2017年 06月 25日
藍のひといろ 大西晶子
数日前に朝顔の苗を定植した。わが家の朝顔は、もう10年以上前から、新しい種を買わず、庭でできた種を翌年播いている。確か臙脂色や白、絞りなどの種類があったはずなのに、気がつくと全て同じ藍色だけになっていた。
一昨年も昨年も毎年同じ藍色の花が沢山咲いた
。
藍色の朝顔が咲くと、2年前の今日、2015年6月25日に亡くなられた辻本美加さんを思い出す。今日は3回忌にあたる。
五十歳という若さで亡くなられた美加さん、しかも長女の藍さんを十九歳で亡くされて6年後のことだった。
亡くなる直前まで、ご自分の死よりも残されるご家族のことを案じて居られたと、親しくされていた海老原光子さんからお聞きして本当に悔しかった。
どうしてこんなにひどいことを神様はなさるのだろうと思ったものだ。
タイトルは集中の〈大鉢に藍ひといろのあさがほがひらきて藍の輪唱をなす〉に拠る。亡くなられた藍さんへの思いのこもった歌だ。
美加さんの歌集『藍のひといろ』の歌を、高野公彦氏は帯の文に次のように書かれている。
天草に生まれ育った辻本美加さんの作品は、天草の豊かな海の光をまとつている。
人生の途中、大きな不幸に出会ひ、悲嘆に沈んだが、くじけず立ち直つた。島娘の底力といふべきか。歌を詠むとき、対象の切り取り方がまことに手際よく、小気味よい。ユーモアのセンスもあり、読む者を泣かせつつ、また楽しませてくれる。
美加さんの作品を『藍のひといろ』から引いてみる。
・歌は生きる恩寵なればスーパーにキャベツの玉を選(え)るときも生(あ)る
・わがことのやうに喜ぶ心根はわがこと喜ぶよりも尊し
・いつの日か風のチケットわれに来て風に還らむことを希(ねが)へり
・ただ人にもどりし時貞少年の首抱きしやその母マルタ
・常盤なる木であることは疲れぬか夕日に昏む千年の楠(くす)
・どこまでもずつとはしつてゆきさうでいつも帰つて来る男なり
・月光も死者も声持つゆふつかた花梨の幹に雲紋のあり
・無花果が花嚢の中に隠しゐるむすうの小花、むすうの秘密
・どちらかを一人にさせるサヨナラがいつか来るなり微温燗(ぬるかん)つける
悲しい歌もあるが、どの歌も他者への思い遣りとやさしさに満ちて、読むと胸に沁みる。美加さん自身には耐えがたいほどの悲しみがあったのに。
病気になって以降の美加さんを支えたのは、家族の愛と、歌への思いだったとおもう。
このブログのタイトル「南の魚座」はもともとは美加さんと、このブログの月曜日担当のななみさん、前出の海老原光子さんの3人が創った小歌誌の名前だった。たった一号で終わったその歌誌に、病状の進んでいた美加さんは文を書き歌も寄せていた。
美加さんが「どこまでも走ってゆきそうでいつも帰ってくる」と詠んだご主人の浩さんは今、コスモス福岡支部に入られ、活躍されている。私たちのこのブログの顧問のおひとりでもある。
このご縁は美加さんからの贈り物、長く大切にしたい。
それにしても大分から福岡に引っ越しをされてこれからずっと一緒に活動できると思っていた、私よりずっと若く笑顔がさわやかだった美加さんにもう会えないと思うと本当に寂しく残念だ。
藍色に咲くあさがほの一輪は辻本美加さんのすずしき笑顔 晶子
りかさん、お誕生日おめでとうございます。われわれ、美加さんの分もがんばって生きなければ。E.
美加さん。Cz.
美加さんのことは決して忘れません、短い出会いでしたが、お会いできて良かったです。A
いろいろ書くと長くなりますので、思い出話は改めて。いずれにしてもありがとうございます。