2017年 11月 16日
坑夫 鈴木千登世
先週に続いて常盤公園のお話を。
公園の遊歩道を正面入り口方面に歩いて行くとオレンジと白の塔が見えてくる。公園のあたりは江戸時代から露天掘りで石炭が採掘されていたところで、宇部炭田の発祥の地。宇部は石炭によって栄えた街。その歴史を後世に伝えるために園内に石炭記念館が建てられている。
オレンジと白の塔は、炭鉱で人や石炭を地底から地上に上げるために使われていた竪坑櫓を移設してエレベーターをつけて展望台にしたもので、地上37m(海抜67m)の展望室からは公園が一望できるほか宇部空港や海底炭鉱のあった瀬戸内海も見渡せる。晴れた日には九州や四国の山々まで見えるという。
飛行場の向こうの海の底に海底炭鉱があった
館内には炭鉱関連の資料が収蔵、展示されているほか海底炭鉱のモデル坑道が造られていて坑内の様子を体験できる。炭鉱で働く人の住居も再現されていて、当時の暮らしが垣間見られる。
石炭記念館へのスロープの傍らに彫刻家荻原碌山の「坑夫」が置かれている。
力強さと静かな意志。心を捉えて離さないものがある。
教えてくださったのは、山陽小野田市の短歌大会で選者としてご一緒した木下幸吉先生。今年は仕事の都合で参加が適わなかったけれど、温かく実感のこもる先生の歌評はいつまでも聞いていたい。先生ご自身が技術者として炭鉱で働かれていて、展示品の中にも歌が紹介されている。
1階の入り口の本棚には関係書籍と並んで先生の歌集『炭鑛(やま)の日々』も展示されている。
坑底に靄低くこもる朝なり三番明けを腕組みて昇坑る
閂を微動して噴き出す断層水のしぶきに濡れつつ一夜明けたり
ガラス戸に鍵掛けてゐます母の影夜勤のわれは振り向きてゆく
『炭鑛の日々』
厳しい作業と現場で働く者の実感が韻律に乗って立ち上がってくる。
記念館の前に植えられているメタセコイア(石炭の原木)
絶滅した種と思われていたため「生きている化石」と呼ばれることも
『炭鑛の日々』閉ぢてしばらく目を瞑る労働の歌の清らかな声