2018年 11月 15日
舟越保武 鈴木千登世
去年の夏、仕事で仙台を訪れた時に泊まったホテルで、美しいブロンズの彫刻を見た。
清楚で静謐な少女の像の作者は舟越保武。長崎の26殉教者記念像の作者である。
舟越は文筆の方にもその才能を発揮して、エッセイにも定評がある。『巨岩と花びら』『石の音、石の影』という画文集を出版していて、『巨岩と花びら』は日本エッセイストクラブ賞を受賞している。幼い息子の死を描いた「水仙の花」(『石の音、石の影』所収)は高校の教科書にも載せられていた。
『巨岩と花びら』に「一枚の葉」という作品がある。15歳の夏の終わりに簗川の橋のところで見た一枚の葉にまつわる話である。
このとき私は、眼の前のこの一枚の葉を生涯忘れまいと、なぜか心に誓った。たった一枚の葉を心に焼きつけておこうと決心した。~中略~
私が大人になり、老人になってからも決して忘れまい。いま眼の前にあるこの一枚の葉を、色も形も、葉脈に当たっている夕陽の陰影も、このまま私の中に焼き付けておこう。 「一枚の葉」
ホテルで舟越の彫刻を見たときに、幼い娘と息子の背中を思い出した。
お子様の小さな背中、切ないです。S.