人気ブログランキング | 話題のタグを見る

奧村晃作歌集『ビビッと動く』 藤野早苗

奧村晃作歌集『ビビッと動く』       藤野早苗_f0371014_02312923.jpg
奧村晃作歌集『ビビッと動く』       藤野早苗_f0371014_02315549.jpg


わが家には熱烈な奧村晃作ファンがいる。それは最新歌集『ビビッと動く』を抱きしめて寝ている猫さま…ではなく、うちの娘18歳である。

小高賢のアンソロジー『現代の歌人140』を読んだ娘の一押しが、奧村晃作なのであった。

娘は基本、短歌に興味がない。短歌だから読むのではなく、それが何であっても面白ければ読む。短歌作品の批評軸しか持たない私には分からない、奧村作品の鑑賞の仕方があるのかもしれない。門外漢の言辞は時に本質を射抜くものだ。

・ 味噌を食い蟹の体の肉を食い十本の脚の筋肉を食う
・両手伸べTの字に立ち赤き衣の夢二の女は手に扇子持つ
・人物と山、湖の絵が多いスイスの国民画家のホドラー
・吊橋のあんまり高い橋だから前見て橋の真ん中歩く
・必敗の囲碁であったが相方がゆるい手打って勝ちが転がる
・〈お茶ノ水橋口〉を出て地下鉄の「お茶ノ水」まで歩いて二分
・俊敏の佐藤慶子の鳥のごとビビッと動く脳を思えり

集中から引いた。
日本人は察することが上手い民族だ。実際には書かれていないことを空気感を読んで了解する。短歌を読むとき、そして詠む場合もそうだ。どれだけ言わずに伝えられるか、31音の短詩がどんな物語になるのか、短歌の醍醐味はここにあると私たちは考えがちだ。そういう意識で奧村作品に向かうと、かなり残念な感想を抱くことになる。

けれど以前、行間を読めと言われて「白い」と答えた娘が奧村作品を読んだ場合、上記作品は秀歌となるのである。奧村作品においては言葉と意味つまり表現の対象は1対1の合理的な対応をしている。重層性がない、それゆえの余韻がないと言われればそれまでだか、代わりに底抜けの開放感があり、決して他の歌人とかぶらない独自の表現は飄々とした魅力にあふれている。しかも、奧村氏は受けをねらっているわけではない。極めて真面目に日々作歌に邁進しているのである。この自らを恃む心の強さが従来の短歌観から奧村短歌を自在に解き放っている。

奧村短歌の後継はなかなか難しい。これだけ無欲無心無邪気に歌に向かえる人間はいない。その意味でも、奧村晃作はやはり天才なのである。


一念は岩をも通す滴てきと只事を詠む奧村短歌 藤野早苗


Commented by minaminouozafk at 2016-09-13 07:49
行間を「白い」と答える早苗さんちの18歳。
先日もお会いしましたが、幼い頃から変わらない、対象をじっと見詰めるような強い瞳に、おばさんはたじろぎながらも頼もしいものを感じました。
以前、高野さんが「白紙の心」と題して鑑賞する心を書かれていとことを思い出しました。E.
Commented by minaminouozafk at 2016-09-13 20:59
真っさらな気持ちで奧村作品に向かうと新しい発見があります。私は奧村作品好きなんです。S.
Commented by minaminouozafk at 2016-09-13 21:39
さすがにお好きなだけに、奥村短歌の本質を見抜いていらっしゃると思いました。真摯で、空気を読まない潔さが奥村さんの歌の良さなんですね。高野さんが奥村さんを天才だと言われるのもそこでしょう。 A
Commented by minaminouozafk at 2016-09-13 22:18
『ビビッと動く』。ご紹介ありがとうございます。奥村作品の「余韻」は、私には、あらぬ方からじわじわやってくるという感じです。あくまでも感じ、です。C.
by minaminouozafk | 2016-09-13 02:30 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(4)