2017年 03月 14日
澁澤龍彦ウィルス 藤野早苗
感染源はこれ。
ああ、あなたもそうですか。
中ニ病。
田舎の、何の趣味性もない本屋の書棚の隅っこで見つけた一冊。奥付を見ると、初版は1973年、私が買ったのは1976年の6刷。ぴったり14歳。
片山健の不気味綺麗な挿画に魅かれページをめくると、そこは流麗な言葉で綴られる目眩く澁澤ワールド。残酷とエロス、廃頽の権化のようなこの本は、おとなが黙して語らない真実をそっと教えてくれているようで、14歳の私は背徳感に充ち満ちた思いでレジに並び、自室へ連れ帰ったのだった。
以来、澁澤龍彦は私の係恋の人となった。足繁く書店に通い、名前を見つけるとすぐに購入し、貪るように読んだ。澁澤のめぐりに興味を持つことで、三島やワイルド、ブルトン、絵画ではクラナッハやエルンストに出会い、魅かれた。
友達とこの話をしたことはない。同調圧力の怖さは知っていた。ただ一度、教育実習に来た大学生に、澁澤が好きって趣味がいいよね、と言われたことが嬉しかった。
1987年、澁澤龍彦逝去。58歳。サド研究をはじめ、あらゆる異端と称されるものに光を当て、それらマイノリティの存在の意義をシニカルに、精緻に描写した稀代の文学者。その不在は長く私を悲しませたが、1993年、河出書房新社から『澁澤龍彦全集』刊行。出版されるごとに買い集め、今もわが家の本棚にある。
現在、娘の上京準備に追われている。引越し荷物の中に『長靴をはいた猫』をしのばせていた娘。申し訳ないが、そっと没収。でも、読んでいたんだね。あなたも罹患していたんだね。いいのだよ。多分、人はそうやっておとなになる。親が、いや、親だからこそ伝えられないことを芸術が教えてくれる。
中ニ病には罹患しておいた方がいい。おとなになった身体に追いつかない精神…。そこを押し上げてくれるのが中ニ病。これから出会う背徳、悪徳、頽廃、それらに対する免疫を高める中ニ病。悪いものではない。ただし、拗らせなければ。
古書店街春の一日をめぐりたし14歳のわたしをさがし
ちなみに職場の図書館に全集そろえてます。
澁澤の周辺にもスゴイ人たちがいましたね。
早苗ちゃんと澁澤…納得します。
私の14歳は、星新一かなあ。