。母の切実な思いに溢れています。ご快癒されることを祈ります。

 清潔な紙を押し当てコトレッタの余りのバターの黄金色(こんじき)吸はす 早川照子

調理風景が見えるカウンター席でのミラノ風カツレツが出来上がる様子とその美味しさを伝える臨場感のある一連。盛り付けの仕上げのシェフの丁寧で繊細な指先に焦点を当てています。

 あなたが好き妻も大好き枇杷の実の(つゆ)したたるを口にほほばる 服部貞行

「わたしの宇野千代」を読んだ宇野千代愛に溢れる一連から「あなた」は宇野千代だとわかる。「妻も」の前には「されど」という言葉が隠されていると読みました。滴る枇杷の実から日常の充実感が伝わってきます。

 ゆきずりの店に購う立ち雛の小さき箱はわがためのもの 平野千恵子

買おうと思って行った店ではなく、たまたま出会った小さな立ち雛。夫のため、子のために贅沢は控えていたのでしょう。結句からそんな思いが伝わります。

夫とすごしし日々はまぼろしか夢の如くに遠く思はる 松橋園子

 日常の細事を詠み込む一連の最後に置かれます。だからこそ、初句の字足らずの余白も効果的に現在に埋没してしまいそうな過去へと、彷徨うように遠くに視線をおくる松橋さん。

  推敲をたのしみと語る高野氏のまなじりゆるみ のみ込まれるよ 古木増美

 高野さんをお招きしての出前歌会の一場面。常に推敲の大切さを語る高野さんの短歌愛を「のみ込まれる」と大胆に表現されています。  

  開きゐる灯下のサボテン月も星も見えぬ部屋にて私に向きぬ 三木裕子

今は亡き「君」から託されたサボテンの花が咲くと、君との思い出が甦るのでしょう。甘やかな一連に仕上がっています。

腹ばいの孫の目線に寝ころんで婿の作れるミルクを待てり 山田恵理

 いわゆる孫歌は甘くなるといわれます。この一首は甘さを通り越して孫と一体化しているところに面白さが

あります。

  雨のちの紫陽花に置く水玉ははかなく落ちて今日ぞ寂しき 山田宗俊

 雨上がりの紫陽花に、ぷっくりと乗る光をたたえた名残の雨粒に心を寄せています。雨降りの景色を楽しんでいたのでしょうか。消え去るもののあわれをロマンチックに詠まれた一連です。

  葛の葉は繁るにまかせ夏まひるチャイム鳴り止みぎらりと暑し 吉田美奈子

 葛の葉の勢い繁る真夏。風に乗り聞こえて来るチャイムを聞くともなく聞き終わった瞬間の静寂にふっと戻る暑さ。「ぎらり」が詠まれていない太陽の日差しを伝えています。


28名の七首詠、それぞれに読み応えのある作品でした。他に、前号の秀歌集、複数の会員による前号作品評も充実し、会員のみなさまの士気を上げるものだと感じます。河合育子さんによる幅広いジャンルの歌集鑑賞「星のめぐり」も、もう22回。楽しみに読ませていただいています。


そして鈴木竹志さんの「支部誌短評」では、今回「水城」に関してはわれらが有川さんの「白秋ノート」に触れて「研究者としての姿勢を崩さず、じっくりとこの連載を続けていってほしいものだ」とコメントを下さっています。それぞれの支部報に温かいコメントをくださって、どの支部も励みになることと思います。ありがたいことです。


弾みがつくような555号。いつも充実した紙面を届けて下さる愛知支部のみなさまに感謝いたします。



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  ほんたうにこころぼそいのはわたくしぢやない見えずとも夕陽耀く

  


by minaminouozafk | 2025-01-31 07:42 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(0)