2018年 08月 07日
をかしの御髪 藤野早苗
一人二人三人の恋人 四人五人みんなさよなら 白髪になつたよ
宮原望子『文身』(平成14)
宮原さんは鹿児島県伊佐市大口(旧大口市)の歌人。知的で洒脱で、ユーモラスな作風が持ち味。文章も素晴らしく、『おばさんの茂吉論』は数ある斎藤茂吉研究書の中でも特にオリジナリティにおいては出色の一冊である。
宮原さんに初めてお会いしてからもう20年近くなるだろうか。福岡市短歌大会の講師としていらしていただいたのが最初だったと思う。上質な、仕立ての良いスーツを着こなし、気さくに話しかけて下さる宮原さん。ちょうど母くらいのご年齢なのだが、話題は新鮮で、反応が早い。あまりに面白いのでつい話し込んでしまい、そのままご縁は現在に至っている。
宮原さんは美しいシルバーヘアーである。好奇心に耀く瞳とつるんとした肌、超高速回転する切れ味鋭い脳……、そういった属性からすればある種の違和感は否めない宮原さんの白い御髪。宮原さんの場合、髪さえ黒く染めれば実年齢よりも20歳は若く見えたのではないかと思う。でも宮原さんはそうしなかった。理由は今も聞いていない。
冒頭の一首、宮原節炸裂感横溢。宮原さん、もてたんだなあ。でも宮原さんはそんなうらやましい状況を自ら手放す。白髪になることで。髪は女の命、とか、黒髪には情念が宿るとか、とかく髪、とくに黒髪は重い。そんな重たいものをさっさと脱ぎ捨て「みんなさよなら」とかろやかに手を振る宮原さん。かっこいい。
現在、私の髪は八割が白髪。なんとなく惰性で染め続けていたのだが、三カ月前に、どうやらジアミンのアレルギーになったらしく、基本髪染めはできなくなった。今のところ着色効果のあるトリートメント剤で白髪対策をしているのだが、これをすると、今度は縮毛矯正ができない(実は天パなんです)。髪の毛については悩みが多いのだ。うーむ、こうなったら宮原さん方式でいくべきか。世は今グレイヘアブームとも聞く。しかし私がグレイヘアにすると怖いばあさんにならないか……。ほんとに「みんなさよなら」いや、「みんな」に「さよなら」言われてしまわないか……。
アラ還の悩みは深いのである。
八月の鋼のごとき陽を反す強霜置けるをかしの御髪


福士りか『サント・ネージュ』
りかさんも、コンタクトレンズをやめ、髪を染めるのをやめたそうです。アンチアンチエイジングだそう。年齢に逆らうのをやめたのだとか。
人間、思い切りなんですよね。還暦過ぎても思い切れない私。早苗さん、がんば。E.