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樽のディオゲネス「高田渡」  藤野早苗

3月10日(土)のイベント。


「孤独のグルメ」が「クッキングパパ」に会いにきた!

久住昌之・うえやまとちトーク&ライブ@Chez Papa(福津市中央6-8-5)

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うえやまとちさんは、夫の高校の同級生。今は仕事&遊び仲間。いかつい(失礼)外見ながら実はホスピタリティ溢れる、優しいお人柄。料理はもちろん、歌とギターも上手で、最近はユニットを組んであちこちで演奏していらっしゃる。今回もその流れ。今や「孤独のグルメ」で時の人となった久住さんも実はミュージシャン。「孤独……」のBGMもすべて、ご自身で手掛けられているそうで、その回のお店の雰囲気にあった曲を用意するのだとか。なるほどなあ。BGMが自然過ぎて気が付かなかったのはそういう訳だったのか。納得。でも次回見るときには、音楽がすごく気になってしまいそう。それもまた楽しみだけど。


今回のライブは3部構成。

まず、とちさん親子共演ユニット「みとちお」登場。

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右から
うえやまとちさん、息子さん、おかべはちろうさん



そして、久住さんととちさんの、「グルメ繋がりのはずなのにあまりグルメ関連のトークをしないトークショウ」。番組制作の舞台裏や、若き日のあれこれを語り合っていただいた楽しい時間であった。

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とちさんと久住昌之さん(左)



最後は久住さん率いる「QUSDAMA」(くすだま)によるオリジナル曲演奏。久住さんの突き抜けた、パワーと笑いに満ちたステージを堪能。久住さん、天才。

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突き抜けている久住氏
私のお気に入りは名曲「落ち武者」



でも、今回心に残ったのは「みとちお」が演奏した「生活の柄」。

「生活の柄」は沖縄の詩人、山之口貘の代表作。それにフォークシンガーの高田渡が曲をつけた。伝説の名曲である。

その中にこんな歌詞がある。


近ごろは眠れない

陸をひいては眠れない

夜空の下では眠れない

ゆり起こされては眠れない


歩き疲れては

草に埋もれて寝たのです

歩き疲れ寝たのですが

眠れないのです

そんな僕の生活の柄が

夏向きなのでしょうか

寝たかと思うと寝たかと思うと

またも冷気にからかわれて

秋は秋からは

浮浪者のままでは眠れない



私はフォーク世代ではない。リアルタイムでこの曲を聴いた記憶はない。もう17年くらい前になるだろうか、夫が仕事で高田渡さんの担当になった時期があり、CDを持ち帰ってきたので、それを何気なく聞いていたらこの楽曲に出会った。不思議な曲だった。素朴な歌詞に素朴なメロディー。かなり切迫した暮らしの状態であるようなのに、どこか飄々と、自在感さえ漂っている。幸も不幸も紙一重。見方を変えれば不幸もまた幸。なんだか哲学的な歌だな……。そんな印象の作品だった。


その直後だったと思う。どういう経緯であったのかは忘れてしまったが、渡さんが島原でライブをやることになり、夫となぜか私と当時3歳の娘まで随行することになった。現地に着いてからは、夫とは別行動。3歳の娘を連れてライブに行けるはずはなく、渡さんの生演奏は聴けず終いだった。

しかし、ライブ翌朝、仕事の日程を終えた夫が渡さんに挨拶に伺った折、私も日頃のお礼を申し述べに同行。さぞかし御酒を召したのであろう。渡さんは少々よろつきながら小さく手を挙げて、「おっ」とおっしゃった。


「ディオゲネス!」(心の声)


渡さんはまるで古代ギリシアの哲学者「樽のディオゲネス」のようだった。

「徳」を人生の目的とし、欲望から解放されて自足すること、動じない心を持つことを重んじた犬儒派の哲学者。自らをコスモポリタンと称し、史上初めてコスモポリタニズムという言葉を作った人物。プラトンが「人間とは二本足で羽根のない動物である」と定義すれば、羽根をむしった鶏を持ってきて「これがプラトンの言うところの人間だ」と言ってのける皮肉屋。

一瞬の邂逅であったが、伝説のフォークシンガー高田渡は「樽のディオゲネス」として心に深く刻まれたのであった。


その4年後、高田渡逝去。

享年を知らず仕舞いであったのだが、今回、「みとちお」の演奏を聴きながら、夫が「渡さん56で亡くなったんだよな。」と呟いているのを聞いて驚いた。少なくとも70代かなという印象だった渡さんが、あの時50そこそこだったとは。今の私より若いではないか。ディオゲネスより生きてしまっている。まずい。


人生は何事か成すには短すぎる。

うえやま親子の歌を聴きながら、己のグダグダ人生を深く反省してしまったのだった。



演奏の(あひ)ハイボールギタ


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高田渡氏。
画像、お借りしています。




Commented by minaminouozafk at 2018-03-13 19:19
多才なお二人、とても楽しいトークショー&ライブだったことが伝わります。
ディオゲネスは早苗さんらしい発想。でも判るような気がします。良いお話をありがとう。E.
Commented by minaminouozafk at 2018-03-13 22:17
楽しまれましたね~。
「樽のディオゲネス」の「おっ」と手をあげた姿、目に浮かぶようです。「生活の柄」(伝説の名曲)も聴いてみたくなりました。
なかなか覗く機会のない世界をありがとうございます。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2018-03-14 00:39
漠さんの詩に曲がついてたこと初めて知りました。聴いてみたい。久住氏の「落ち武者」も気になります。良い時間を過ごされましたね。「樽のディオゲネス」高田氏の人柄が浮かんできます。Cs
Commented by minaminouozafk at 2018-03-14 06:16
高田渡さん、父が大好きです。そんなに亡くなられたのお若かったのですね。なぜか遠藤さんのカレーライスの歌を思い出しました。なつかしい。 N.
Commented by minaminouozafk at 2018-03-14 09:33
素敵な会ですね、早苗さんの記事で、初めての世界を何度も見せて頂き楽しんでいます。高田渡さんのお写真を見ると、樽のディオゲネスのイメージがよく分かりました。その発想はやはり早苗さんならでは、ですね。A
Commented by minaminouozafk at 2018-03-14 09:50
楽しい会なのですが、夫の付き添い的な感じで、私が当日の様子をFBにアップして、それを夫がシェアで拡散するための実働要員という位置付けです。福津の会場近くの福間中学校は、「孤独のグルメ」主演の松重豊さんの出身校です。久住さんと福津、ご縁ができて良かったです。
渡さんの思い出はほんの数秒のものなのですが、あの瞬間は鮮やかです。不思議な記憶。いつかもう一度お会いしたいと思っていたのですが、残念です。カレーライスのエンケンさんと渡さんはお友達です。S
by minaminouozafk | 2018-03-13 02:39 | Comments(6)