川野里子歌集『硝子の島』  藤野早苗

第四火曜日。

マイルールで、この日は歌集紹介をすることにしている。(今年からね。)

で、今回は、川野里子氏の第五歌集『硝子の島』。


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五章からなるこの歌集には、ヴェネチアで知った東日本大震災とその後の原発禍、そうした出来事を日本の外側から見つめることで終末へと歩を進めるこの国への危機感が浮き彫りになっている。

また、老いてゆく母との、埋めようのない心理的な距離感が随所に詠まれていて、高齢社会日本に生きるかなしみが胸に迫る。

この記事で作品を紹介したいところだが、この歌集、「水城」270号に評を書かせていただきたいので、詳しくはそちらをご覧下さると幸いである。


今日のところは、次の一首をご紹介。


・罌粟咲くかまた罌粟咲くか罌粟咲きてなぜふるへるかなぜうつむくか


この作品、いかがだろうか。

どういう印象、読後感を持たれただろう。

私は怖かった。

罌粟の花のことしか言ってないのに、世界が終わるような虚無感に襲われ、たましいが逆撫でされているような感じがした。

罌粟は異名阿片草。可憐な姿とミスマッチな不穏さを湛える花。それが次々に開き、そして震え、うつむいているという。まるで開いてはいけないものを開いてしまった罪におびえるかのように。


素材とリズム。

内容の具体は一切告げず、世界の危うさをそれのみに伝える一首。時事を常に自身に内在させ、咀嚼して作品化するからこそ可能になる抽象化。「ふるへる」「うつむく」という下句の動詞が、観念に流れるのを救っている。

ただ一首を紹介するだけで、この歌集の充実ぶりが想像できるだろう。圧巻の一冊であった。



  ぬるま湯に首まで浸かりぬるいねと従順にして言ひあへるのみ



*二月の歌集・歌書紹介(『いただいた句』本阿弥秀雄著)の記事を俳句雑誌「春月」五月号で紹介いただきました。御本、ご恵送下さいました戸恒東人さま、ありがとうございました。大変うれしく拝読いたしました。

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Commented by minaminouozafk at 2018-04-24 19:11
作者の描写する力と読者の把握する力を感じます。
凄い!ますます「水城」が楽しみになりますね。E.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-24 21:47
第四火曜日、早苗さんの案内で未知の歌集と出会える楽しみをありがとうございます。ぜひ読みたい一冊です。
「水城」の評論、待ち遠しい。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-25 07:05
早苗さんの読みによって川野作品の魅力が伝わります。罌粟の歌に立ち止まってしまいました。ぬるま湯の歌どきりとしました。Cs
Commented by minaminouozafk at 2018-04-25 08:11
早苗さんに読みといていただかなければ、私には到底読み取ることが難しい一首でした。ありがとうございました。水城を楽しみにしています。Y.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-25 09:33
ありがとうございます。罌粟の咲くころです。薄い花びらが揺れるたびにドキドキしそうです。ぬるま湯、首より上にならないように気をつけます。 N.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-26 19:00
早苗さんの読みがなければ私など読み飛ばしかねないところです。罌粟の花がそろそろ咲き始める時期ですね、水城270号を楽しみにしています。A
Commented by sacfa2018 at 2018-04-27 01:11
やっと歌集評、書きました。これから見直し。老眼が進んだ私。見落としが沢山あったら、ごめんなさい。S.
by minaminouozafk | 2018-04-24 02:23 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(7)