娘とわたしの4年間  藤野早苗

2月2日に帰省した娘が2月9日に上京した。ちょうど1週間の滞在。その間、映画を見たり、行きつけのレストランで食事をしたり、太宰府にお参りしたり、と帰省時のルーティンワークを恙なくこなし、楽しい時間をともに過ごしたのだった。

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わたしの顔、デカい。涙…



娘が通う大学はTUS。東京の私立理系総合大学である。大学受験日程の関係で春休みは2月、3月の2ヵ月あるはずなのだが、後期試験の再試にかかる可能性も無きにしも非ず…ということで上記1週間の日程でしか帰省できなかったのである。


今の時代、試験結果はスマホに送られてくるらしい。毎朝緊張の面持ちでスマホチェックをする娘。試験の前日には私の元に必ず辛そうなメールが届いていたのだが、結局、後期試験に関しては、専門はオールS。評定値としては最高であった。


知る人ぞ知るであるが、TUSは「一留大学」。単位取得が難しく、留年は当たり前。就職面接で、4年で卒業したら「優秀」と言われ、一留であっても別段その理由を問われることもないという。1年時からゴリゴリ専門科目を学ばせ、学習意欲のない学生は容赦なく落とす。前期5~7月、そんな雰囲気についていけず、ずいぶん悩んだ娘であった(関係者各位、その節はいろいろお世話になりました)がしかし、その後、友人に恵まれ、院生室や、教授の研究室に出入りするようになってから大学の空気にも馴染み、毎日が楽しくなっていったようである。


娘が現在、日々を過ごしているのは「地下食堂」というコミュニティ。学年や学部学科、所属サークルの枠を越えて、なんだか気が合う人間がゆるくユナイトしている感じで、娘には居心地がいいらしい。毎朝1コマ目から講義に出席し、講義が終わってからは22時過ぎまで地下食で専門の数学を解いたり、ルービックキューブをカシャつかせたりして過ごす。専攻数学、趣味数学という状況が私には理解不能なのだが、これが娘の理想的なキャンパスライフらしい。眠る時間以外の時間は大学にいることになる。


…不思議だ。


4年前、娘は学校が大嫌いだった。中3の1月、高校受験を目前に不登校になり、高校にも行きたくないと言って、本当に受験しなかった。先行きの見えない日々に心が折れそうになったが、娘の「数学を勉強したい」という気持ちが私たち家族の支えになった。予備校、高認、イギリス留学…。元々がオールラウンダーではない娘。数学と英語で受験できるTUSを選んで楽しみながら受験し、合格。一般的な経路ではなかったが、数学のスペシャリストという夢に向かって一歩を踏み出したのだった。


この4年間を振り返って思うこと。それは、娘は学校に、高校に行かないという選択をしたのだということ。つまり学校以外の場での学びを選んだのだ。この間、私自身も不登校関連のNPOに所属し、色々な不登校の事例を間近に見て来た。そこで感じたのは、現況の日本の教育制度下では、深く考える子どもほど学校との折り合いが悪くなるということである。個性の時代というスローガンの元、しかし、実際に個性豊かな子どもはその個性ゆえに疎外される。日本の教育はあの教育勅語の時代からそう離れてはいないのだ。しかもSNSを使いこなせる子どもたちにとって、知識を収集するスキルは教員より優れている。それでもなお尊敬される教師であるためには、高い人間力が必要なはずなのだが、そこはなかなか難しい。子どもは馬鹿ではない。むしろ本質を見抜く。処世に長けた子どもは見て見ぬふりをしてやり過ごすが、正直であろうとする子どもは学校の現実に傷つき、深刻な人間不信に陥ってしまう。心を閉ざし、外界との接触を避けようとする。それが不登校という形で現れるのだ。


昨年、8月27日、2学期開始を目前に控えたこの日、元文科省次官前川喜平氏が「学校に行きたくない子を学校に来させちゃだめ」と発言して注目された。この発言の背景には9月初めに自殺する子どもが激増する現状がある。しかもこれは、元文科省の官僚という一個人の発言ではなく、一昨年の9月には「不登校を問題行動と判断してはならない」という通達が文科省から学校へ出ているのである。不登校の子への支援は学校復帰のみに捉われないこと、不登校は休養や自分を見つめなおす機会となるなど、積極的な意味をもつことも、その通達には記されていたはずなのだが、それを学校側から聞いたことがある不登校児童・生徒の保護者に出会ったことはない。学校が従来のスタンスを崩さないのなら、やはり不登校は子どもの命を守る唯一の手段ということになる。


手前みそになって恐縮なのだが、前川氏発言に先立つこと3年、私もこんな一首を作った。

  学校に行かずともよしたましひを傷つけてまで行かずともよし

               『王の夢』2014年刊

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temiさんの画像をお借りしました。



この歌集の後半に娘の不登校を扱った作品を約50首収録した。そのことで「そんなことを書かれて、娘さんがかわいそう」という声も少なからずあった。でも実は、この歌集出版は娘の要望でもあったのだ。「勉強が嫌いなわけではない、未来をあきらめたわけではない。学校に行かないという選択をしただけだ。その選択に恥じるところはない。」それは娘の矜持であったと思う。そして、当時(わずか4年前だが)まだまだ不登校問題がタブー視されていた状況で、同じような悩みを抱える人々とリアルタイムで問題を共有したかった。『王の夢』はそんな人たちに読んでいただければ、と思って出した歌集だったのだ。


最近、NPOの活動を通じて出会った方々がこの歌集に興味をもって下さり、FBに記事をアップしていただくことが何度かあった。とてもうれしい。短歌には関わりのなかった方たちなのだが、今度、歌会をしたいとおっしゃっている。これもまたとてもうれしい。

娘が不登校になったからこそ実感できためぐりの温かさ、また出会えた人々。今の充実を思えば、娘の選んだ道が決して間違いではなかったと信じられる。

たとえ、娘の後期試験の一般教養の取得単位が壊滅的だったとしても(笑)。


   振幅の大きこころを定型に矯めて納めて過ごしし日々よ

   学校に行かざる日々のありしこと娘の今を輝かしめて

   最悪と思ひしことが最高の種かもしれぬ人生たのし


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三越のバレンタインディスプレイ。



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Commented by minaminouozafk at 2018-02-13 19:10
傍で見ていても本当に大変な四年間でしたが、最良の結果となって嬉しい。
乗り越えたさらちゃんも支える力があった早苗さんも素晴らしい。これからは楽しんで下さいね。E.
Commented by minaminouozafk at 2018-02-13 21:26
高校に行かないという選択をした更紗ちゃんも、それを支えた早苗さんも大変だったと思いますが、それを貫き良い結果を得られたのは、お二人の信じ合う力だったと思います。本当に良かったですね。A
Commented by minaminouozafk at 2018-02-13 22:38
子供と一緒に成長するということ、かつて私も経験しました。強くなれました。なにが来ても一度飲み込むという力がつきました。もう大丈夫ですね!姉妹のような写真が物語っています。Y.
Commented by minaminouozafk at 2018-02-14 06:14
乗り越えて乗り越えて乗り越えて、ですね。友人に恵まれた大学生活、楽しんでくださいますように。
まっすぐな少女に拍手(もう、少女、なんていうのは失礼かな)。髪型がおそろい♡Cz.
Commented by minaminouozafk at 2018-02-14 07:13
帰省時のルーティンワーク良いですね。息子たちとはランチとかせいぜいショッピングでした。ちょっと大人になってちょっと労わってくれるようになったかしら…本当に姉妹のようにお美しく、いい笑顔ですね。 N.
Commented by minaminouozafk at 2018-02-14 08:32
立春過ぎて一区切り、で書いてみました。正直問題はまだまだ解決していないと思うし、ずっと考えていかなければならないて思います。でも娘が元気でいてくれればそれでいい。親ってバカだなぁ。S.
Commented by minaminouozafk at 2018-02-14 19:25
選択した道を一生懸命に進んで道を開いて行かれたこと素晴らしいです。支えられた早苗さんの思い、文章から作品から伝わってきました。本当に良かった。「娘が元気でいてくれればそれでいい。」本当にそうですね。胸をつかれました。コメント遅くなってごめんなさいね。Cs
by minaminouozafk | 2018-02-13 03:30 | Comments(7)