2016年 12月 29日
南天九猿 鈴木千登世
春のある日のこと。
その日は病院に行くため半日の休みを取ったのだった。
思いがけず早く診療が終わり、ぽっかりあいた平日の昼前。
忙しく働いてるだろう同僚をちらりと思いつつも、草の匂いのする4月の一の坂川界隈をふらりふらりと歩いた。
一の坂川は桜の名所。
満開の桜は散り始め、風に載った花びらは歩道のあちらこちらへと運ばれていた。
道を一本入ると竪小路。大内時代に館のあった通りが細く伸びる。
古い町並の中に古民家を改装した店があった。
入り口の雛人形に目を惹かれ中に入ると、うすぐらい店の中にはどこか懐かしい手作りの雑貨が並んでいる。奥の座敷は茶房になっているようだ。
ふと、座敷の入り口あたりにあった、組紐の帯に色とりどりの衣装を身に着けた子猿の置物に目がとまる。
南天の枝にまたがる九匹の猿。南天は難転、九猿は苦去る、「南天九猿」と呼ばれる縁起物だとお店の人に教えてもらった。早速買い求め、以来、玄関先で災厄を払ってくれている。
平成28年、申年。
嬉しいことも多くあったけれど、この年齢になると悲しみごとも避けられない。
心が沈む日々に、この置物を見ると不思議に和んだ。小さな猿たちが波を越えて進もうとしているけなげな姿に、そうだよねぇとつぶやく。もうちょっと頑張ろうと思う。
今年もいよいよあと三日。新しい年がどんな年になるかはわからないけれどきっと大丈夫。
一歩前に出ようと飛び込んだ今年の素敵な出会いに深く深く感謝。
ほほほいと声を掛けつつ青海をひた漕ぎ渡る南天九猿 千登世
来る年が幸い多い年となりますように。
酉年になってもきっと千登世さんのご家族を守ってくれるでしょう。 A
ひたむきな南天九猿が漕ぎ渡るのは「青海」。この九猿はうれしいでしょうね。ちとせさんから青海波の中に浮かべてもらって。Cz.