2018年 11月 12日
山苞 百留ななみ
気持ちのいい秋空が続く。
その空気をたっぷりと浴びるための小さな旅。
一昨年の九州北部豪雨で添田から日田まで通行不能となった日田彦山線に乗車。柿や烏瓜のオレンジを車窓からみた記憶がある。採銅所の名前の駅も覚えている。今回は添田からは代行バス。
うとうとしていたら添田に到着。リュックを背負った元気なシニアの後を追って代行バス乗り場へ。ちょっと遅れた私たちに運転手さんは「満席です。タクシーを呼ぶから待っててください。あまりに来なかったら電話してください。」と言い残しバスを発車させた。
取り残されたわれわれと若い女の子。10分、15分・・・
なんとなく世間話を交わすうちに、どちらからと尋ねてみた。彼女は「下関からです。」下関のどこ?「長府です」なんと隣の隣の町内で、長男と次男のあいだの学年の28歳。びっくりの不思議なご縁がうれしい。なんだが置いてきぼりにも感謝。なつかしい共通の話題に盛り上がっていると30分以上経過。
まだタクシーは来ない。駅は無人駅だし人影もない。日田駅やバス会社に電話するのだが、「すみません、いま向かっているようです」の繰り返し。50分後の代行バス(このバスは英彦山行き)の運転手さんにお願いして地元のタクシーを呼んでもらった。
ときどきあることのようで、日田までの切符を渡すだけで約1時間かけてタクシーで日田駅前に到着。フルート奏者でもある彼女ともゆっくり話ができた。タクシーの運転手さんからは生々しい豪雨の話も。まだブルーシートのかけられた家屋、河川工事。片側交互通行もある。九州北部豪雨の復興はまだ半ばで運転再開の目標時期も示されてなく、復旧工事が始まる目処もたっていない。はじめての代行バスのハプニング。目的のない旅だからある意味楽しかったとも思えるが、通学・通勤・通院、スマホのないお年寄りなどは大変だと思う。当分の間となっている代行バスはいつまで続くのだろうか。
せっかくの日田なのでいつもの味噌などを買い、ちょっと散策。高山も日田も天領の味噌はおいしい。お昼は久大線に乗り継いで田主丸での予定。久大本線も九州北部豪雨で花月川の橋が流されてこの夏に全線再開になったばかりの路線だ。耳納連山を左手に筑後川を右手に久大本線はのんびりと筑後平野を走る。
山から湧き出る水は田畑や果樹をうるおしながら巨瀬川に、そして筑後川へと流れ込む。ゆたかな水と陽の田主丸。河童伝説も多い。日本三大植木の産地のひとつ。葡萄に柿など果物もおいしい。
稲刈りが終わった田んぼを眺めつつ耳納山地の麓へむかう。
山苞の道をあるく。山苞とは源氏物語に「山苞にもたせ給へりし紅葉」とあるように山のお土産。山麓のうつくしい自然のなか、果樹園や工房、ギャラリーなどが点在する道。駐車場に車はあるし車は走っているが、歩いている人はまばら。いろいろ覗きつつ小一時間で巨峰ワイナリーに到着。木漏れ日が気持いい。
とりあえずお腹ぺこぺこなのでランチにする。
1972年創業の田主丸の森のなかのワイナリー。石造りの建物が続く。
その奥のHEURIGE(ホイリゲ)がレストラン。歩いてきたし、せっかくのワイナリーだからとワインをいただく。巨峰葡萄酒がメインだが、たくさんの種類の果物のワインがある。ブルーベリー、あまおう、柿・・・のなか、目に止まったのは田主丸町産の山葡萄のワイン「山苞の雫」。迷ったがボトルでオーダー。
やさしい赤紫色ですっきりしている。ほのかな甘さ。さわやかな野趣を感じる香り。しあわせな時間。
メインの牛肉のブルーベリーワインソース煮のころはほろ酔い気分。
木の温もりの店内。大きなガラス窓のカウンター席は絶景。高台にあるので眼下に筑後平野がひろがる。とおく久大本線の赤い列車が、その向こうに大分道が。ゆったりと時間がながれる。
二人で「山苞の雫」ボトルでおいしくいただきました。
石造りの地下の貯蔵庫は日本ではないような不思議な気分。
残念ながらタイムリミット。お土産のワインを手に帰途についた。
古墳、果樹園、ガーデン、ギャラリー・・・ほとんど廻れなかった。今度は車で来よう。
被災地の公孫樹の黄金をながめゆく日田彦山線の代行タクシー