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ちー先輩

藤野早苗

第63回コスモス賞発表
「光る声」 鈴木千登世

・あかがねの蝕の望月仰ぎたり泉下の月のごときその色
・まどろみのあはひにひびく春の雨からだが水になつて流るる
・草の王しいんと咲いてひやくねんをねむりたくなる村の午後二時

三首引用。ことばの響きが優しく、読者に何事をも強いることのない作品。最近めずらしいと思います。昨今の短歌は、どう主張するかに鎬を削ってるような気がします。静かで格調高い抒情、コスモス本流ですね。
ご受賞、本当におめでとうございます。

ご存知とは思いますが、鈴木千登世さんは2014年に第1歌集『向きあふ椅子』を上梓されています。

・火遊びをして待ちをりしふたりの子日暮れそんなにこはいかこはいか
鈴木さんは、高校教師。子育てはさぞかし大変だったろうと思います。「日暮れそんなに〜」以下、胸を締め付けられます。
・人麻呂の律こそよけれおほどかな律に揺れゆく玉藻黒髪
鈴木さんの韻律の秘密は人麻呂にあり。納得です。
・午後深き路地のアンニュイ逝く春の句点となりて猫眠りをり
猫のうた〜‼︎猫の個性を拾って見事。
・あふり焚きねらし焚きまた攻め焚きの名に呼び工は真火を操る
萩焼の陶工を詠んだ作品。焚きの詠み分けが効果的。知ることの喜びが一首の迫力になっています。
・蕾みたる桃と菜の花ほぐるれば春 ゆつくりでゆつくりでいい
このやさしさに泣いてもいいですか。背中をさすられている気がします。
・履かぬまま合はなくなりて蔵ひたり時の栞のやうな子の靴
子どもの足が瞬く間に大きくなっていたあの頃。母としての追憶が沁みます。


ああ、他にも紹介したい作品はたくさん。
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ぜひ、ご一読下さい。柊書房、装幀はひがしはまねさん、選歌と帯文はゆかりさんです。

コスモス便に書いていただいてましたが、鈴木さんと私は山口大学人文学部語学文学科の同窓生。鈴木さんは国文学専攻、私は国語学で、鈴木さんは一年先輩でした。畑違いの国語学の講読も取られていて、怠け者の私たち国語学の学生を差し置いて、教授の覚えいとめでたき先輩でした。愛くるしい顔立ちと知的な雰囲気、隔てない人柄で、研究室の数多い先輩方の中でも一際印象に残る方でした。そんな鈴木さんについた愛称は「ちー先輩」。研究室のあちこちでちー先輩を呼ぶ声が飛び交っていました。
不思議なご縁で、また同じ結社でお会いできること、本当にうれしいです。受賞のお写真、学生時代とお変わりなく、これにもびっくり‼︎また色々お話したいです。


講読のあとのランチはホラ吹き男爵(ホラだん)で 先輩後輩もう五十過ぎ 藤野早苗

山大通りの喫茶店「ホラ吹き男爵」、もうないのですね。だって、あれから30年ですものね。

Commented by 福士りか at 2016-08-16 20:54 x
千登世さん、受賞おめでとうございます。
同年代というのは、不思議な感懐を抱かせるものですね。
短歌という世界、同じ結社ともなると、さらにそうです。
出会いを幸いと思います。
Commented by minaminouozafk at 2016-08-16 21:16
そうか、りかちゃんとちー先輩は同い年。私にとってはお二人とも大切な方々。出会えたことに感謝です。S.
Commented by 月下  桜 at 2016-08-16 22:03 x
鈴木千登世さん、受賞おめでとうございます。しみじみと味わい深い作品です。
Commented by minaminouozafk at 2016-08-16 22:24
桜さん、コメントありがとうございます。多方面でのご活躍、うれしく拝見しています。素敵な作品、楽しみにしてます。S.
Commented by 鈴木千登世 at 2016-08-17 18:43 x
「南の魚座」に載せていただいてうれしく思います。でも 褒めすぎです。褒めすぎです。

りかさん、桜さん、お祝いの言葉ありがとうございました。
Commented by minaminouozafk at 2016-08-17 20:56
ちー先輩、また遊びにいらしてくださいませ。S.
by minaminouozafk | 2016-08-16 09:24 | 歌誌・歌集紹介 | Comments(6)