人気ブログランキング | 話題のタグを見る

草書のひかり  大西晶子


母は蛍が好きだった。

98歳で亡くなったのは3年前の518日、あと一か月で99歳だった。

今年の祥月命日の翌日、夜道を歩いていたら、道路に小さな緑色の光が見えた、車道に留まる蛍だ。近寄るとふらふらと飛び、やがて草むらに入って見えなくなる。


草書のひかり  大西晶子_f0371014_15100640.jpg
          蛍の写真は撮れなかったので、〈 蛍柄 〉


母の実家の、祖父の住んでいた筑後市久恵(くえ)の家は二方がクリークだった。建物は昔ながらの田舎家で、雨戸以外には戸外と室内を区切る戸がない。子供の頃、祖父の家に夏に行くと、蛙の声が遠くに近くに聞こえ、夜には家の中まで蛍が迷いこんでくる。母と祖父や叔父たちの話を聞きながら、寝転んで天井の下を飛ぶ蛍を見たりしたものだ。


晩年の母は「泣きたいほどに故郷が懐かしい」と度々言っていた。蛍は母には故郷の象徴だったのかもしれない。

   

草書のひかり  大西晶子_f0371014_15100050.jpg



蛍を見た車道の近くには小川がある、母と蛍を見に来たこともある場所だ。草むらに踏み入り小流れの見える場所に行くと、居る居る。
翠の光が音もなく明滅しながら幾つも闇に線を描いている。


  暗黒にほたるの舞ふはやはらかき草書(さうしよ)のごとしひかりの草書         

                             高野公彦『地中銀河』



本当に「ひかりの草書」そのままだった。

母が「蛍を一緒に見よう」と私を誘ってくれたのだと思った。


それから一週間ほど後、ローカルニュースで福岡県の各地で蛍が出始めたと報じるのを聞いた。



    

てのひらに留まるほたるの明滅に気づけば息をあはせてゐたり
                          晶子



Commented by minaminouozafk at 2017-06-04 22:48
ブログに誘われて夜のお散歩。月のそばに光ってるのは木星?蛍も数匹が飛び交ってました。ひかりの草書でした。お母様を思うお気持ちが伝わってきました。Cs
Commented by minaminouozafk at 2017-06-04 22:52
もう蛍の季節なんですね。私も今年は蛍見の予定があります。草書のひかりに出会いたいものです。お母様の大切な思い出、読ませていただきありがとうございました。S.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-04 23:25
ひかりの草書。闇に線を描いて飛ぶ蛍の様子が思い出されます。幼い晶子さんの眼が天井の蛍を追うかわいらしい様子、想像しています。お母様のお話をありがとうございます。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-04 23:41
お母様につながる蛍の思い出があたたかいです。ホタル柄も優しい色合いですね。写真にすると地味な蛍は、やはり蛍狩りに行かなければいけませんね。Y.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-04 23:52
先日、北九州の市街地で蛍が楽しめると情報番組で見ましたが、宗像にも居るのですね。
40年くらいみていないなぁ。E.
Commented by minaminouozafk at 2017-06-05 00:00
宗像市の名残という地区の蛍です。宗像にはほかにも結構居るんですよ、〈蛍公園〉もあるし。写真は私の腕とカメラでは無理でしたので、てぬぐいの柄で代用。A
Commented by minaminouozafk at 2017-06-05 06:09
もう蛍の季節なのですね。壇具川は人が多くて、この頃あまり見られないです。岩国の錦川上流で独り占めした蛍、真っ暗の中しばらく放心でした。ほんと放物線でゆっくり飛び交う蛍は草書のひかりですね。蛍が見たくなりました。N.
by minaminouozafk | 2017-06-04 09:04 | Comments(7)