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いもちゃんとの一週間  栗山由利

 定期購入で届く「むかし野菜の邑」の野菜は、なんと言っても野菜本来の香りと力強い食感がある。人参の皮をピーラーで薄く剝くとき(「えっ、剝くの!」と言われたこともありますが(-_-;))、瞬時にあの香りが鼻にとどきいちばんわかりやすい野菜だと思う。この農園で最も力を入れているのが土づくりで、昔ながらの健康な土は虫にも棲みやすいのだろうムシャムシャと虫食い痕のある野菜は当たり前だ。


 前回届いた中にあった白菜も、ご多分に漏れずやわらかい葉先にまあるい穴が開いており、葉を剝いでいくと案の定、冷蔵庫が寒かったのかくるっと丸くなった青虫が一匹出てきた。こんな時、いつもはその部分をちぎって青虫を乗せてやり、「頑張れるだけ頑張ってね」と庭の南天の葉陰に置いておくのだが、今回は夫とも意見が合って育ててみようかということになった。


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 このブログ月曜担当のななみさんのおかげで、少しは虫もかわいいところもあるかなと思えるようになったが、やはりひょろ長いものはまだ苦手である。でもまあ、2センチ足らずだし色もきれいだしということで、パック容器に入れて台所の窓辺で育てることにした。

 青虫の観察など生まれてこの方初めてのことで、驚かされることの連続である。日のあるうちは葉の裏に潜んでいて、夜中にバリバリと白菜を食べている。その量たるや身体の大きさから換算すると人間なら優に6畳一間は食べている。夫は起きてくるとまず、台所を覗いて青虫の様子を写真に撮りFacebookにあげる。何人かの人はモンシロチョウではないかと言ってくれたが、親しい友人で昆虫には大変詳しく、ご自身も何度も羽化させた経験がある方からは「概ね推定はしていますが、伏せておきましょう」というコメントが届いた。


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<一日でこの色に>


 翌朝には緑色が薄くなり、身体に一気に模様が浮かんできた。三日目はさらに色濃くなり四日目は旺盛な食欲のせいか丸々と太くなって体長も3センチは越えていそうだ。ただ、色からしてどうもこれは蝶ではなくて蛾なのだろうというところに落ち着いた。ここまでくると蝶でも蛾でもどっちでもいい、名前も「いもちゃん」として蛹になったら広めの容器に移さないといけないねと話していた。五日目、模様も一段とはっきりして体調も4センチ、順調に育っていると思っていたその晩、突然動きがなくなった。翌朝の六日目も昨夜の場所で同じ格好で動かない。件の友人に尋ねると蛹になるのに3,4日かかるのでしばらく様子を見ておいてという返事をいただいたのでじっと待つことにした。


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<いちばん元気だったころ>


 だが、その日も七日目もなんの変化もなく、動かなくなった時のまま身体の先端がすこし溶けてきているようにも見えた。気になって何度も覗いてみるのだが、昆虫に詳しくない私たちでも状況は悪くなっているとしか言えなかった。もうこれ以上は無理だ、死んでしまったと判断した。ちょうどその日はゴミ出しの日。だが夫もゴミに出そうとは言わなかった。


 翌日の朝、前の日に届いたばかりのやわらかいキャベツの葉にくるんで、庭の片隅に埋めてあげた。こんどうちに来るときは猫になっておいでねという言葉を添えたことは言うまでもない。台所に立つといもちゃんがいた窓辺に目がいってしまう。


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    雑草といふ草はなく芋虫といふ虫はいない おなじ息する


Commented by minaminouozafk at 2023-05-28 09:26
いもちゃんは残念でしたが、美しい野菜=虫も食わない野菜だと思う時、怖くなりますね。
ブロッコリーの中に隠れている青虫を探していた昔が懐かしい。E.
by minaminouozafk | 2023-05-27 12:08 | Comments(1)