2017年 11月 07日
第76回西日本文化賞祝賀会 藤野早苗
11月3日、第76回西日本文化賞祝賀会(@天神スカイホール)。
今年の受賞者4名の中のお一人、伊藤一彦さんのお祝いに参加させていただきました。
今年の受賞者のみなさま(西日本新聞 11月4日掲載の写真をお借りしています。)
西日本文化賞とは、九州の文化発展に貢献された方々の業績を顕彰するため、西日本新聞社(旧福日新聞社)が1940年に創設した賞。昭和15年の第1回の受賞者に火野葦平、16年の第2回には北原白秋、福田平八郎、17年には横光利一、坂本繁二郎…、などなど錚々たる名前が並ぶ。昨年、第75回には、『細胞のオートファジー』研究でノーベル賞を受賞した大隅良典氏が受賞されています。
私がお邪魔したのは、贈呈式終了後の祝賀会。受賞4氏を寿ぐ、華やかな席でした。4名のみなさまに受賞のことばをいただいたのですが、その中で印象に残ったことを少しだけ紹介いたします。
山下俊一氏(長崎大学学長特別補佐)
・放射線被ばくによる甲状腺がんの研究をはじめ、放射線災害医療学の確立と発展に寄与した功績
山下氏は1990年からチェルノブイリ原発事故の国際医療協力プロジェクトに参加。「放射線と甲状腺」の研究分野における第一人者。2011年3月の東日本大震災に伴う福島第1原発事故では直後から福島入りし、緊急被ばく医療態勢構築を支援。放射線災害医療学の確立を主導した方です。山下氏が憂えているのは、放射線に関する中途半端な知識がもたらす風評被害。被災者の最も身近に寄り添い、治療に携わった方ならではの懊悩が感じられました。
「長崎と広島は全力で福島を応援します。」
知のみの人ではない、「動」と「情」の研究者なのだと思いました。
森田浩介氏(九州大学大学院理学研究員教授)
・113元素ニホニウム(Nh)を発見、命名し、アジアの国で初めて元素を周期表に加えた功績。
自然界に存在する元素は、原子番号92のウランまでで、93番以降の元素は、元素同士を衝突させて人工的に合成するのだそう。(えーっと、どういうこと?)新元素が新元素と認められるまではかなりのハードルを越えなければならず、そうした試練を乗り越えて113元素を発見したことは、日本の科学技術の高さを世界に示すことになりました。そのたゆまぬ研究努力、忍耐に敬服です。森田氏はおっしゃいました。
「東日本大震災の折、福島の原発事故で失われた、日本の科学技術力への信頼を取り戻したい。基礎化学がその一助になることを信じている。」
現在は新しい実験装置を使い、119、120番元素の発見を目指していらっしゃるとのこと。是非、成功していただきたい。
松本零士氏(漫画家)
・数々の傑作を世に送り出して人々に夢とロマンを与え、漫画文化を広く普及させた功績。
もう改めてご紹介する要もないほど、日本を代表する漫画家、松本零士氏。「宇宙戦艦ヤマト」「銀河鉄道999」、憧れました。夢中で読みました。お会いできる機会が巡ってくるなんて思いもしませんでした。ファンです、とお伝えするだけで精いっぱい。いや、よく話しかけたな、自分。松本氏のお話で印象的だったのは、どんな困難も「なにくそ、負けるもんか」という北九州人魂で乗り越えてきた、ということ。経済的な問題や、その他もろもろ、機会に恵まれていないと感じている人も挫折を味わった人も、夢をあきらめずがむしゃらに突き進んで行くと、道が開けてくる。年があけたら80歳だが、これからもまだまだ現役。描き続けるという力強いお言葉を聞くことができました。そして、ご本人は、贈呈式当日の装いがカジュアル過ぎたのではないか、と恐縮しておられましたが(スーツがみつからなかったのだそう 笑)、私としては、That‘s松本零士.という感じでとてもいいと思いました。会場にはメーテルさんもご来場でした。
伊藤一彦氏(歌人、若山牧水記念文学館館長)
・優れた歌作と研究、精力的な普及活動によって短歌文学と地域文化の発展に寄与した功績。
短歌に関わる人間なら知らない者はない、伊藤一彦氏。牧水研究家として、また高齢者短歌、短歌甲子園など、短歌普及に尽力する先導者として、常にパワフルに活動していらっしゃいます。「筑紫歌壇賞」創設など、福岡にもゆかりが深く、お会いするたびにお声をかけていただくのですが、あらためてこのような栄えある席でお会いすると、実はすごい歌人なのだと認識を新たにさせられます。日頃の非礼、ご容赦下さい。南の魚座メンバーを代表してお詫び申し上げます。伊藤氏のお話は、風土が芸術を育てるということ。北には北の、南には南の作物が育つ。風土性というのは、藝術の魅力の1つなのだとおっしゃいました。そして、今回の受賞で最もうれしいのは、短歌という文芸が、他の人文科学と同等の評価を得られたということ、だとも。たしかにそうですが、それはやはり、歌人伊藤一彦の功績あってのこと。言い換えれば、伊藤氏の、短歌以外の場への開かれたアプローチが短歌の社会的地位を引き上げたということでしょうか。会場へは俵万智さんからの祝電も届き、花を添えていました。
生来のひきこもりで、華やかな場所へ出る機会もないのですが、このように貴重なお話を間近くうかがえて、来てよかったと実感しました。
ご一緒させていただきました青木昭子さん、隈智恵子さん、たけすゑ澄子さん、桜川冴子さん、ありがとうございました。
左は金子洋士さん。宮崎県立図書館館長さんです。
伊藤さんの言葉の「風土性」、最近、気になっているところでした。
早苗さん、南の魚座を代表してのお詫び……恐縮しております。Cz.