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「海港」支部報通算100号記念号 大野英子

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今回は百号記念の支部報と共に、これまで連載されたエッセイ「長崎短歌散策」を一冊にまとめられた別冊をお送りいただきました。

記念号の巻頭には、50号に寄せられた高野公彦氏の〈海港〉という言葉にまつわるエッセイが再掲載されています。高野さんの美しい文章は何度触れても嬉しいものです。


「海港一〇〇号に寄せて」は3名の方のエッセイです。

お一人目は、「心の花」の馬場昭徳氏です。地方での会誌発行の苦労にも触れて下さり、長崎という地の、結社を越えた短歌の世界の繋がりの深さを感じずにはいられません。

 

そして、長崎支部がスタートであったわれらが有川知津子さんの思い出が綴られます。「私の歌の歩みはここ長崎支部から始まりました。歌のはじめに出合う環境、それによって人と歌との関わりは決定づけられていくのだろうと思います。」との一節から、幸せな出会いであったことが伝わり、歌を始めて間もない頃の、日見峠への吟行会と即詠歌会での貴重な体験が記されています。今は亡き、一瀬理氏とのあたたかなやりとりには、私の心にも一瀬さんの柔和な笑顔がよみがえって来ました。


3人目は支部長である立石千代女氏のご挨拶。前身の「瘤」「コスモスながさき」を引き継いで現在に至った支部報の伝統と特色、今後への熱い思いが綴られています。代々、特色を守ってこられながらも新しい取り組みに挑戦され、綿々と繋いで来られたチームワークの良さが伝わり、頭が下がります。


会員22名の作品を巻頭二十首詠からは二首を、自由詠、題詠からは一首ずつご紹介いたします。

   音楽散歩 江頭洋子

歌ふとは詩人に会ふことこんなにもぜいたくなとき神の賜物

短調より長調になりましたほら地に低く咲くクロッカスの黄

短歌と共に合唱をこよなく愛する江頭さんらしい一連です。歌う音楽の詩の心とも深く触れ合い喜びとする一首目。二首目は、春の訪れをやわらかな句跨りによって、そっと差し出すようなリズムが生まれました。


  「海港」の百号記念誌でるころは秋深まりて初紅葉かな 酒井恵子

猛暑に時期に詠まれた一連です。記念号と秋の到来の両方を心待ちにしています。


  夕暮れの山に虹出で台風の不安を忘れ見とれておりぬ 酒井澄代

台風が来る前の不安を抱え、窓の外を覗いたのでしょう。一刻の不安を取り去る、美しい景色が浮かびます。


  カラオケで唄へなかった「雪国」を湯船にひたり口遊みけり 島崎日曻

ごきぶり、蜘蛛、蜥蜴、藪蚊を、優しい視線で詠まれる島崎さん。カラオケでは歌いたいと言えないまま終ったのでしょう。だからといって湯船で熱唱するではなく「口遊む」から控えめなお人柄が伝わってきました。


  青き湖を思ひ描きてシャドーぬる老いてなほさら奥目となれり 福永邦子

認知症の不安も詠まれる一連。奥目となった瞼を「青き湖というユーモアと、おしゃれ心を忘れない福永さんはきっと大丈夫です。


  燃えるのに水曜日だと覚えたり〈ちゃんと燃えろよ〉燃えるゴミの日 松井竜也

息子さん(奏くん)の代打で久々の登場。漢字への閃きが楽しい一首。代打ではない再登場が待たれます。


  日が落ちてみかんの花のほのかなる香りにしばし立ち止まりたり 溝添和美

暗闇の中だからこそ研ぎ澄まされる嗅覚。読者の脳裏にも闇の中の白い小花が浮かび上がって来ます。


  椿の花の蜜を吸ふのか賑やかに百羽あまりの目白飛びつく 山内尚宗

呆けの不安と戦ってこられた二年間を詠まれます。その不安から抜けた喜びを託された一首と読みました。祝祭のような一場面です。


百四歳の父をことほぐ友の歌はらりと落ち来六十三号 山浦道子

 四三号から九九号まで並べて振り返る場面です。一冊一冊にその時々の思い出が甦り時間を遡る尊い時間であることが伝わります。


万両は落ちてしまへり赤き実は梅雨の雨にも打たれてゐしも 山本辰雄

 長く庭の景を明るく彩った万両の実を惜しむ心です。それでも雨の中に艶めく赤い実は残像として焼き付いていることでしょう。冬に向けて再生の時です。


  ぽつぽつと降る雨ほどの後悔がやがて地面を色濃く変える 岩丸幸子

 ふと思い出し、やがて広がってゆく後悔の念を、降り出す雨に喩えて秀逸な一首となりました。


  山ぼうし、うつぎ、くちなし咲く家に何も見ぬ夫ひとりで住まう 岡崎潤子

喜寿を迎えられた岡崎さんを病魔が襲います。長期入院治療をされるなか、庭に咲く花を思い、花に関心を持たず過ごしているであろう夫の一人暮らしへ心を寄せている切なさ。


  葬儀終え帰路のフェリーの曳く水脈のしりえに故郷遠ざかりゆく 垣野幸一

 ふるさと熊本に独り身で過ごされた姉の最後を看取るまでの一連です。有明海に長く伸びる水脈はお身内を亡くされて、ますます遠くなる故郷への思いのようです。


  満開の桜も時を選びたりわが退職を祝ふがごとく 草場里見

 ご自身の退職に合わせるように咲く桜に心の充実感を託し、未来の明るさを予感させてくれます。


  日毎夜毎くんちのために走り込み男衆のこゑ天へとひびく 久保美洋子

 くんちの準備の走り込みに余念のない男衆をいきいきと描写し、生まれ育った町にくんちが近づく盛り上がりを肌で感じていることが伝わります。


 ここからは100号を記念した題詠「祝」を詠まれています。

  祝言とふ言葉ふるびて挙式なく結婚、入籍はがき一枚 間由美子

 若者の結婚事情を汲みつつも、届いた葉書をさびしく眺めているのでしょう。タイパと節約を重視する世相を反映させた一首です。


  収穫を終へてくす玉割る秋の運動会を祝ふあをぞら 前田泰隆

 地域一体型の、農作業を終えて開催される運動会。盛り上がりを予感させるくす玉と青空と共に、歓声が聞こえて来るようです。


  祝日は年に九日だつたのにいま十六日 祝ふ人減る 安田博行

付随する休日も増えたのは、出掛けてお金を落とさせることに重心が置かれたのでしょうか。本来の祝い、感謝する日という意識が希薄になっていることを結句で突きつけています。


産土の社のあしたに響くなり祝詞の声と大太鼓の音 黒田邦子

くんちの始まりでしょうか。地元ならではの祭りの高揚感が伝わります。


祝福の言葉かけられ見送らる写真にのこる若きわれらの 佐藤英子

三句の切れにより、祝福の中の笑顔がクローズアップされます。そして結句の言い差しが、もう取り戻せない過ぎ去った日を思うさびしさを際立たせています。


戌の日に娘の帯祝のさらし巻く「きつうなかね」と母のせしごと 嶋田千代子

安産祈願の腹帯を娘に巻きながら、ご自身もそうしてもらった、母の姿と声を思い出しているのでしょう。長崎弁がやさしさく響きます。


  島原城築城四〇〇年祝し来るよくるくるブルーインパルス 立石千代女

大地震にも耐えた島原城の記念イベント。リフレインのなかの「くるくる」の平仮名がブルーインパルスにもかかり航空ショーの楽しさと喜びを伝えて、背景の青空までも浮かんでくるようです。


恒例の前号評、大会報告記、コラム、アンケートのほかに100号記念に全員参加のエッセイ〈私と「海港」〉、〈「百」を詠む〉など、充実した紙面を拝読しました。長崎支部そして海港のご発展とますますの充実は、みなさまの結束により、約束されたここと確信いたしました。本当におめでとうございます。



 長くなりましたので別冊は来週紹介させていただきます。まだまだじっくり読ませていただいています。



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    ゆふぐれの港あかるきひとところ波にひかりの粒子かがやく


Commented by 立石千代女 at 2024-11-29 21:23
「海港」100号記念号のご紹介ありがとうございます。有川さんのエッセイに触れるために今回は大野さんがお書きくださったのですね。今は亡き先輩諸氏を含めたさまざまな方々のお陰で100号まで辿り着くことができました。これからもできる限り号数を重ねていけたらなと思っています。
Commented by minaminouozafk at 2024-11-29 23:35
立石さま、コメントありがとうございます。
みなさまの熱量が伝わる記念号でした。E.
by minaminouozafk | 2024-11-29 08:30 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(2)