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末摘花 藤野早苗

日本橋高島屋の山形展。
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ずんだ餅、山葡萄蔓の籠(山のルイ・ヴィトンと呼ばれているらしい)、桜桃…、居並ぶブースの中で一際鮮やかに衆目を集めているのが、紅花染の一角。


ちょうど今、花時を迎えた紅花の古名が、末摘花。茎の先端につく花を摘み取って染色に用いることからそう呼ばれたらしい。

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なつかしき色ともなしに何にこの末摘花を袖にふれけむ
(心惹かれる色でもないのになぜ、この紅花〜赤い鼻〜のような女性に触れてしまったのだろう)

『源氏物語』第6帖は「末摘花」。もともとは高貴な出自であったが、後ろ立てのない今は誰にも顧みられない深窓の姫君。その姫君に食指を動かされた源氏であったが、ふと垣間見てしまった姫君の長くて先が赤い鼻に驚き、ほうほうの態で逃げ出してしまった。末摘花とはこの姫君につけられたあだ名である。由来を思えばあまりなネーミングだが、花そのものは可愛らしい。


源氏物語には様々な女性が登場し、華やかな恋愛絵巻が繰り広げられるわけだが、琴を弾かせても別段心に沁み入るほどでもなく、和歌の覚えも今ひとつ、字を書かせてもこれはちょっと…という末摘花はある意味、他の姫君たちとは異質で不思議な存在である。何故、紫式部は末摘花を登場させたのだろう。その理由は物語を読み進むうちに明らかになる。


源氏はその後、末摘花と再び関係を結ぶことはなかった。しかし、源氏の身の上に起こったいくつかの不遇に際し、変わらぬ態度で迎えてくれたのはこの末摘花であった。その温かな心映えに打たれた源氏は末摘花を一生大事に思い、不自由のない暮らしを保証したのだった。


紅花で染めた絹を紅絹(もみ)という。アンティーク着物の裏によく使われているが、実は、本当の紅花染の紅絹は、明治以前の着物にしか使われておらず、それ以後の紅絹は合成染料のため、洗うと色落ちするのだそうだ。本物の紅花染は水に通しても色落ちしない。逆に経年によって、色味は深くなり、肌にトロリと馴染むのだという。紅花染とは一生のお付き合い。源氏が終生身近く置き、大切に扱った女性の名が末摘花であった必然がなんとなくわかったような気がした。


平織の紬ざつくり纏ひたる嫗の振りに紅絹のぞきをり


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紅花染についてご説明下さった鈴正さん。一流職人さんらしく、紅花愛に溢れていました。

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画像上部が「紅餅」。紅花の花弁を固めて発酵させたもの。下の黒いのは、青梅の黒焼き。紅花の色を定着させるクエン酸の役割を果たすのだそう。







Commented by minaminouozafk at 2017-05-30 22:30
紅花にまつわるあれこれ、興味深く読ませていただきました。源氏物語の登場人物中いちばん気の毒の感じのする末摘花ですが、可愛いお花であることが救いです。青梅の黒焼きがクエン酸代わりというのに驚きましたが、納得ですね。A
Commented by minaminouozafk at 2017-05-30 22:47
少しずつ色合いの違う赤がうつくしい!色落ちせず時が立つにつれて深みを増しとろりと馴染むというのが素敵ですね。末摘花の不器用な愛も…Cs
Commented by minaminouozafk at 2017-05-30 23:28
何色と呼んだらいいのでしょう。紅花染にもいろんな色があるのですね。紅花の花弁を発酵させたもの、触ってみたい。クロテンの毛皮のお姫様好きです。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2017-05-30 23:38
写真からでもわかる紅絹の深くて、でも微妙に違う色が驚きです。自然のものだからこその色合いですね。日本にたくさんある貴重な技術が途絶えない事を祈るばかりです。Y.
Commented by minaminouozafk at 2017-05-30 23:40
紅花と言えば江戸時代の物語、佐伯泰英の「居眠り磐音」主人公の元許婚、奈緒の嫁ぎ先の生業を思い出します。連綿と続く技術、守って欲しいですね。
Commented by minaminouozafk at 2017-05-31 05:13
本当にうつくしい紅花の赤。山形が有名なのですね。花はそんなに赤を主張しないのに染め上げのあざやかさにうっとりです。むかし藍染のお手伝いしてゾンビのような手になりつつ、藍の生命を感じ楽しかったこと思い出しました。N.
Commented by minaminouozafk at 2017-05-31 07:08
昔は六条御息所に惹かれたものですが、今はこの末摘花が気になっています。心映えのいい人間になりたいなあ、いつか、紅花の赤を見ながらそんなことを考えていました。S.
by minaminouozafk | 2017-05-30 00:53 | Comments(7)