2017年 11月 22日
ルドルフ2世とアルチンボルド 有川知津子
神聖ローマ帝国歴代皇帝のなかで、異彩を放っているのがこの方。
ルドルフ2世(1552年-1612年)である。
ご覧いただいているのは、今、福岡市博物館で開催中の
「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」のチラシ。なんとも賑やか。
題して《ウェルトゥムヌスとしてのルドルフ2世像》。1591年制作。
ウェルトゥムヌスは、ローマ神話に登場する果実の神、季節のめぐりを司る神でもある。
このチラシを見たとき、なんと珍妙な絵! と思うと同時に、
嬉々として絵筆をふるう画家の姿が思われて、じわんと胸があたたかくなってしまった。
これはもう描くのが楽しくてしょうがないという感じ。
画家の名は、ジュゼッペ・アルチンボルド(1526年-1593年)。
マニエリスムを代表する画家の一人として数えられる。
もちろんチラシより、実物のほうがいいに決まっている。見に行った。
このルドルフ2世像、
なんと、のべ67種類もの果物や花や野菜で形作られているという。
皇帝を豊穣神になぞらえることによって、その治世の繁栄が祝福されているのだそうだ。
肖像画の隣には、絵解きされたパネルが掛けられて、
これはサヤエンドウかやっぱり、
なんとこれはサクランボであったか、
などと答え合わせができるようになっている。
みんなあっちを見てこっちを見ては頷いている。
中に一つ「不明」と書かれたのがあったのも面白かった。
しかしこの絵、通常の概念の〈威厳〉といったものからはほど遠い。
それでいて、眼差しは穏やかで慈しみに溢れている。
アルチンボルドはこの皇帝を心底慕っていたのだろうと思う。
栄華の寓意があるとはいえ、形ばかりの敬礼ではこうは描けないような気がするのである。
そしておそらく皇帝もそのアルチンをよく理解していたのだろう。
絵を贈られてたいそうな喜びようだったというのだから。
――かれこれ400年余り前の話である。
騙し絵にだまされてゐる秋の昼いまならもつとやさしくなれる