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くしゃみ  鈴木千登世

先週の土曜日のこと。朝からくしゃみがとまらない。

山ももわっと霞んで見える。


氷点下6度まで冷えた今年の冬。いつもの年より寒さが厳しく春が遠く思われたけれど、ここ数日で一気に温かくなった。

すると間髪入れず目や鼻がむずむずして、くしゃみが続く。

土曜日から急に症状が出たと職場も花粉症や黄砂の話題で持ちきりである。

……花粉と黄砂の季となった。



ところで

矢野京子さんの歌集『涯の空』に黄砂を詠んだ歌がある。


冷蔵庫に卵睡りて昼ふかし視界十メートル暗く霾(つちふ)る

白粥の眩しさ黄土大陸より運ばるる砂窓おほふ日に

車駆る子とわれの小さき空間を残して黄砂野山を覆ふ    『涯の空』 


「霾(つちふ)る」と言う言葉をこの歌で初めて知った。

「大風がまきあげて降らす土ぼこりが、あたりをうずめるの意を表す。」(『廣漢和辞典』)という。

「黄砂」は舞い上がり霞むイメージだけれど「つちふる」は砂が音もなく降り積もるさまが見えるようだ。冷蔵庫に睡る卵と暗く砂の降る昼。閉ざされた空間にかすか漂う不安といったらいいだろうか。独特の詩的雰囲気に強く惹かれる。


さて、今日から3月。昨夜からの雨風が続いて外はまだ風が強いけれど、春は着実に近づいているようだ。

くしゃみ  鈴木千登世_f0371014_03562889.jpg


口呼吸すればざらめく感じあり無人駅舎に砂の降る昼


Commented by minaminouozafk at 2018-03-01 22:47
霾る、いい言葉ですね。詠んでみたくなります。矢野京子さんのお歌については、英子さんの鑑賞が詳しいですよね。福岡の素晴らしい先達です。やはり描写が巧み。勉強、勉強。ちーさま、ありがとうございます。S.
Commented by minaminouozafk at 2018-03-01 23:43
『涯の空』のご紹介、うれしい。「霾る」という言葉をきくと、それは自分の内側で降っているような感じを思ってしまいます。今日は目がかゆかゆになりそうな、あやしい日でした。花の鉢、はなやかです。ありがとうございます。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2018-03-02 00:12
矢野作品は三首とも対比が効いた作品で改めてほれぼれします。「霾る」黄砂が降る度思い出す言葉です。
ちーさまに辛い季節がやって来ますね。
私も以前酷かったのですが、漢方薬を飲み続け体質改善したみたいです。E.
Commented by minaminouozafk at 2018-03-02 07:32
「霾る」はじめて知りました。大風が吹いて土埃が辺りを埋める、まさに今のお天気です。目も鼻も鬱陶しい季節ですが、なんだか嬉しくなってきました。つちふる、つちふる、唱えながら出かけます。 N.
Commented by minaminouozafk at 2018-03-02 11:54
霾る、砂漠の匂いのする言葉。黄砂は中国の砂が飛来すると聞き、どこかロマンチックな感じでとらえていましたが、くしゃみの原因とあっては。矢野京子さんの歌の、捉えどころない不安の表現は絶妙ですね。A
Commented by minaminouozafk at 2018-03-03 06:47
矢野京子さんの歌本当に素晴らしくて、繰り返詠んで学びたいです。英子さんの「自照するまなざし」の評論こちらも素晴らしいです。つちふる、つちふる…良い言葉に出会うと幸せです(くしゃみがでても)。「自分の内側で降る」「砂漠の匂い」のイメージも素敵。ありがとうございました。Cs
by minaminouozafk | 2018-03-01 04:07 | Comments(6)