2017年 11月 19日
桜川冴子著『短歌でめぐる九州・沖縄』 大西晶子
写真が美しく、ぱらぱらめくってみるだけでも楽しく眺めることができる。
九州の各県別に、桜川さんの選ばれた歌が挙げられ、それぞれの県に関わりのある万葉から現・近代歌人達のエピソードと歌が紹介されている。
そのような構成なので、どこから開いても気軽にその県の歌、歌人達のエピソードを読むことができる。九州の旅に持って行き、その場所で歌人達がどんな感慨を持ったのかを確かめるのも旅を深いものにできるだろう。
しかし選ばれた歌は決して軽いものではない。
爆音を浴びし身体(からだ)は紙のごとあゆみゆくなり嘉手納〈かでな〉の昼を 吉川宏志
時に応じて断ち落とされるパンの耳沖縄という耳の焦げ色 松村由利子
葬礼はまづ歌詠みて始まるとふこころの種子をもつ種子島 伊藤一彦
その土地に人生きて死ぬ單純を椎葉の村に葛の花咲く 前登志夫
空洞となりたる花の万の眼がうつす水俣の青の深さよ 桜川冴子
一分ときめてぬか俯す黙祷の「終り」といへばみな終るなり 竹山広
などなど、土地の人の辛さやかなしみに共振するような批評性のある歌が見受けられる。
もちろんそればかりではない。
わだつみをほういと飛んでまた一つほういと飛魚(あご)の飛ぶよ天草 高野公彦
カササギを間近にみたるよろこびに船より降りつ柳川は春 大島史洋
このような楽しい歌もある。
歌のえらびかたに著者桜川さんの個性がでているのだろう、いづれも魅力的な歌が挙げられている。
それにしても九州にゆかりのある歌人が多いことにあらためて驚いた。
敬愛する高野さんやゆかりさんの歌が取り上げられているのも同結社の者として嬉しい。
著者が意図されたように、短歌に興味がある人たちに広くお勧めしたい。
一冊の歌書にさそはれ秋ひと日旅に出でたしたとへば出水 晶子
歌もよくて、それに添えられた写真がまたすてきですね。多くの読者との出会いがありますように。Cz.