2016年 12月 15日
合同出版記念会 鈴木千登世
12月4日。アルカディア市ヶ谷で、平成28年度後期 コスモス会員著書合同出版記念会が開かれました。今年度後期に出版された11歌集について著者をお迎えしてのその作品紹介の会です。全国(カナダからも)から会員が集まりました。晴れやかで華やかで、祝福の思いに満ちて…
今回も盛会でした。批評紹介時間は1歌集13分。短い時間に、紹介者は背景などにも触れつつ作品を語ります。紹介者の個性と作品の世界が重なる語りに魅了されます。日頃の慌ただしさを忘れてとっぷり短歌に浸った、良きものに満ちた時間でした。
アルカディア市ヶ谷
それぞれの歌集から1首ずつご紹介します。
青春はさみしい檸檬あのころの理想に遠い今をいとしむ
『さみしい檸檬』 大西淳子
涅槃図に忘れられたる猫の来て描き込めと言ふ筆を銜えて
『般若心経・南北朝篇』 島田紘一
川の辺のさいかちの実は弾け飛び遠く流れて根付くもあらん
『さいかちの実』 菊池左多子
冷蔵庫は寒かつたらう白菜に小さきバッタが潜みてゐたり
『共命鳥』 谷村孝子
わが系譜米大陸に拡がりぬ男孫二人を始まりとして
『カナダの桜』 佐藤紀子
三十年使い馴れたるぐい飲みの罅にかぐろき酒焼けの渋
『ぐい飲みの罅』 藤村 学
消滅はゆるされなくて足場組み原爆ドームまた補修さる
『梅雨空の沙羅』 宮本君子
それぞれに味はひありき歎異抄父より夫より子より聞きつぐ
『けふの水澄む』 早島和子
石鹸はむかしの朝の匂ひなりむかしの朝の父のひげ剃り
『馬上』 小島ゆかり
恩寵といふべし癒ゆるに遠けれど妻にたしかないのちあること
『花西行』 桑原正紀
〈宮柊二〉インタビュー時に宮英子インタビューとなりき柊二黙して
『ビビッと動く』奥村晃作
今回は小島ゆかり氏、桑原正紀氏、高野公彦氏による特別鼎談として、「コスモスの歌の現在」というテーマで、紹介された歌集から3氏が一首ずつ選んでの講評が行われました。3氏それぞれの新たな角度からの鑑賞によって作品がいきいきと立ち上がってくるようでした。先に挙げた奥村さんの歌については、インタビューの時の宮先生と英子先生のエピソードが語られ、ほのぼのとした思いが会場を包み込みました。りかさんのブログにありましたが触発されるもの多くありました!
その後は、会場を変えての懇親会。選者の方も多く出席され親しく声をかけてくださいます。コスモス賞、純黄賞の授賞式があり、純黄賞は青森の薄葉茂さんが受賞されました。祝福していただいたこと本当に嬉しく思いました。
初対面の方も作品を知っているので旧知の方のようです。会場のあちこちで会話が弾み、温かく和やかに夜は更けていきました…
歌詠むは小さき宇宙生むに似てその真しづかな引力に集ふ 鈴木千登世
いつか、お目にかかれる時を楽しみにしております。Y.