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馬場あき子「寂しさが歌の源だから」   藤野早苗

年が明けてからずっと落ち着かない日々を過ごしていたが、ここにきてようやく本を読む余裕が持てるようになった。積読状態の本たちをなんとかしなければ。
馬場あき子「寂しさが歌の源だから」   藤野早苗_f0371014_02093813.jpg
で、まずはこの1冊。
「寂しさが歌の源だから」。本書は馬場あき子初の自伝。穂村弘との対談という体裁をとっているのだが、それがとても読みやすい。あとがきも含めて241ページ。馬場あき子の自伝としてはコンパクトに収まっていると思うし、要所要所で穂村が繰り出してくる質問が的を射ていて、ああ、そうそう、そこ聞きたかったんだよねということの経緯が簡潔に、馬場によって語られてゆく。

早くに実母を亡くし、祖母、叔母たちに育てられたこと。
算数が壊滅的にできなかったこと。(鶏の引き算の話は秀逸。10羽の鶏の中から3羽逃げたら残りは何羽?と聞かれて、「たぶん7羽だけど、中には逃げる気もなくついていくのもいるかもしれないから・・・、6羽か、5羽。」と答えた幼き日の馬場あき子。慕わしい。)
鮮烈な戦時体験。
敗戦下での短歌との出会いと傾倒。
結婚と結社創設。
能と古典と短歌。
女流短歌について思うこと。
若い歌人たちへ伝えたいこと。

こんなことが、丁々発止のやり取りの中で明らかにされてゆく。この二人の対談を読んでいると、まこと天才は天才を知るのであると実感する。良き聞き手あってこその語り手、またその逆も真であろう。

第1歌集『早笛』から最新刊『混沌の鬱』まで、馬場あき子の歌集は一冊一冊詠風が異なる。それは馬場の意図的な試行であり、1か所に留まることを潔しとしない馬場あき子という歌人を如実に語るものとして紹介されている。馬場の歌集出版のペースの早さにも驚かされるが、その歌集一冊の原稿は2日あればできるというそのノウハウにも驚いた。胆力のある人。馬場あき子はそんな印象を残す歌人だ。

本書の中で、気になった箇所をいくつか引用しておく。

・今は新しい短歌の時代が始まっていると見るべきか。短歌が滅びてゆく時代だと見るべきか。まあ両方よね。しかし私はやはり、新しい短歌が始まると思うのね。
・ことばのリズムそのものが変わっていくのか。(中略)時代とともにどんな風になっていくのか。定家の歌なんて(略)こんなことばのつづきがらの悪いものはだめだって。ところが、それが今の時代には優れた文学として受け入れられていく。そういうところが本当に不思議。結局、ことばの世界では一人の天才がいるかどうかが流れを変えるのよ。
・歌ができなくなると、やわらかい心を持とうとするでしょう。そうすると口語になってしまう。そうすると初七になるのよ。
・寂しいから作るじゃないの。充実を求めて作るもの、歌は。結局、最後の友達は歌だけなのよ。

恣意的に開くどのページにも至言が溢れている。
幾たびも読み返したい名著である。


さびしさに追ひつかれぬやう 疾走感みなぎる歌集26冊


Commented by minaminouozafk at 2017-04-04 18:53 x
早苗さんの文章も疾走感があって、感動が伝わってきました。是非手に取りたい一冊です。「寂しさが歌の源」でも「寂しい」から歌を作るのではない…心に残りました。Cs
Commented by minaminouozafk at 2017-04-04 21:02
相変わらず、落ち着かない私。「充実を求めて」反省と共に心に染みます。
今回のご紹介「まずは」と言う事はこれからばんばん紹介して頂けるのね。楽しみにしていま~す。E.
Commented by minaminouozafk at 2017-04-04 21:24
本当にまだまだです。誘われたらほいほい出かけ、疲れたらすぐに休憩。ついつい軽い本ばかりで…歌集、歌論から逃げてしまいます。机につく時間、自分で作るものですね。N.
Commented by minaminouozafk at 2017-04-04 21:27
積読書物の森に分け入ってゆく姿が見えるようです。「さびしさに追ひつかれぬやう」のお歌、いろいろに考えました。早苗さんの視点からのご紹介、一書がより身近になりました。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2017-04-04 22:11
早苗さんの本の紹介を読むと、必ず読んでみようと思ってしまいます。疾走感のある紹介文の力でしょう。
歌は「充実をもとめて作るもの」、ともすれば締切を守ることに重点を置いてしまう私は大反省です。A
Commented by minaminouozafk at 2017-04-04 22:12
歌を詠むようになって日の浅い私には、わからない事、知らない事が多すぎて焦ってしまいます。時間が足りない。でも、情報を頂くととても参考になります。積読にならないよう頑張ります。Y.
Commented by minaminouozafk at 2017-04-04 22:19
年々失われる視力、集中力。あんなに好きだった読書が時々苦行に思えることがあります。でも、今日の自分が一番若いことを思い出し、読めるうちに読んでおきたいと思います。みなさま、しばし、お付き合い下さい。S.
by minaminouozafk | 2017-04-04 02:32 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(7)