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珈琲の香り  鈴木千登世

道場門前のアーケードを歩いていた。学生の時から知っている街。

文栄堂書店、お茶屋さん、時計店…改装した店、そのままの店が並んでいる。

アンテナショップの前を過ぎりながら、かつてここはスポーツ品店だったと思い出した途端、唐突に一軒の喫茶店が記憶の底から浮かび上がってきた。アーケードの脇道を入っていくとあった喫茶店。名前は「もぐらの里」。金魚鉢のような大きな器のパフェが有名で、学生時代に何度か訪れた店。


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記憶にある細い道をたどり、突き当たりを左に折れると赤いレンガ塀が現れた。


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たどり着いた店は暗く、営業中の札もなかった。

確かめるようにドアを引くと、珈琲の香りと人の声。

店内は30年前のまま、カウンターの奥にはアンティークなカップが並び、ピアフの低い声が流れている。

「ああ、ここ」と心が声をあげた。


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何もわからない前夜のような日々だった頃。気づくと子育てを終え人生の後半を歩いている。体の中を30年の時がどっと通り過ぎたような気がした。

カウンターの、常連さんらしい女性の隣で昔話をしながら珈琲を飲んだ。


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時の迷路に迷い込んだような、過去と現在が入り混ったような、懐かしくて切ない不思議な時間を過ごした。


珈琲と古い時間の香りする喫茶「もぐらの里」のざわめき

二十年値段を変へてないといふ革のメニューの飴色のつや


Commented by minaminouozafk at 2017-06-15 06:50
行ったことが無くても、懐かしさを感じる店内や、コーヒーカップ!
金魚鉢パフェも紹介して欲しかったなあ。E.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-15 20:00
路地の写真から珈琲の写真まで、ぐいぐいと引き込まれて読みました。30年をタイムスリッブ出来る場所を持っているなんて羨ましいです。Y.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-15 21:05
もぐらの里なつかしいです(*^^*)3年前くらいに大学の友人と行って店主のおばちゃんとチョコパフェを食べながら盛り上がりました。懐かしくて切ない時間よく分かります。たしかに皮のメニューでした。N.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-15 21:16
昨日のちづりんに続く、山口ネタ。嬉しい。素敵な画像。もぐらの里の金魚鉢パフェ、食べないまま卒業したのは、今でも後悔しています。思い出を誘う流麗な文章。感動しました。ちーさま、ありがとう。S.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-15 22:07
行ったことがないのに、よく知っているような気がする店内やカップ。20年以上値段を変えずにお店を開いている経営者の方も肝が据わった方ですね。そんなお店があるちー様やななみさんがうらやましい。A
Commented by minaminouozafk at 2017-06-15 22:13
アンティークの並ぶカウンターに「ピアフの低い声」、それだけでお店の雰囲気がわかるような気がします。室内の写真、空気がみがかれているようです。素敵な時間をありがとうございます。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-16 22:51
金魚鉢パフェ、またご紹介しますね。学生時代にはすこーし背伸びする雰囲気がありました。この年になってひとりで訪れられる素敵な場所になりました。みなさまにお気に入りいただいて嬉しいです。Cs
by minaminouozafk | 2017-06-15 06:17 | Comments(7)