木畑紀子著「戦後の歌集を読む」(柊書房)  大野英子

著者の木畑さんは「ささやかな読書ノート」と表現されるが、結社内同人誌「棧橋」、終刊後は継続誌「灯船」に全24回に渡って連載された歌人論。
戦前、戦後の歌人の歌をアンソロジー的に抜粋されたものは多いが、木畑さんはそれぞれキーポイントになる歌集に焦点を当て、時代背景から作者の短歌論まで丁寧に解説されている。
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                この一冊に相応しいノスタルジックでシンプルな装丁

第一回は〈「時間」の写生〉と題する佐藤佐太郎。
宮柊二とほぼ同年代。
茂吉に師事し、アララギ派の写実主義を受け継ぎながらも茂吉より自立。戦後という「貧」の時代に自ら短歌至上の貧の生活を選んだ佐太郎。
なぜ「貧」が必要だったのか。「純粋短歌論」と、この論に裏打ちされ、歌風が確立したとされる第五歌集『帰潮』から短歌と向き合う姿勢を探る。
純粋短歌論の中の言葉「断片」と「瞬間」をキーワードにして作品を読み解き、戦後の歌壇の動きとの比較も、佐太郎の歌人としての個を明確に立ち上げる。

佐太郎を論じた上での第二回は宮柊二という流れも必然である。
『現代短歌大系』において山本太郎が『晩夏』に柊二の屈折点を見出し、「宮柊二の歌にはじめて興味深い乱調が、いやおうなく出現した事実」を捉えたことに焦点を当て、制作時期の重なる佐太郎の『帰潮』と比較しながら「乱調」の謎を解き明かしてゆく。
私にとっても、謎が多いと感じていた作品の丁寧な解説と柊二の心情の汲み取り方が温かくも深い。
そして〈「自然在」なる歌はあらず〉と題された論にたどり着く木畑さんの歌人としての覚悟が伝わる。

第三回は白秋門下の歌人としての活躍をした木俣修の『冬暦』
敗戦という闇のなか「白秋の形骸的模倣歌」を作ることの戒めを掲げながらも白秋と通底する人間に向ける眼差しの温かさを見出してゆく。

もう少し紹介すると、語られることの少なかった山崎方代は〈仲間と裡なる故郷〉とする方代を支えた岡部桂一郎の作品との比較。
木畑さんは第五歌集『冬暁』のなかで〈鍬を手に野良よりもどる左右口の媼は方代の母にあらずや〉と方代の故郷を訪ねた一連があった。もしかしてこの論を書くにあたっての取材だったのかも。

塚本邦雄〈イエスと短歌への愛憎〉では洗礼を受けた木畑さんらしい塚本の現代短歌への愛と「イエス」への愛を考察しながらも塚本を「諧謔に満ちた明るく饒舌な大阪人ではないかとも思う」と書かれるのも上方喜劇の藤山寛美好きの木畑さんらしさかも。

最後24回は〈父たちの悔しみを継ぐ〉小高賢、桑原正紀のそれぞれ第一歌集。
宮柊二を敬愛し、戦後を引き摺るように詠まれた二人の歌集を問い直す作業は最終稿に相応しいものであった。

このようにどこを読んでも、丁寧で深い愛に満ちており、あとがきに「図書館通いがはじまりました」と記されるように、膨大な資料を読まれたことが伝わり、頭が下がる。そしてその成果のおいしい所だけ鑑賞させていただける喜びに浸っている。改めて木畑さんに感謝。

   
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              裏表紙の小さなサインも木畑さんらしくて素敵

      あたたかなまなざしのなかに浸りゐる読書時間に春の風吹く



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Commented by sacfa2018 at 2018-04-20 22:26
木畑さんの評論集、ご紹介ありがとうございます。私は今、読んでいるところ。どの章から読んでも面白く、深い。どれほど学べばこんな評論が書けるのか、呆然とさせられます。ただただ、すごい。S.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-20 23:44
一冊になるのを待っていました。学ぶことが多く、立ち止まったり戻ったりしながら読んでいます。
英子さんのご紹介、うれしい。ありがとうございます。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-21 01:46
連載の時には気付かなかったもの、見落としていたものが、全て繋がった思いに読み、また読み返しています。
今だからこそ一人でも多くの方に読んでほしい一冊です。伝え切れなくて申し訳ないです。E.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-21 07:51
ありがとうございます。歌集をしっかり読むことの大切さを改めて感じています。気になる章からじっくり読ませていただきます。本当に装丁も素敵な一冊です。 N.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-21 09:37
歌を作ることが精一杯の私は歌集を読むことの大切さを言われながらも、なかなか実行に移せないでいます。まずはこの本をしっかり読みたいと思います。Y.
Commented by minaminouozafk at 2018-04-21 10:20
英子さんのご紹介が的確でさらなる魅力を感じました。一気に読むのではなく、しっかり立ち止まりながら読まねばと思っています。歌にも評論にも触れ得ること幸せです。今日の山口歌会も楽しみです。Cs
Commented by minaminouozafk at 2018-04-21 14:57
このところ落ち着いて本を読むことができず、拾い読みをしただけですが、読んだことがないも歌集多く勉強不足を痛感しました。英子さんの的確なご紹介、ありがとうございます。A
by minaminouozafk | 2018-04-20 07:02 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(7)