2020年 08月 26日
蟷螂と蟻と人間と 有川知津子
もう先月のことだ。
朝の葉っぱの上で、蟷螂と蟻が闘っていた。蟷螂は小さく、蟻は大きかった。蟷螂は一匹で、蟻は三匹の小隊であった。
蟷螂が小さいといっても、蟷螂は蟷螂。
蟻が大きいといっても、蟻は蟻。
一匹と三匹が闘う様子をしばらく見ていた。それは双方ともに溜息がもれるほど勇敢であった。この勇者たちに、ぜひ、今の気持ちを伝えたい。そんなつもりで顔を近づけたところ、なんと一匹と三匹の闘いはあっけなく終わってしまった。
今や敵は、お互い同士ではなく、目の前にぬっと現われたこのへんてこな人間になってしまったのだ。けれども四匹がかりで立ち向かっても、なんとかなりそうな大きさではない。
決断は早かった。四匹は、人間が顔を近づけてきたのとは反対方向に駆けだした。この一枚は、そのとき人間があわてて撮ったものである。

ゆくりなくママと呼ばれてゐたりけり駆けてきた子に指をとられて