2017年 05月 16日
和装の理由(わけ) 藤野早苗
毎週水曜日は和裁の日。
今は祖母の箪笥にあった古い龍郷大島を仕立て直している。
龍郷大島の裏を取り、解体。洗ったのち、アイロン。
再び、背縫い、脇縫い、衽を縫い付けたところ。
胴裏に深い緋の八掛を縫い合わせて今回は終了。
私の着物歴は3年目。外出するときはほぼ着物。洋服で出かけようと思っても、新しい服を買っていないので、結局あきらめることになる。その点、着物はいい。流行がないので、季節さえ外さなければ何十年前のものでも着用可。実際、私の着物の多くは祖母や、母、叔母、知人からのいただきものだ。
洋服を着ていたころは、買ったその足で補正屋さんに持ち込んでいた。抜け首、なで肩、扁平でくびれのない胴、太い手脚…。この身体で洋服を美しく着こなすには、洋服自体に立体感を盛ること、そして、ハイヒールでボディバランスを整えること、これが必須であった。若いうちはそれも楽しかった。しかし50も半ばになった今、目まぐるしく変わる流行を追うのすら面倒だし、扁平幅広のエジプト足を細いヒールに押し込んで、腰痛、肩凝り、頭痛に苦しむなんて真っ平である。ではカジュアルな服装を、と思っても、志垣太郎似の舞台顔には似合わない。
そんな私の救世主が着物。洋装には欠点となる身体的特徴が、和装には理想的条件である不思議。非常に安価なウールの着物を着ていても、見ず知らずの方からお褒めの言葉をいただくことしきり。すれ違いざまに呼び止められて、「うちの箪笥の着物、もらって下さらない?」と言われたこともある。(もちろん鄭重にお断りしました。)着物がきっかけで生まれるコミュニケーションはなかなか独特で面白い。
「でも着物って着るのが大変でしょう?」
「あんなに紐で締めて苦しくない?」
ええ、たしかに。
着始めたころは1時間半かかっていた着装も、今はどうにか15分。振袖などの見せる着物は補正も丁寧に、作り上げなければならないだろうが、紬やウール、木綿の着物はいくら高価であってもカジュアルライン。ざっくり、楽に着ればいい。紐も、締めるというより、押さえる感じ。お端折りを作る腰紐だけは、背中側の第4脊椎できゅっと締め、お臍の上あたりでしっかり結ぶ。身体のサイズは実は毎日違う。洋服のウェストサイズは変えられないが、着物は纏い方ひとつでサイズ調節可能なスーパークローズだ。
古い結城縮の単衣に科布(しなぶ)の帯。
科布は、科の木の繊維で織った布。
科布は現在、生産数が少なく、高価な素材となっているが、
この帯は暖簾からのリメイク。
長さが足りないのでうちにあった麻のテーブルランナーを縫い付けた。
要するにただの幅30センチ、長さ3メートルちょっとの布。これでも帯になる。着物って自由。
むらきもの今日の在り処を探りつつ胸ひも腰ひも打つ位置を決む
Cs