2017年 08月 15日
迦具土神 藤野早苗
「歌壇」9月号が届いた。
本号に、拙作「迦具土神」12首を掲載していただき、滅多に無いことなのでとてもうれしい。
ありがとうございます。
いらん世話とは思いつつ、迦具土神について少々。
迦具土神(かぐつちのかみ)
伊邪那岐と伊邪那美の最後の子。
迦具(かぐ)は輝くの意。かぐや姫と同じ語源。土(つち)は「つ」+「ち」で、「~の」+「神」の意。
『古事記』では
火之夜藝速男神ひのやぎはやおかみ
火之煆毘古神ひのかがびこのかみ
火之迦具土神ひのかぐつちのかみ
『日本書紀』では
軻遇突智かぐつち
火産霊ほむすび
このような表記から、迦具土神は、
輝く火の神
の意とされている。
その華やかな命名に逆らうように、この神の出自は昏い。
迦具土を産んだ伊邪那美は、その時陰を焼き、落命してしまう。それを嘆き悲しみ、怒りに駆られた伊邪那岐は、その場で我が子迦具土の首を刎ねるのだ。
それが、あの伊邪那岐の黄泉津比良坂行きの契機となり、死後という不可逆性の概念はここをもって明言されたと言えるだろう。
神話の寓意性に驚かされる。火と死は分かち難く存在しているのである。
さて、自解のようで恐縮だが、「歌壇」9月号の作品制作時は、ちょうど共謀罪成立時期。あの真夜中の強行採決に、いよいよ…という印象を持ったのは私だけではないだろう。
何かとんでもないものが生まれてしまった。
それが、一連の源である。
国産みの最後に生まれ、自らを産み出したものを滅ぼした火の神、迦具土神。
われら火食われら墓あり鳥獣はみな寒食し墓もあらずも 高野公彦
ヒトに文明と尊厳を付与した「火」の暴走が始まっている。
この星に播かれしあまたの火種より火の手が上がる今日敗戦忌
2017年8月15日
「歌壇」9月号ご紹介
うたびと四字熟語 平和万歳
池田はるみさん、大好き。
巻頭20首
まつぶさに戦い遂げし一兵の『山西省』なる生の酷薄 久々湊盈子
水を呑み水を吐きたりいのちとはたやすくとりおとすものなり 真中朋久
〈特集 時代を読み、詠む-短歌とともに時代を考える〉
「常識・過去・重層性・多様性」松村正直
・キシヲタオシ…、ひつじごろものしんぞうをあやめたきまで尖る心は
三枝浩樹
難しい一首。松村氏のこの作品の鑑賞が秀逸。とても面白かった。ここはぜひ、ご購読下さい。重層性が切り口ですね。
そして、この稿の結び。ちょっと引用。(自戒を込めて)
何か大きな出来事や事件が起きるたびに、反射的に歌を詠んでみたところで力のある歌にはならない。また、自分の思いや主張をストレートに述べる歌には強さがあるが、歌としての出来はどうかという観点も忘れてはならないだろう。短歌が単なるスローガンとなってしまえば、それは歌人にとっての自殺行為である。そのことに対しても十分に注意深くありたいと思う。
それにしてもほんとうに迦具土、切ない。そのことがないと神話がすすまない、と言っても。
「歌壇」、ゆっくり読みます。Cz.
晶子さん、昭和の遺産は、私のこと。ヘリテージと言えばかっこいいのでは?と思っています。S.