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全国大会栗木京子さんご講演  藤野早苗

 
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 先日のコスモス全国大会、やはりこれだけは書いておきたいと思うのが、栗木京子さんのご講演。本来なら2020年にお話しいただくはずだったのに、なかなか収束しないコロナ禍の影響で、3年持ち越し。ご多忙でいらっしゃるにもかかわらず、そのお約束を果たしてくださったこと、その誠実なお人柄に感銘を受けました。今年からコスモスの編集人となられたゆかりさんとは親しい間柄の栗木さん。ゆかりさんから、端正な外貌からは想像できない、ちょっとお茶目で可愛らしい内面の魅力のご紹介があり、会場がほんわか温まったところで、「栗キョン」栗木京子さんのご登場です。

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 ご講演タイトルは「現代を映し出す歌」。


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 栗木さんのご講演がペンディングになっていた間、世界は大きなうねりに巻き込まれていました。コロナ禍しかり、ウクライナ問題しかり。短歌はそんな諸問題にどう対峙したのか、短歌に何ができたのか……、栗木さんのお話にはそんなことを考えさせられました。でも、講演の冒頭で栗木さんは、「出来事をうたわないという考え方も価値観。なぜなら、自分では詠まなくても他者の歌はどうしても目に入ってくる。そうすると社会と無関係ではいられない。自分なりのレスポンスをしたい、社会を受けて返す、鏡やレンズ、反射板のような歌を詠みたいと思うとなかなか詠めないというのも一つの見識」ということもお話しになりました。無理矢理詠まなくていい、社会詠、時事詠が苦手な私には、その言葉がとても優しくて嬉しかったのでした。


 藤野の走り書きが煩わしくて申し訳ないのですが、資料のレジュメをご覧ください。栗木さんは「現代を映し出す歌」として、現代歌人協会編の『続コロナ禍歌集 2021年〜2022年』から作品を引いていらっしゃいます(①〜⑧)。

①は高野さんの作品。『続コロナ禍歌集』で読んだ時、名歌だなあと思いました。やはり下句の具体「神保町の飲屋〈酔の助〉」がいいですね。疫病の不穏に加え、結果的にそれがもたらした経済的困窮に叙情的に触れられた点を、栗木さんはご指摘されました。

②は影山さん。コロナといえばこの人的スポークスマンだった尾身さん。多くを喋らず、それゆえの信頼性があったこの人にコロナ禍を象徴させた点がいい。またオミクロン株登場時に「尾身さん」と何か関係が?と世間がざわついたこともご指摘され、会場を笑いの渦に巻き込まれた栗木さんでした。

④の島田作品。うまいですね。マコさんの婚約者(当時)コムロさんを「得体知れぬ」ウイルスにかけて「内親王の「彼」」と納めたところなどさすが巧者です。

⑦はゆかりさん。オンラインのメカニカルな有り様と現実世界の瑞々しさを象徴する桃の対比、しかもそれを「猛然と食む」ところに、現状へのやりきれなさが込められているようです。

⑧の澤村作品も、オンライン会議が一般化したことによる賜物的一首。「けふも」が面白い。これは「部長」を詠んだものですが、これが部下であったら許されるのか、という指摘もああ、そうだなあと考えさせられました。


 そして、「最近の歌集より」⑨〜19

 坂井修一さんの『塗中騒騒』より2首。AIとセクハラ。これもまさに現代を象徴するテーマですね。AIに作歌させる試みが話題になっています。でも恋とか死とかを体感できない存在にその切なさを詠めるのかという根本的な疑問の提示。そしてコンプライアンスに則れば稼働範囲が狭くなる文芸の現実、そんなものを掬った坂井作品のご紹介でした。

 吉川宏志さんの『雪の偶然』から2首。12は少々難解。背景にあるのは安倍晋三氏と統一教会問題。連作を読めば理解できるが1首のみでは理解が及びにくい。けれど自身の関与を否定するその無責任な態度を数年前、一世風靡したチワワのくーちゃんの無垢さに重ねる策の鮮やかさ。くーちゃんは可愛いけど、アベさんはねえ……と、読者は思わず突っ込んでしまう。首相まで務めた人間を小型犬(可愛いですけどね)に喩える手腕もさすがです。

 戦争をテーマに、最新作川野里子さんの『ウォーターリリー』と昭和33年刊行の尾崎佐永子さんの『サルビア街』から「リボン」を詠んだ作品をご紹介。リボンのかわいらしさを順直に詠んで、結句で衝撃を与える川野作品。戦時下におけるリボンの無用性に触れた尾崎作品。「長き」に訴求力がある。ひらひらは平和の象徴なのかも知れませんというご指摘、深く首肯いたしました。

 16は山木礼子さんの育児の歌。「眠らせ」ではなく「溶かし」である点に注目。男女共同と叫ばれながら、実際の家事育児負担は圧倒的に女性。。結句「報われたいな」からはそうした現実に絶望する女性の声が聞こえてきます。

 18の田村穂隆さんの作品からは虐待の連鎖を、19からはLGBTQ問題を感じる。こうした問題を社会でいかに支援するのか、それを短歌作品を通して問いかけているようです。


 最後に、よりリアルタイムに社会を映す「最近の読売歌壇の入選歌より」AE.

 この5首には現代日本の最先端や問題が浮き彫りにされている。まさしく世相を映す鏡。短歌には短いからこそこうした力が宿ることをあらためて確認できた歌群。


 以上、駆け足で申し訳ありませんが、栗木さんのご講演から感じたことをまさに「走り書き」でまとめてしまいました。本当は明るくて、笑いに満ちた1時間余りだったのです。その後、栗木さんはグループ歌会にもご参加くださり、懇親会にもご出席。コスモス会員、大喜びの1日となりました。


 栗木京子さん、ありがとうございました。このような素敵な企画をしてくださった全国大会事務局のみなさまに心より感謝申し上げます。




   漕ぎいでな現代短歌漕ぎいでな 栗木氏語れば会場のめる

 


by minaminouozafk | 2023-10-17 09:12 | 歌会・大会覚書 | Comments(0)