さくらのうた 大野英子



今年も桜のつぼみがだんだんと膨らんできました。

開花予想は福岡と東京が26日、満開予想が4月7日という事です。

カルチャーでは、季節に合った作品を紹介しています。

そのなかから少し、一足先に桜のうたを。

短歌を始める前から好きだった馬場あき子氏のうたから。

○さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり 『桜花伝承』

○桜咲くころ感情は静かならず亡きひと亡き犬亡き小鳥たち 『記憶の森の時間』

一首目は49歳の頃の作品。

たえず美しい花咲かせる桜は、いつまで咲き誇って老年と言う時期を迎えるのだろうか。桜ではない私の身には、老いて行く時の流れが、水流の音のように響いて来る…

そんな、少し老いを意識しだした気持ちでしょうか。美しく高らかに詠みあげています。

二首目は87歳、第25歌集から。

満開の桜は死を孕んだものと感じる。この頃に身近ないのちを多く亡くしたのか、そうでなくとも、否応なく思い出させる力が桜にはあると詠んでいるのでしょう。

長い人生を経たからこその考察。

私も満開の桜のころに、父を、愛猫を亡くし大いに共感いたしました。

さて、さくらと言えば忘れてはならないのはわがコスモス短歌会の小山富紀子さん。

毎年、桜を連作で詠まれています。そのなかでも狂気を孕む作品から。

○風止めば桜散り止む白昼の夢覚むるごと徐々に散り止む 祗園(ぎおん)春宵(しゆんせう)

散る桜が白昼夢のようだと言わず、逆説的に覚めるように散りやむと詠んで印象深い。

○我が去りし後もさくらの夜もすがら散りて座しゐし跡も消ゆらむ

草の上に残った自分の痕跡が消えることによって、作者の存在さえも消えてしまいそうな危うさ。

○沈めたる怒りはいつかかなしみに変はりぬ闇にさくら沈むころ

○縊死毒死わが死に様を思ひけりさくらの下ならなんでもできる

連作中の二首。桜が咲いているからこその、感情の変化。自殺を匂わせても、桜の下ならなんでもできそうと言う気持ちは、怒りや悲しみを浄化し、その中から湧いてくる、桜あってこそ、さらりと詠めてしまう不思議な世界を紡ぎ出す。

○目の前のさくらが過去のさくら呼びわが身よりたつ桜ふぶきぞ 『紅さし指』

第二歌集から。今、目の前の桜は、まだ静かに咲いているだけだろう。その中に立ちあがる過去は桜ふぶき、激しい思いと共に有ったのかもしれない。そんなことを思わせる一首。

第一歌集と併せて鑑賞すると明白に立ち上がってきます。

○枕よりつむり起こせば夢に見しさくらさらさらこぼれ消えゆく

夢と現実との狭間、さくらを愛する作者ならではの一首。

京都の暮らしという日常に密着した穏やかな作品もたくさん有ります。今年も桜の連作が心待ちにされます。

この季節になるとまた開いてしまう、二冊です。

付箋の束おゆびに解しながら読むさくらはらはら散りくる歌集

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私の写真コレクションには桜はいっさい見当たりません。数年前の大宰府政庁跡の梅でお許しを。



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Commented by minaminouozafk at 2017-03-17 18:40
馬場あき子さんの『記憶の森の時間』もう、最新歌集では無いですね。勉強不足で申し訳ありません。
出掛けにコスモスが届き、知りました。今日は実家泊で訂正出来ませんので、明日加筆訂正させていただきます。大野英子
Commented by minaminouozafk at 2017-03-17 21:43
さくらのうた、自分で詠むと全然できない。桜という完璧な美をオリジナリティある存在として表現できる歌人、尊敬します。ふきこねえさんはほんと、桜のうたびとですね。S.
Commented by minaminouozafk at 2017-03-17 22:31 x
一足早く満開の桜を思い描きました。「狂気を孕む」は桜ならではの感性ですね。小山さんの「座りゐし跡も消ゆらむ」艶やかで、はかなくて、素敵です。平安の昔から毎年多くの桜の歌が詠まれますが、それでも秀歌が生まれていることに短歌の妙を感じました。桜に浸れて嬉しかったです。Cs
Commented by minaminouozafk at 2017-03-17 22:31
今まで詠んだ桜は、美しさ、儚さ、希望とありきたりでした。本当は私は陽水の「桜三月散歩道」や坂口の「桜の森の満開の下」にある狂気が好きです。今年の桜、待ち遠しいです。Y.
Commented by minaminouozafk at 2017-03-17 23:07
桜の狂気と、改めて向き合えたのは、ユリユリの一首のおかげです。
新しい桜の物語、詠みたいです。E.
Commented by minaminouozafk at 2017-03-17 23:24
梅はまた来年、という季節になりましたね(この辺りでは)。桜の歌のご紹介ありがとうございます。これまでどれくらいの桜の歌がつくられたのでしょうか。その中に、ユリユリの一首が。Cz.
Commented by minaminouozafk at 2017-03-17 23:48
馬場あきこの〈身に水流の音ひびくなり〉を今読むと、身に迫るものがありますが、花筏も見えます。
冨紀子さんの〈さくらさらさら~」も夢とうつつの境にある触れれb消える桜、他の花には代えられないものですね。
一本桜と呼ばれるような大木の桜には、古来の神が宿っているような気がします。 A
Commented by minaminouozafk at 2017-03-18 08:11
梶井基次郎をたぶん中2くらいに読んでから毎春の桜には不思議な畏敬の思いがあります。今年も桜に会えてありがとうって。短い時間をいっせいに咲くさくらさくら。私にはまだまだ詠めません。N.
by minaminouozafk | 2017-03-17 07:53 | Comments(8)