2017年 06月 13日
思いの生まれる場所 藤野早苗
6月の夕光の中、それは静謐に、けれどたしかな意思をもってたたずんでいた。
この世には実在しないはずのフォルムのそれは、奇異でありながら、懐かしい。
遠つ祖から連綿と伝えられた民族の記憶の具現のように、不可思議な説得力をもって、それは私の眼前に現れた。
ここは「共星の里美術館」(朝倉市黒川1546-1)。廃校舎を利用した山里の美術館。アートディレクター柳和暢(やなぎ・かずのぶ)氏の審美眼を経た作品はどれも圧倒的な個性を放っている。
中でも、この作品にこころ惹かれたのは、ここ黒川が英彦山系の山岳信仰の地であることと無関係ではないだろう。宗教という体系的な学問ではなく、ただただ自然を畏怖し、祈るという素朴で内発的な行為が信仰だ。
大地から立ち上る「気」が、火焔を上げながら円という空(くう)となり、それを深く覗きこみながら、大切にかき抱く大いなる存在。
それは、神であり、同時に人である。
人間の中に揺るぎない神性を見出すこと、それがおそらく信仰のはじめなのだ。
この作品は「思いの生まれる場所」。作者は八尋晋(やひろ・しん)氏。筑紫野市在住の40代半ばの気鋭の造型作家である。その夜の螢見の会で隣り合わせた人が、八尋氏であった。この偶然はおそらく必然だったのだ。
思いの生まれる場所・・・。
真っ暗な黒川の夜を明滅する螢。それは刹那生まれては消えてゆく思いの形象であったのかもしれない。
あくがるる魂かぎりなし黒川の水無月闇をひかるほうたる
いつさんに阿といひ吽と押し黙る結合振動子たるほうたる
非線形微分方程式に解く螢明滅その不可思議を
〈共星の里美術館〉パーマネントコレクションより
関係者ご一同、温かく迎えて下さいます。
ちょっと怖いけど眼が離せない作品「思いの生まれる場所」、
いつか機会があったら見に行きたいです。 A
ご紹介ありがとうございます。Cz.