2016年 08月 26日
松葉牡丹
夏の始めにプランターの手入れをしていると、なぜか父が好きだった松葉牡丹が小さな芽を出していた。さっそく別の鉢に植え替えた。
子供の頃に住んでいた長崎の家の玄関先の小さな花壇にも、父が元気な頃は実家の玄関先にも、夏になると松葉牡丹が花を咲かせていた。
なぜ好きなのかと尋ねると「宮先生も育てておられたから」と答ていたっけ。
宮柊二 松葉牡丹の歌から
熱くなる土としおもふ五月二十八日松葉牡丹を越ゆる蟻あり『晩夏』
乾きたる土に影置きかたまれる松葉牡丹に小さき花咲く
雨となる曇り日の午後秋ふかき松葉牡丹の種子(たね)採りにけり『日本挽歌』
朝光は寂しきものとおもふとき露まみれなる松葉牡丹花
病む父の生きの命の衰へを日々見守るに松葉牡丹咲く『多く夜の歌』
暑き日の朝より差すに庭の隈(くま)松葉牡丹の色こぞり咲く『藤棚の下の小室』
日本のかの日復返(をちかへ)り松葉牡丹あかあか咲けり手記四百篇
その時教えてくれたのが三首目『日本挽歌』巻頭の一首だった。
それならと、私もプランターで育て、秋には種を採っていた。
その習慣が途絶えたのは、何時からだろう。
出所不明の松葉牡丹の花は鮮やかな赤だった。
育つほどに紅を深め、今でもまだ花を咲かせて色味の乏しかったベランダを華やかにしている。
「気持ちを明るく」と父から言われているような気がする。
「みやせんせい」と口いづるときしあはせに溢れてゐたよ父の口許 大野英子
今夜は実家へ行く日。父が大好きだったゆかりさんの、新しい歌集を読んで聞かせよう。きっと写真の中から照れた笑顔を見せてくれるだろう。
朝夕の風は少し涼しくなりました。Y.
今夜は、実家の窓を開け放つと風が気持ち良いほど吹き抜けて、虫の鳴く声も聞こえます。確実に秋は来てるんだなぁ。E.
ゆかりさんの作品ならなおさら。E.